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姉妹バトル! 乙女ゲーム世界に生まれた私たち

作者: ful-fil
掲載日:2026/11/03

 それはある貴族の屋敷だった。

 遊戯室と呼ばれる部屋で、二人の姉妹が小さなテーブルを挟んで向かい合って座っていた。


 裕福さを示す調度品の数々。

 戸棚にはありとあらゆる遊びの道具が用意されている。

 もっぱら客を招いた日に知的な遊びに興じるために使われる部屋である。

 遊びの種類は室内遊戯ならなんでも。

 ポーカー、ブリッジ、チェスといった対戦型遊戯。

 ジグソーパズル、クロスワードパズルといった一人で楽しむ遊び。

 ビオラやフルートなどの楽器もある。

 優雅に、上品に、貴族らしく楽しむための部屋なのだ。


 楽しむための部屋で、美しく高価な品々に囲まれて。

 姉と妹は緊迫した雰囲気で睨み合っていた。


 壁際には見届け人が立っている。

 あくまでも中立の立場で、姉と妹の対決を見届けるために。

 壁掛け時計がボーンボーンと優しい音を鳴らした。


「時間です。始めてください」


 見届け人の声に応じ、姉妹それぞれがサイコロを振った。

 出目は姉が『2』、妹が『6』。

 妹は両手の拳を握り、小さく気合を入れた。

 幸先がいい。

 出目が大きい方が先攻か後攻かを選べるのだ。

 自分には運がある。

 勝てる、きっと勝てる!


「先攻にしますわ」


 妹の先攻でバトルスタート!


 両者、デッキから手札を四枚引く。

 手札を見て、どちらも引き直しはしなかった。

 引いたカードで勝負だ。


「いきます。『社交界の噂』! お姉さまはいつも意地悪なんです!」


 スペル『社交界の噂』(コスト1)が発動。

 どこからともなく令嬢たちがヒソヒソ話を交わす声が聞こえてくる。


『エリザベート様っていつも妹のフローラ様をいじめてるんですって』

『まあ、恐ろしい。でもあの方ならやりそうですわね』

『ええ、そんな感じのお顔ですもの』


「うっ!」


 姉・エリザベートの体力がマイナス1された。

 エリザベートは胸を押さえて呼吸を整える。

 妹の先制攻撃はチクッと刺さったが、かすり傷にすぎない。

 体力は最大20からスタートしている。

 マイナス1されたところで、まだまだ。


 続いて後攻、姉のターン。


「『噂の証明』。それって何月何日? 何時何分何十秒? 場所はどこで誰が誰に何をされたのかしら?」

「はうっ!」


 今度はフローラが胸を押さえる。

 室内に『その日は風邪で寝込んでいました』『その時間には王妃様とお茶をしていました』『その場所は立ち入り禁止なので入っていません』というエコーのかかった音声が流れた。

 令嬢たちの陰口がかき消される。

 妹・フローラの体力にマイナス1。


 第二ターン。

 両者、カードを引く。


「フッ、お姉様。噂を否定したくらいで勝った気にならないでくださいね。おいで、『忠実なメイド』!」


 フローラはフォロワー『忠実なメイド』(コスト2)を場に召喚した。

 どこからともなく地味なお仕着せをまとったメイドが現れて、妹の側に立つ。

 メイドはさも心を痛めていますといった表情で言う。


「なんてお気の毒なフローラ様。ええ、私にはわかってます、どちらに味方したら得になるのか。エリザベート様を排除すればこの家はフローラ様のもの……」


 きっとこのメイドは次のターンでエリザベートに熱々の紅茶をぶっかけるに違いない。

 メイドの攻撃力など大した脅威ではないが、火傷の痛みを味わいたくはない。

 エリザベートは先回りしてメイドを排除することにした。


「スペル『解雇処分』。おまえはクビよ!」


 ああ~……という悲鳴を残してメイドが消えていく。

 『解雇処分』は敵フォロワーを一体だけ破壊するカードだ。

 メイドごときに使うのはもったいないが、エリザベートは自分の玉の肌に傷を付けられたくない。

 危害を加えてくる者はすべて排除する!


