第7章 純喫茶での再会、そして帰り道
「雄くんごめんなさ〜い!」
「マジかよ」
せっかくこれからジムに行こうとしてたのに
明日の食材が仕入れ先のトラブルで来れないから買い出しを純喫茶を経営している姉貴に頼まれてしまった。
今は姉の家に居候させてもらっている身なので断ることできなかった
お使いは実家にいた頃よく頼まれていたから問題はないけどさ……
「だからってスーパーの大袋4つは頼みすぎだろ‼︎」
思わず独り言がデカくなってしまった。
まだ春とはいえ、この量を持って陽の当たる場所を歩くと汗ばんでくる
カランカランッ
店に入りカウンターにいた姉貴に声をかける
「姉ちゃん、買ってきたぞ〜」
「突然ごめんねー。ありがと、雄くん」
顔の前で両手を合わせて謝罪をする姉
悪気がないことがわかっているうえにここまで謝罪をされると流石に怒る気にはなれない…
「雄平くん!!」
大きな声で呼ばれて驚きながら声の方へ向く
見覚えのある少女がそこにいた
「千楓?なんでここに?」
「なんでって友達とお茶しに来たんだよ」
「女子高生が純喫茶でって渋すぎだろ」
「そうかな?すっごい素敵なお店だよ。コーヒーも美味しかったしサンドイッチも美味しいし最高だったよ」
それを聞いた姉貴が嬉しそうに照れてる…
よかったな
「ていうか、部活は?」
「終わったから来たんだよ」
「そりゃそうか」
「雄くん、お知り合い?」
「千楓、知り合いか?」
2人を置いてけぼりにしてしまった
「俺の転校先の同級生の浦河千楓さんと…?」
もう1人いた女の子は誰だっけ?
千楓に負けず劣らずの高身長でかなり雰囲気がある、制服を着ていなかったら学生とは気づきにくいくらい大人びた子だった
この子も茶髪のロングって…双子みたいだな
同じクラスじゃないよな?
「あたしの親友で隣のクラスの別当梓さんです」
よかった紹介してくれた
ありがとう千楓
「それで梓。こちらがさっき話してた噂の転校生の藤堂雄平くん」
またウワサか。
「おい、千楓!」
慌てた様子で反応する別当さん
そんなに碌でもないウワサだったのか
「そしてこちらが……すごく美味しいコーヒーを淹れてくれる美人店主…さん?」
「千楓…初対面でそんなこと言うんじゃ」
「そんな美人だなんて…」
また照れとる。
「…」
別当さんが戸惑ってるな
「俺の姉だ」
あきれながら紹介する
「雄くんの姉の藤堂凛です。弟と仲良くしてあげてくださいね」
「人前で雄くんはやめてくれ」
「友達が昔から少なかったから良かったわ〜」
「その話もやめてくれ」
このままだと余計なことを言いそうだな
「ほら買ってきた食材しまうんだろ。手伝うから…」
カウンターの奥に促す
「あとはもう大丈夫よ!ご飯食べてくでしょ?
コーヒーも淹れるからちょっと待っててね」
「あ、いやすぐ帰る…って聞いてねえな」
食材を持ってそそくさと奥にいってしまった
同級生と置いてけぼり
どうすんだ、この状況…
「良いお姉さんだね」
千楓が羨ましそうに言う
「悪かったな。2人でお茶してるとこに邪魔して。」
「こちらこそ店内で騒いですまなかった。」
申し訳なさそうに別当さんが謝ってきた
「あはは…ほんとそうだよね。ごめんね」
千楓も気まずそうにしてる
確かに純喫茶の雰囲気ではなくなったな
「ほかにお客さんいなかったみたいだし気にしないでください。それに姉貴が1番うるさかったし」
俺は呆れ顔でそう言った
「ふふ」
「ありがとう雄平くん」
良かった。2人とも笑ってくれた
「ところで藤堂君。」
別当さんに呼ばれて振り向く
「こんな状況で申し訳ないが、明日私と2人で会ってもらえないだろうか?」
……は?え?それってどういう?
