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量産型ピンク髪、第三王子と起業する  作者: さいべり屋


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2.第三王子と起業する

閲覧いただきありがとうございます。

本エピソードは、全3話のうち2話目です。

最終回は明日21時に更新します。ほのぼの商売繁盛ラブコメ。ハッピーエンド保証です。

それから、アスラン様は先生を脅して「スタートアップ研究会」を立ち上げ、魔石の販売・充填サービスを開始。


魔石の大きさで値段は違うけど、最大1000ゴールド。とんでもないボッタクリだけど、飛ぶように売れた。


先生も一度買いに来てくれたけど、高笑いするアスラン様に追い返されていた。


わたしはあっという間に弁償を終わらせて、村に仕送りまですることができたけど、ちょっとぎゅってしただけのものを1000ゴールドなんて、暴利をむさぼっているようで気が引ける。


アスラン様にそれを伝えると、


「いいか、何にでも適正価格というものがある。ただ安いだけというのは善ではない。第一に市場を混乱させ……」


なんだか難しいことを色々言われたので、逆らわないことにした。




アスラン様は「お前は自分の価値が分かっていない。有象無象に貪らせるぐらいなら俺を儲けさせろ」と言って、わたしの一挙手一投足をマネタイズし始めた。



「クレア! タダでポーション配るなって言っただろ! 適正価格で販売してやるから俺に全部卸せ」


「ええー? でもこれ下級ポーションだし、お金とるほどのものでもないですよぅ。わたしポーション下手で、あんまりいい性能のもの作れなくて。欠損再生もできないし」


「だれが国宝級のエリクサーの話をしている!」


スタートアップ研究会の業務内容に、ポーション販売が加わった。



「クレア! 学園の洗濯物をすべて引き受けているというのは本当か!」


「はい~。掃除のおばちゃんに頼まれちゃって。水球で包んで風魔法でくるくるすると簡単にきれいになるんですよぅ。でも火属性がないから乾燥はできないんです。パン屋のおじさんみたいに全属性ならよかったんだけど」


「アホか! そいつは給金もらってるんだろ! タダでやらされるな!」


スタートアップ研究会の業務内容に、洗濯代行が加わった。



「クレア! このお守りを持っていると物理攻撃が効かないんだが?!」


「あっ交通安全のお守りですね~。可愛いでしょ? 今度のバザーに出そうと思ってるんですよぅ」


「却下! これは騎士団に出し惜しみしまくって勿体つけながら高値で売りつける! 『収益の一部は慈善団体に寄付させていただきます』とでも書いておいてやるから心配するな!」




アスラン様は、わたしのちょっとした特技を見つけては、あっという間にお金儲けにしてしまう。そんなとき、アスラン様の瞳は小金(こがね)色に輝いている。


「お前ら何でもかんでもこいつにタダで頼むな! すべてマネージャーの俺を通せ!!」


アスラン様が(まなじり)を吊り上げて蹴散らしてしまうので、ウィンドウショッピング友達はまだできていない。でも、アスラン様がいつもわたしにつきまとっているので、なんとなく寂しくはなくなっていた。


わたしなんかのやったことで喜んでもらえるなら、別にお金はいいかなって思うけど、そういうのは自分を大切にしない行為だって、アスラン様にすごく怒られる。


几帳面な字で帳簿をつけているアスラン様に、前々から気になっていたことを聞いてみた。


「王子って、第三王子なんですよね。お金がないわけでもないのに、なんでお小遣い稼ぎなんてしてるんですか」


「第三王子だからだ」


アスラン様はわたしにちらりと視線を寄越すと、なんでもないようにまた帳簿に目を落とした。


「王子と言っても側妃腹の第三王子だから、継承権もあってないようなものだ。公爵位を賜れるかも怪しく、卒業後は市井に下ることが決まっている。だから今のうちに自分の食い扶持ぐらいは稼げるようになっておく必要がある」


