第11話 手助け
大規模な戦闘が繰り広げられている。
火事が起きたり、落雷が起きたり、戦闘の激化が見て取れる。
見つからないように出来るだけ戦闘地域から離れておかないと。
そう考え、僕――時叶は、幼馴染の綿梨かりんの手を引いて、バイパスと思われる巨大な道路を歩いていた。
「叶ちゃん。み……みんな、戦ってるんだよね」
「そうだね。このまま数を減らしてくれたら楽なんだけど」
「だからそんなこと言っちゃ駄目だよ……。殺し合うなんておかしいんだから……」
かりんがグイッと手を引っ張って言ってきた。
もう何度目の同じような応酬を繰り返している。いい加減飽きてきた。
いやまぁ、別にかりんがおかしなことを言っているわけじゃないんだ。
この世界が、ハートの国がおかしいだけ。生き返りたいという想いを覆す精神力がなければ、みんな悪意に引っ張られて簡単に人を殺してしまう。
「だから僕たちは戦いを避けてるんだろ? かりんがどれだけ殺しに反対しても全員の意見はまとまらない。割り切るしかないんだよ。勝手に数を減らしてくれれば万々歳。後のことは、僕たちだけになってから考えるんだ」
「分かってるけど……」
平和主義。結構なことだ。それ即ち、悪意に呑まれていない証拠なんだから。
自然界では適応出来ない者から死んでいく。
けれどここは作為的に生み出された空間だ。かりんが適応する必要はない。
「しょうがないだろ? 一度起きた波は簡単には収まらない。それどころかたくさんの物を巻き込んで津波や濁流になるんだ。僕たちに出来ることはその波から逃げることだけ」
「……」
諦めきれない。そういう表情だ。
本当にどこまでいってもお人好しなのは変わらない。
だから僕に巻き込まれて、こんなところに来てしまうんだ。
「まぁ、そんなこと言ってる暇なくなったけどね。ほら、あそこ」
僕が空を指差すと、かりんも追って視線を動かす。
「あれって」
「翼だ」
機械音を鳴らしながら近付いてくる。
目元を赤くし、泣き腫らしているのが遠くからでも見える。
小動物みたいな子だから逃げてきたんだ。
「助けてほしいのだ!」
ほらね。
降り立って早々に救援要求だ。
鼻水と涙で顔もぐちゃぐちゃ。
「ど――」
事情を聞こうとするかりんの前に立つ。
かりんはすぐ情にほだされる。それで何回痛い目を見てきたか。
ここは僕の役割だ。
「なにがあったの?」
「雫おねえさんが殺されちゃう! 助けに行ってほしいのだ!」
なるほどなるほど。
同盟を組んだ相手を助けてほしいと。
反吐が出るね。
「なんで?」
「なんでって……。雫おねえさんが殺されちゃうのだ!」
「だったら自分で助けなよ。同盟相手なんだろ? 僕たちに命賭けさせる前にさ、普通、自分が命賭けるべきだよね。自分は戦いません。見返りもありません。だけど助けてほしいですって。虫が良すぎない? せめて一緒に戦ってほしいですって言うのが筋でしょ。そもそも僕からしたらキミは対立する敵なんだけど?」
「え……? あっ……。へへ……」
「なに笑ってんの? 言っとくけど、笑ってたってやり過ごさせないから。なあなあで終わらせるつもりないから」
翼は困惑した表情で笑みを浮かべている。
何度見ても気持ちの悪い笑顔だ。そうやって笑って物事を済ませてきて、なにが得られるのか。残るのなんて惨めさだけだろうに。
「どうすんの? そうやってやってる時間あるの?」
「あっ……へへ。へへ……」
イライラする。はっきり言えばいいのに。どうして翼は黙るのか。
分かってる。僕の態度が翼の態度を助長させているんだってことくらい。でも、それでもムカつくものはムカつくんだからしょうがないじゃないか。
聖人君主になれって言われたって無理だ。
それでだ。こうなるといつものパターンが起こる。
僕は目つきも悪いし、愛想もない。気も遣えないから、こうやってトラブルを生む。
そうするとやってくるのが――
「叶ちゃん!」
かりんだ。
本当に困ったものだ。こっちはかりんが危険な目に合わないように立ち振る舞ってるっていうのに。肝心の本人がズカズカと茨に突っ込んでいってしまうんだから。
臆病なくせに、勇気を振り絞れる善人のなんて厄介なことか。
僕の目的は戦闘を避けることだ。最後まで生き残る為にも戦地に赴くわけにはいかない……わけだけど、翼と出会ってしまった時点で、それは叶わない。
「えーっと、翼ちゃん……だよね?」
かりんが固まっている翼の目線に合わせて聞いた。
「大丈夫だよ? ゆっくりでいいから。わたしたちはなにもしないから。ね?」
優しい声で投げかけた後、キッと鋭い目がこちらに向く。
「叶ちゃん、謝って」
怒っている。
こうなったかりんは厄介だ。頑なで融通が利かなくなる。
言い合いをしてもいいけど不毛な争いになるだけだ。
つまりこちらが大人になるしかない。
「はぁ……、分かったよ。ごめん、言い過ぎた」
面倒だけど頭を下げておく。
これで謝罪の意思は伝わるだろう。
顔を上げると、翼の笑顔がヘラヘラしたものから困惑した笑顔へと変化していた。
まさか謝られるとは思っていなかったらしい。
数秒の沈黙の後、翼はおどおどと口を開く。
「いや……あの……、ごめんなさ……ありがとうなのだ」
「別にお礼とか求めてない。まどろっこしい話は嫌いだからさ、先に結論だけ言うけど手伝ってあげるよ。どうせかりんは協力するだろうから」
「本当なのだ!?」
暗い顔が日の出が闇を照らすように眩しい笑顔に変わる。
単純というか、裏表がないというのか。
なんでもいいや。それよりも翼にこれだけは言っておかないといけない。
詰め寄って伝える。
「言っておくけど、僕は死ぬ気はない。死にそうになったら躊躇なく逃げるから。たとえキミと同盟相手が死にかけていてもだ」
「分かった……のだ」
さすがに手伝ってもらうということもあって、そこは聞き分けはいいらしい。
まぁ、ごねられても意見を曲げるつもりはなかったけど。
ここまでは予定通りだ。このまま上手く進められればいいんだけど……。
「やるしかないんだよね」
痛いのも苦しいのも嫌だけどやるしかないんだ。かりんを守る為にも。
だから僕は選択を間違えるわけにはいかない。
「かりん」
今度はかりんに詰め寄る。
「キミは僕の言うところに隠れて能力を使うんだ。あと、絶対に殺そうとかそういう考えは浮かべないこと。後戻り出来なくなるから。分かった?」
「でも、それじゃあ……」
僕と翼の危険が増すと言いたいんだろう。
だからなんだ。僕にとってはかりんが傷つくほうが遥かに問題だ。
だから譲る気はない。
「分・かっ・た?」
「……わ、分かったよ……」
気圧されたのか、元の調子に戻ってかりんは答えた。
「ありがとうなのだ!」
その横で翼は頭がもげそうな勢いでお辞儀をしてくる。
「いいからさっさと行こう。空を飛ぶのは駄目だからね。狙われる」
「分かったのだ」
今度はしくじらない。
そう決意して、僕は戦地へと赴く。
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