声に出したいけど出ないな
「梓…それって告は…」
「生徒会室で面談をしたいのだが。」
「あーそゆことね」
千楓がなぜかほっとしていた
「本来なら転校前にしなければならなかったのだが良いかな?」
「なるほどね。わかりました。」
「ありがとう。明日の体育科は1限目が自習になるらしいからその時間にきてくれ。
君の担任のなつ…いや、柊先生には話しておく。」
「そうなの?ラッキー!」
千楓の方が反応した
「了解です。明日はホームルームが終わったらお伺いします。」
なんかかしこまって喋ってしまったな
「ふふ、よろしく頼む。…と千楓、そろそろ帰ろうか」
「本当だ。もうこんな時間だね」
「あらもう帰り?」
姉貴がコーヒーを持ったままカウンターで話す。
「ご馳走様でした。全部美味しかったです」
「お会計をお願いします。」
「それは良かったわ。また来てくださいね♪」
「雄平くん!また明日ね」
「ご馳走様でした」
「おう、じゃーな」
彼女たちが帰ると姉貴はドアに[CLOSE]を掛けた
「閉店にはちょっと早くないか?」
「ちょっと良いことがあったからね。
はいコーヒー♪」
「なんかご機嫌だな」
コーヒーをすすりながら訝しむ…
ちょっと冷めてんじゃねえか。
ーーー
純喫茶からの帰り道
深煎りコーヒーの余韻が、舌の奥にまだ残っている。
夕陽に染まった道を、私は梓と並んで歩いていた。
心地よい風が吹いて、なんとなく、いい気分。
「ずいぶん彼と仲がいいのだな」
梓がぽつりと呟く。
「そうかな?普通じゃない?」
「千楓にしては――距離の詰め方が早いと思うが」
「うーん、そうかなあ」
言われてみると、たしかに。
初対面の男子にあそこまで話しかけたのなんて、初めてだったかも。
「彼の名前は……藤堂雄平、だったか?」
「うん。ちょっとかっこいい名前だね」
梓の表情が、少し曇る。
「前の学校は?」
「さあ……知らない」
「スポーツ歴は?」
「それも、知らない」
「出身地は?」
「うーん……知らない、かな」
「……何も知らないのか」
「そんなこと言ったって、本人が何も話してくれないんだよ」
あたしのことはやたら聞いてきたのに、自分の話になると黙るんだよね。
転校生だし、それが普通なのかもしれないけど。
「それで、あそこまで仲良くなっているのは逆に凄いな」
「えへへ」
「褒めてはいない」
「でもさ、明日面談するんでしょ?梓がいろいろ聞けるんじゃない?」
「そうだな。……だが、少し気になってしまってな」
梓がまた難しい顔をする。
やっぱ、気になるんだ。
あたしも……ほんとは、気になってる。
どこかで見た気がする。聞いた気がする。そんな感じ。
「二人の女子にこんなに気にされるなんて、雄平くん……モテるのかも?」
「そういう意味ではない」
「それとも何かの容疑者だったりして?
『妙だな、千円でタバコ一つだけ買うとは』
って感じ?」
ものまねをしながらキリッと顔を作ると、梓が軽く笑った。
「千楓も、気になっているのだな」
「うん……。あたしが何聞いても、答えてくれなかったから。何かを隠してるみたいでさ」
「そんなに聞いたのか?」
初めて会った時のやりとりを思い出す。
ちょっと、聞きすぎたかなって……。
「なんか、ピピっと来ちゃってさ。つい。恥ずかしいけど」
「まあ、気持ちはわかる」
梓は前を向いたまま、少し考えるような顔をした。
もしかしたら彼は
“いる場所が違う人”なのかもしれない
「私たちも、似たようなものだったな」
「え、何が?」
「最初に聞かされた話と、入学後の現実が違っていた。」
「そうだね……あたしたちで作ったんだもんね、部そのものを」
「それでも、全員が残れたわけではないし、まだ学校に認められたわけではない」
梓の声が、少しだけ沈んでいた。
空気が重くなりかけたので、あたしは笑顔で話題を変える。
「でもさ、今日は楽しかったでしょ?
美少女のあたしと部活後デートできたんだよ?もっと喜んでくれてもいいのに!」
「ふふ……そうだな」
梓がクスッと笑った。
――うん、その顔がいちばん素敵だよ。
そうして歩いているうちに、いつもの踏切に着いた。
「じゃあ、私はこっちで」
「うん、また明日もよろしく!」
梓と別れて一人になる。
楽しい時間の後は、少しだけさみしい。
でも、そんな感情が……あたしは好きだ。
気持ちのいい風が、頬を撫でる。
藤堂雄平くんか…
明日、なにかが少しだけ変わる気がした。
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