なんだか悪いことを聞いてしまったような気になって、わたしはもじもじした。


「わたし、王子は目も服もピカピカだし、お金持ちの道楽だと思ってました。生活のためにやってたんですね」


「目は関係ないだろう」アスラン様は気が抜けたようにフッと笑った。


「……まあ、今となっては、それだけでもないかもな。自分がやったことが結果になって返って来るのは、楽しい」


照れたようなアスラン様の横顔を見ながら、わたしはお金持ちとかにあんまり興味はないけど、彼が望むならちょっとくらいは手伝ってあげてもいいかなって。



迂闊にも、そう思ってしまった。





その日はちょっとのんびりした一日で、アスラン様はどこからか調達してきた魚の干物でミケちゃんの気を引いていた。


「使い魔って干物食うんだな」


ご馳走にがっつくミケちゃんを見るアスラン様の目は、案外優しい。


「使い魔じゃないですよ。ミケちゃんはただの猫ちゃんですよぅ」


「ただの猫ちゃんがピンク色なわけあるか。だいたいミケってなんだ。全然三毛じゃないじゃないか。もっと他に名前あっただろう。モモちゃんとか、サクラちゃんとか」


「生まれたときは三毛だったんですよぅ」


わたしが村の話をすると、アスラン様はいつも呆れたような顔をする。


「うちはみんなそうなんです。生まれたときは、ほんのり? ぐらいですけど、大人になるにつれてピンクが濃くなります。民族的特徴? ってやつですかね?」


「そんな民族がいてたまるか。いいか、最新の研究によれば、ピンク色は魔力過多症の症状のひとつである可能性があるそうだ。アストラル圧力過飽和皮膚反応による体表色相変移理論では体内に含有する魔力量が飽和量を越えると……」


「あっまた難しい話してる」


「聞け!!」


アスラン様の、王族らしい手入れされた長い指がミケちゃんを撫でる。毛並みに沿ってミケちゃんの喜ぶところをくすぐる指の動きは、言葉の強さとは裏腹にとても繊細だ。


わたしはなんとなくその指から目が離せなかった。


「ほんとですよぅ。ミケちゃんはかわいいパステルピンクですけど、裏のおばあちゃんちのドラちゃんなんて、最近ピンクすぎて照り輝いてます」


「やめろ。嫌だぞピンク色に輝くドラ猫なんて。かわいい気がしない」


アスラン様は指を伸ばしてわたしの髪に触れた。ミケちゃんにしたみたいに優しく撫でられる。


「髪、切られちまったな。ポーションで戻ればいいのに」


「わたしのポーションは欠損再生できないので……」


きのう、怒った女子生徒に絡まれ、髪をちょっと切られてしまったのだ。


「でも、髪はすぐ伸びるから大丈夫ですよぅ」


「……金髪縦ロールだったと言ったな。おそらく第一王子のリーンハルト兄上の婚約者だろう」


「テンプレ乙って感じですね。でもわたし、第一王子様には入学直後に一度おもしれー女って言われたぐらいで、研究会始めてからは会ったこともないんですけど」


するりと髪に絡ませた指が頬に当たって、わたしはびくりとした。ちょっとだけ声が上ずったけど、アスラン様は気づく様子もない。


「テンプレ? なんだそれは」


「あっわたし前世の記憶があるんですよ。前は紅葉(くれは)って名前で、黒髪でモブでした。そこでは第一王子の婚約者は金髪縦ロールっていうのがお約束だったんですよぅ」


「なんだそりゃ。お前の妄想はいつも荒唐無稽だな」


話に気を取られたアスラン様が髪から手を放してくれたので、わたしはほっと力を抜いた。



アスラン様はあんまり人の話を聞かない。


村の話も前世の話も、全部まとめてホラ話として片づけてしまう。


だからアスラン様といると、ここが異世界だってことを忘れそうになる。


クレアのわたしも、紅葉(くれは)のわたしも関係なく、ただの自然体のわたしでいさせてくれるから。


わたしは椅子の背にもたれながら、切られた髪にそっと触れた。






髪切り事件があってから、アスラン様は研究会の業務内容を整理し始めた。


「診療所事業、辞めちゃうんですか?」


「ああ、常に俺がそばに居られればいいが、クレアがひとりで応対する可能性を考えると、リスクアセスメントの観点から問題があるだろう。クレアは、対象に触れないと治癒はできないんだったな」