「まだ何もしてないメイドをクビにするなんて、冷酷だわ! ひどすぎる!」


 フローラがなんか言ってる。

 まだ何もしてなくても、これから何かする気満々だったのだが。

 出したばかりの手下が何もできずに消されて悔しいのだろう。


「ホーッホッホ。さあ次はどうするのかしら?」


 エリザベートは余裕の高笑いで妹を煽った。


 第三ターン。

 両者、カードを引く。


 フローラがニヤリと笑った。

 いい手札が来たのかもしれない。


「助けてお母様、お姉様が私をいじめるの!」


 場にフォロワー『妹ばかり可愛がる継母』(コスト3)が召喚された。

 扇で口元を隠した継母がエリザベートに悪意の視線を向けてくる。


「姉なんだもの、妹に持ち物を譲るのは当然よね?」

「あーっ、それは……!」


 エリザベートの手札が一枚、取り上げられてフローラの手に渡される。

 『妹ばかり可愛がる継母』は固有能力として、場に出た時に敵の手札からランダムに一枚、奪い取ることができるのだ。

 そして妹のフォロワーとして場に残った継母。

 次のターンでは手に持った扇でエリザベートをしばきにくることだろう。


「くっ……、仕方がないわね。来なさい、『護衛騎士』!」


 場に『護衛騎士』が召喚された。

 鎧兜を身につけた騎士がエリザベートの前に盾として立つ。

 『護衛騎士』の能力は守護。

 さすがの継母もこれを無視して直接エリザベートの顔を殴ることはできない。

 目の前の危険は回避できた。

 しかし手札を一枚奪われたのは痛い……!


