誕生日プレゼント
「いい加減にしろ」父・大元聡がしびれを切らして怒鳴った。その声が部屋に重く響く。父は建築業に就いていて、仕事一本って感じの人である。大学までラグビーをやっていたらしく、がっちりとした体格で大黒柱という肩書がよく似合う人だ。短髪でかなり目力が強く、腕には特徴的な大きな傷跡がある。そして、笑顔は滅多に見せない。だけど、怒りっぽいわけでもなく、家にいても気づかないくらいに静かだ。僕が明日8月5日の5歳の誕生日プレゼントに「お兄ちゃんが欲しいです」と意味のわからない願いをしつこくねだったからである。
僕は物心ついたときから母が呼んでくれた絵本の影響で兄という存在にとても惹かれていた。何度も断られたが、誕生日ならと父の部屋に行き頼んでみた。
しかし、父はいつものように「だめだ」とはっきり言い切った。
「なんでだめなの?」ときくと
少し話をそらして「弟や妹ではだめなのか?」ときいてくる。
「だめ、お兄ちゃんがいい」
すると、見るからに父は不機嫌そうになった。
「でも、お兄ちゃんをあげることはできないんだ」
「嫌だ、お兄ちゃんがほしいもん」と僕が駄々をこねはじめる。
「いい加減にしろ!」
普段あまり怒らない父が珍しく声を張り上げて怒鳴った。
僕は半泣きになりながら「いいもん、もうママに頼むもん、パパなんて大っ嫌い」と叫んで呼び止めようとする父の声を無視して部屋から出ていき母の下へ行った。
「僕ね、誕生日プレゼントにお兄ちゃんがほしい。パパはケチだから駄目って言ったけどママはくれるよね」と我ながら嫌なねだりかたをすると、「ごめんね」と謝ってきた。その時の母の寂しそうな表情を見た僕は【兄】を諦めた。
結局誕生日プレゼントには を貰った。
しかし、その日の晩「パパには内緒ね」と急に母の部屋に呼び出された。
部屋に入ると明らかに母の様子がおかしい。
手と唇は震え、恐ろしい目つき、いつもの羊みたいにふんわりとしたイメージの母と同一人物か疑わしくなるほど異常な様子で箱のようなものを持っている。そして、母は私が部屋に入るとそーっとドアノブを捻ったまま閉めゆっくりドアノブを戻す。
言われたとおりにドアを閉めると、母は深呼吸をしてから手に持っていた4桁の暗証番号の南京錠がついた少し錆びた金属製の箱を渡してきた。
「悠真、これ誕生日プレゼントよ」
「え、僕もうを貰ったよ」
「これはパパには絶対内緒にしててね」
「ママこれなに?」
「いいわね、絶対よ」
僕の声などきこえていないかのように、母は父に絶対知られないようにと念を押してくる。
「いい?今日から1日に1ずつ数字を大きくしていきなさい」と言う。感じたことのない恐怖を感じた僕は上手く声が出せず、代わりに小さく頷いた。




