第14話 首無し幽霊
風を切る音を出しながら、光の柱が倒れていく。その足元には、少し遠くてよく見えないけど、確かに人影がある。
光の倒れる先にも人影。きっとあれがドレミおねえさんだ。
「見つけたのだ……」
ドレミおねえさんへのグツグツと煮え滾る黒い感情が湧き出てくる。
初めての感情だ。
そんなぼくの気持ちを表しているみたいに、光の柱が人影を呑み込むと、柱の触れた場所は、消滅したみたいな跡形もなくなった。
倒されてたならそれでいいし、まだならぼくが倒して、雫おねえさんを助ける。
光の柱があった場所の上に到着すると、そこには……。
「え……? あれって……」
思わず息を呑んだ。
体の底から気持ち悪さが上がってくる。
だってそこにいたのは。鎧を着て、剣と盾を持って、二つの足でしっかりと地面に立っているのは――
「勇花おねえ……さん?」
首から上のない勇花おねえさんと思わしき人物だったから。
「うっ……おえぇ……」
血が流れ、ぬらりと光る断面に、喉元まで上がってきた気持ち悪さを堪えきれず、胃に溜まったココアを吐いてしまった。
雫おねえさんに貰ったココアだったのに。
ビチャビチャと地面に音が鳴ると、頭のない体がギュルリと音の鳴った方を向く。
間髪容れず、首無しの勇花おねえさんはその場所目掛けて大きく飛ぶと、持っていた剣を叩き付けた。
その威力はとてつもなくて、地面が大きく砕け散る。
「な……なんなのだ、あれ……」
死体が動いてる。
疑問を口にしたけど、こんな摩訶不思議なことが起きる理由なんて一つしかない。
「誰かが操っているのだ……?」
死んだ人を操る魔法少女。もしその予想が当たってるなら、大変なことになる。
だって、戦いが進めば進むほど、その人の戦力は増えていくんだから。
今ここで無力化しておくべきか。ぼくの力ならそれが出来ると思う。けど、死んでいても人間だ。
心が痛まないわけがない。けど、ぼくの……雫おねえさんの邪魔になるのなら……。
ビームを発射しようとした。その時、抉れた地面の近くで、誰かが走り出すのが見えた。
「生きてた……っ!」
やっぱりここに来て正解だった。
顔を歪めながら、必死の表情で走っていたのはドレミおねえさんだ。
ビームの照準をドレミおねえさんに向ける。
「おねえさんを返せ……なのだ!」
羽の内部がキュルキュルと悲鳴のような音を出しながら、エネルギーを溜めていく。
これで終わりなのだ!
エネルギーを溜めたビームを撃とうとした。
けど――
それより速く、勇花おねえさんがひとっ飛びで距離を詰めた。ドレミおねえさんのツインテールの片方が空を舞う。
すると焦りの顔から一変。ドレミおねえさんは血が噴き出すんじゃないかってくらい顔を真っ赤にして怒りを見せる。
「うっざいんだよ! お前!」
続けてドレミおねえさんが「ズッドーン!」と叫ぶと、勇花おねえさんは見えないなにかが衝突したみたいに吹き飛んだ。
「ズバン! ズバン! ズバン! ズバン! ズバン! ズバババーン!」
それだけじゃない。声に合わせて、見えない巨人の剣が何度も何度も地面を砕いていく。
なにが起きてるのか分からない。ただ一つ、それがドレミおねえさんの仕業だってこと以外は。
道路が崩れ去って、勇花おねえさんの姿はまたたく間に見えなくなった。
って、驚いてる暇はない。
生きてるなら殺さないと。
「おねえさんを返せなのだ!」
拡散型のビームじゃない。体の中に渦巻く黒い感情と一緒に、エネルギーを胸元の発射口一点に集めてビームを撃った。
威力だって光の剣なんかには負けない。速さも普通じゃない。当たれば絶対に死ぬ。
ドレミおねえさんも勇花おねえさんのほうに意識がいっていて、反応が遅れてる。逃げるよりもその場で体の前に腕をクロスさせて身を守ることしか出来てない。確実に当たる。これで雫おねえさんが戻ってくる。
「えっ?」
勇花おねえさんが埋もれた地点を通った瞬間、なにかにぶつかってビームは霧のように消滅した。
なにが起きたか一瞬分からなかった。でも、ビームの光が消えると、その理由はすぐに分かった。
進行方向には這い上がってきた勇花おねえさんが盾を構えていた。
盾で防がれたんだ。ぼくのビームがあんな小さな盾に……。
「ぼくの邪魔をするななのだ!」
あと少しで殺せたのに! 絶対に殺せたのに!
邪魔された! 許さない! 許さない!
「邪魔するんだったらお前も死ねなのだ!」
盾に防がれたのなら防げなくしてやればいい。
拡散型で確実に当てる!
左右八つの発射口、それぞれからビームを撃った。
さっきはなんで止められたか分からないけど、頭がないんだ、避けられるはずがない。
と、思ったのに。
「なん……!?」
まるで見えているみたいに走りながら避けられた。
膝を曲げて踏み込むのが見えた。
逃げないと!
その場から離れようとしたんだ。
でも――気付くと、目の前に羽の付いたスピーカーがあった。
「バリバリー♪」
スピーカーから音が響いた。それと同時にスピーカーから出てきた電気がぼくの体に流れ込む。
「ガアアッァ!」
何億って針を一度に刺されているみたいな痛みだ。体の筋肉が言うことを聞かない。
最悪のタイミング。
ぼくの頭上に飛んできた勇花おねえさんが剣を振り下ろしてきている。
防……がないと、……死ぬ!
「あああああ!」
体は動かなくても羽は機械。意識さえあれば動かせる。
包むようにして羽の盾を作った。
剣が叩きつけられると、金切り声の悲鳴みたいな摩擦音が響いた。でもそれはほんの一瞬。次の瞬間には粘土を切るみたいに白く光る剣が入ってきて――羽の盾は斬り裂かれた。