「亡くなった母の形見だったのに……!」

「うふ、ありがとう、お姉様。もらっとくわね♪」


 エリザベートから奪った『母の形見のブローチ』をこれみよがしにチラつかせるフローラ。


 続く第四ターンからの展開は次のようになった。


 『不公平な父親』(コスト4)『下の妹を溺愛する兄』(コスト5)を立て続けに召喚したフローラ。

 場に『毒家族』がそろったため、特殊効果『家庭内でつまはじき』でエリザベートの体力がごっそりと削られた。

 エリザベートも負けじとアミュレット『理解のある祖父母』(コスト4)で体力を回復。


「いらっしゃい、エリザベート。私たちと一緒に暮らしましょう」

「おまえは私たちの可愛い孫娘だ。いつでも見守っているよ」


 エリザベートの横でアフタヌーンティーを始める祖父母。

 場に祖父母がいるかぎり毎ターンエリザベートの体力は回復し続ける。


 更にフォロワー『隻眼の辺境伯』(コスト5)をフローラにけしかける。

 『隻眼の辺境伯』の能力は疾走だ。

 片目に眼帯をしたワイルドなイケメンが、毒家族を飛び越えて直接フローラの体力を削りに行く。


「俺の妻にならないか?」

「えっ、でも、あの、そんな、急に言われても」


 殴るついでに口説かれて、どぎまぎして頬を染めるフローラ。

 ワイルドな辺境伯のアタックに胸をキュンとさせられたらしい。

 顔面にパンチを食らっているのに。


「で、でも、私、辺境に嫁ぐわけにはいかないの。ごめんなさい、『聖女認定』!」

「フローラ様を聖女に認定いたしました」


 スペル『聖女認定』が発動し、どこからともなく現れた司教がフローラを聖女に認定した。

 守護の能力を持つフォロワー『聖騎士』が二体、フローラをがっちりガードする。

 辺境伯は追い払われてしまった。


「ええい、鬱陶しい! なんとかしてちょうだい、母の知り合い!」


 エリザベートがフォロワー『鮮血の貴婦人』を場に出すと、滲み出た霧が人の形になった。

 妖艶な美女が場に出現し、父親と兄に流し目を送る。


「あ、貴女は先妻の親友の……!」

「そうよ、私はエリザベートの亡き母親の親友。鮮血の貴婦人アルテミシア。あなたたちの血はどんなお味かしら?」


 『鮮血の貴婦人』は場に出る時に最大4体のバンパイアを召喚する。

 現在、場には『理解のある祖父母』が残っているので、召喚されるバンパイアは一枠減って3体になった。

 3体のバンパイアが聖騎士を襲う。


「邪悪っ! 邪悪だわ、お姉様!」

「そうだ、卑怯だぞ、エリザベート!」

「この国をバンパイアだらけにするつもりなのか!」


 フローラと毒家族がなんか言ってる。


「ふふん、聖騎士さえ始末してしまえばこっちのものよ。やっておしまい、バンパイアたち。フローラの顔を殴るのよ!」

「イヤ、殴られたくない! みんな私を守って!」


 フローラは両親と兄をバンパイアにぶつけた。

 驚愕の表情でバンパイアと相討ちになっていく家族たち。

 鮮血の貴婦人アルテミシアは司教と相討ちになった。

 一人残らず墓場行きである。


「ありがとう、お父様、お母様、お兄様、そして司教様……。みんなの愛情を忘れないわ」

「あなたも大概邪悪よね?」


 可愛がってくれる家族を躊躇なく犠牲にしたフローラ。

 結局、自分が一番可愛いのだろう。

 姉エリザベートも、もちろん自分が一番可愛い。

 根っこは似た者姉妹なのかもしれない。


 そして勝負はいよいよ大詰めに。


「みんなの犠牲を無駄にはしない! くらえお姉様、これが私の最大の切り札、『真実の愛』よ!」


 スペル『真実の愛』発動。

 場に王子が現れた。

 キラキラと麗しい、絵に描いたような王子様。

 それがフローラの手を取り、熱く見つめて語り出す。


「フローラ……私は君を愛するとここに誓う」

「殿下……私も愛しています」

「そしてエリザベート、君との婚約を破棄する!」

「はうあっ!」


 エリザベートの体力にマイナス10。

 エリザベートの体力は半分以下になった。


「おのれ……私の婚約者のくせに……妹のフローラと愛を誓い合うなんて……許せん、死ね!」


 エリザベートの様子が豹変していく。

 体力が半分以下になったため、狂乱状態に陥ったのだ。


「何もかも滅ぼしてやるわ! 来なさい、『暗黒の破壊竜』!」


 エリザベートが召喚した真っ黒なドラゴンが場に雷を降らせる。

 王子とフローラの体力に甚大なダメージ。


「なんで悪役令嬢がドラゴンなんか呼び出せるのよ!?」

「ホーッホッホ! 幼い頃、トカゲだと思って拾って、育ててみたらドラゴンだったのよ……。捨てるに捨てられなくて、今に至るの」

「途中でおかしいって気づきなさいよ! トカゲに翼があるの変でしょ!?」


 もっともである。


「だったらこっちもペットを召喚するわ! いでよ、『拾った子犬』!」


 クーン、と弱そうな声を出す子犬が場に現れた。

 これをドラゴンにぶつけるとは、非情な命令に思われた……がしかし。


「進化しなさい!」


 フローラが進化権を使うと、子犬が巨大な『フェンリル』に変身した。

 これならドラゴンともやり合える。


「ありえないわ! なんでただの子犬がフェンリルに進化するのよ!?」

「聖女の奇跡よ!」


 室内で大型モンスター同士の大乱闘が始まった。

 花瓶は割れるわ、カーテンは破れるわ、大変な騒ぎである。


「ペットの運動が激しいなあ」

「エリザベートや、ケーキを一切れいかが?」

「もぐもぐ……室内で大型モンスターを召喚するもんじゃないわね」


 エリザベートは祖父母により体力を回復され、少し冷静になった。

 狂乱状態から平常心に戻ったのだ。

 そんなエリザベートを瀕死の王子が殴りに来た。


「死ね、エリザベート! 真実の愛のために!」

「死ぬもんですか! 『忠実な従者』、進化しなさい!」


 召喚された『忠実な従者』は場に出現した瞬間こそ地味なお仕着せ姿だったが、たちまちその姿を変える。

 お仕着せを脱ぎ捨て、眼鏡を外し、長い前髪をかき上げたその姿は……王子に勝るとも劣らない美青年!