診療所事業の業績は好調だったので、わたしを心配してやめてしまうというのは、なんだか申し訳ない。


「すみません。エリアヒールが使えたらいいんですけど……。村の神父様はすごいんですよ。きらってして、ぱぁってして、ふあって。王子にも見せてあげたいです」


「護衛を雇う? 人件費が占める割合は? 触れている距離となると咄嗟の対応が……。クレア、他に問題になっている点はあるか」


アスラン様は何やら高速で書きつけながら、自分の髪をぐしゃぐしゃかき回している。


「あ、……。あの、第二王子様が頻繁に診療所にいらして、悪いところもないのに手を握ってくるのは、ちょっとだけ、えっと、困るというか」


アスラン様のこめかみに青筋が立った。


「あんのスケコマシ……!」


羅刹のような形相で呻くと、手元の書きつけに大きく×を付けた。


「やめだ、やめだ! 診療所事業は廃止! 野郎どもはもう近寄らせるな!」


「ていうか、第一王子様も第二王子様も、みんな同じ学年なんですね」


「まあ、母上がみんな違うからな」


「うわぁ。王家の闇、マリアナ海溝より深いですね……」



わたしはアスラン様の瞳が小金(こがね)色に輝くのを見るのが好きだ。


なのにわたしがポンコツなせいで、こうやってうまくいかないことも結構ある。


「あのぅ、わたしが気をつけたらいいだけなので、大丈夫ですぅ。せっかく儲かってるんだし、続けて下さい、診療所」


「却下だ。俺が従業員の苦痛や危険を考慮せず利益だけを追い求める経営者だと思っているのか? ……そうだ、女性限定で完全会員制のサロンのみ残して高級路線にすれば、単価を大幅に上げられるな」


わたしは転生してもモブのままで、ピンク髪なだけのふつうの女の子だ。わたしにできることなんて、ほんのちょっとしたことばかりだけれど。


いつかもっと大儲けして、あの瞳を小金(こがね)じゃなくて黄金(こがね)色に輝かせてあげたいなあと、わたしはこっそり思っている。




アスラン様はいつもわたしの安全に気を配ってくれているけど、ちょっとしたトラブルはしょっちゅう起きている。


原因はやっぱり「わたしが平民の田舎娘だから」だ。


ポーションや魔石の配達をしたときに「自分だけちょっと値引きしてほしい」とか「前はタダでくれたじゃないか」と言われると、わたしはいつも困ってしまう。


でも誰もアスラン様にはそれを言わない。高貴で、堂々としていて、断られることが決まっているからだ。


アスラン様は絶対に値引きをしない。


「そいつが自分だけ値引きをしてもらったとして、本当に黙っていると思うか? 絶対に「あいつには値引きしたんだから俺も」と言ってくるやつがいる。値引きされなかったら損をした気がして不満が募る……。いいか、公平であることは商売人にとって何よりも大切な素養だ」


わたしはいつも曖昧な笑顔でお茶を濁して、逃げるように立ち去るしかできなかった。



その日、魔石を届けた先は、先生の所だった。


1個3ゴールドの内職を断ってから、一度だけ魔石を買いに来たけど、その時はアスラン様に追い返されていた。


先生はわたしの魔石が高すぎる、と言ってきた。


「せっかく紹介した仕事も途中で辞めちゃって……。こんな値段で商売してるなんて、恥ずかしいと思わないの? 今まで通り3ゴールドで買ってあげるから」


そう言われたけど、わたしは魔石をぎゅっと抱きしめて放さなかった。


「これは、皆さんが同じ値段で買ってくださっているので……。ひとりだけ、安くするのは、他の皆さんに失礼になるから、できない……です」


脚はガクガクしたし、涙目になってしまったけど、わたしははじめてちゃんと断ることができた。


アスラン様は、先生を永久出禁にすると言ったけど、わたしがキッパリと断ることができないかぎり、同じような事件は続くだろう。


「ドローンとか、あればいいんですけどね」


「ドローン? それはなんだ」


アスラン様が身を乗り出した。


「えっと、ドローンはこう、空を飛ぶ機械で、荷物を載せられたり、写真とか撮ったりできるやつです」


「ふむ。使い魔で代用できそうだな」


スタートアップ研究会の業務内容に、ドローン宅配事業が加わった。


読んでいただいてありがとうございました!!

最終回「第三王子と帰郷する」は明日21時に更新します!

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