「『帝国の皇太子』見参!」

「なんで『帝国の皇太子』がエリザベートの従者をやってるんだよ!?」

「訳アリなんです。ともあれ正体を明かしたからには、小国の王子など敵ではない! くらえ、スパダリパーンチ!」

「あーっ……!」


 『帝国の皇太子』にぶっ飛ばされる王子。

 王子は儚く墓場へと消えた。

 真実の愛も消えた。


「そんな……私の真実の愛が……」

「ホーッホッホのホッホだわ。どうやら勝負あったようね」


 エリザベートに寄り添う皇太子。

 横でお茶を飲みながら孫娘を回復し続ける祖父母。

 ドラゴンとフェンリルは相討ちになって消えた。

 フローラを守る者はいない。


「……まだよ、まだ負けないわ」


 フローラの背後に青白い炎が燃え盛る。

 彼女の目はまだ死んでいない。


「私には夢がある、この国の王妃になるという大きな夢が!」

「野心むき出しね」

「散っていった仲間たちのためにも、私は諦めるわけにはいかないの!」

「いえ、諦めればいいんじゃない? もう勝ち目はないし」

「フッ、甘いわね、お姉様」


 フローラはエリザベートから奪い取った『母の形見のブローチ』を場に叩きつけた。

 ブローチが粉々に砕け、怪しい魔力が放出される。


「墓場から仲間たちを連れ戻すわ! スペル『死者蘇生』よ!」

「お母さまの形見にそんな力があったの!?」


 驚愕するエリザベート。

 墓場から蘇る死者たち。

 継母、父親、兄、聖騎士二人、司教、王子、クビになったメイド……。


「メイドは解雇されただけで死んでなかったわよ!?」

「細かいことはどうでもいいのよ!」


 フェンリルまでもが生き返った。

 敵に囲まれ、エリザベートは絶体絶命のピンチ!


「死んでちょうだい、お姉様! そして『帝国の皇太子』も私にちょうだい!」

「あげるもんですか、この欲しがり妹がー!」

「ちょーだいったらちょーだい」

「イヤったらイヤー! あなたにあげるくらいなら……」


 エリザベートは最後の切り札を高くかざした。


「Sレアカード、『アンティキティラの歯車』! やり直しましょう、何もかも!」


 謎めいた機械が場に出現した。

 金色に輝く円盤といくつもの歯車が無数に噛み合う複雑な機構。

 誰が手を触れたわけでもないのに、その歯車が金属音を立てて回り始め……。


 世界が暗転した。



※



 そこはある貴族の屋敷。

 様々な娯楽用品が備えられた遊戯室。

 テーブルを挟んで向かい合う腹違いの姉妹。

 室内にいるのは姉妹の他には見届け人だけ。

 カーテンは破れていないし、花瓶も割れていない。

 静謐の中、壁掛け時計の時を刻む音だけが聞こえる。


「……巻き戻ったの?」

「……どうやらそのようね」


 テーブルの上には手つかずのデッキ。

 

「……最初からやり直しなのね」

「……ええ、そうね」


 姉妹の間に見えない火花が散る。


「ずるいわ、お姉様! 私の勝ちだったのに!」

「ずるいのはどっちよ! 私の母の形見を奪うし、婚約者を奪うし、帝国の皇太子も奪おうとしたくせに!」

「私の方が可愛いから仕方ないでしょ!」

「言っておきますけど、頭がいいのは私の方ですから」

「何それ、私が馬鹿だって言うの!?」

「言ってませんけど~? 自分で言ってるだけなんじゃな~い?」


 見届け人が口喧嘩の仲裁に入る。


「はいはい、喧嘩しないで。そろそろ始めますよ」


 壁掛け時計がボーンボーンと鳴った。

 姉妹は顔を見合わせた。

 互いに不倶戴天の敵。

 だが今彼女たちはお互いの手の内を知った。

 フローラは姉に『暗黒の破壊竜』『鮮血の貴婦人』『帝国の皇太子』などが味方すること、『母の形見のブローチ』や『アンティキティラの歯車』といった強力なアイテムを持っていることなどを知っている。

 エリザベートは妹が『真実の愛』で婚約者を奪い取ること、『聖女認定』で聖騎士や司教を味方につけること、毒家族を呼び出すことなどを知っている。


「……私、デッキを変更したいかも」

「……私もよ。別のデッキにしましょう」


 姉妹は二人ともデッキを新しい物に取り替えた。

 これでもう相手の手の内は読めなくなった。

 もっと凄い切り札を持っているのかもしれない。

 だが負けるつもりはない。

 欲しがり妹と悪役令嬢、共に自信家の似た者姉妹。


「覚悟はよろしくて?」

「そちらこそ」


 あらゆる手段を使って相手を引きずり降ろす。

 勝つのは自分だ、と両方がそう思っている。

 負けない、絶対に。

 サイコロ、コロコロ……今度は姉が先攻だ。

 見届け人が開始の合図を出す。


「準備はよろしいですか。では始めます。……バトルスタート!」





<完>

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― 新着の感想 ―
デュエルッ!!!
なんとなく、昔少年ジャンプで連載されていた遊戯王を思い出しました。 女同士でカードゲームするとこんな風になってしまうんですね。 この二人の日常生活はどうなのか、考えるだけでオソロシイ……。
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