第5章 久しぶりの姉弟の団らん
フリーダムなあわてんぼうな野球美少女に
出会った転校初日の夜
俺は家で料理をしていた
じゅぅぅ!ぱちっ!
「あっつ!!」
油がはねやがった。
カタン。
蓋をして蒸し焼きにする。
次は味噌汁と付け合わせだな
「野菜は〜?何があるのかな」
冷蔵庫から材料を取り出してまな板に置く
包丁と野菜たちを水洗いしてると玄関で音がした
パタパタと歩く音が響いてリビングの扉が開く
「雄くんただいま〜」
帰ってきた姉貴が嬉しそうに近づいてくる
「おー、お帰り」
反応しつつも俺は野菜を切り始める
トントン、トントン
「なあに作ってるの?」
そうすると姉貴が後ろから俺の首に手を回してきて耳元に囁いてきた
むにゅっと柔らかい感触が背中に当たる
「やめろ気持ち悪りぃ!」
「気持ち悪りぃって、ひどいこというわね!」
怒り返してきたけど姉弟でやることではないだろ
背中にゾクゾクっと悪寒がきた
耳元の囁きもだし、背中になにかを感じるのもなんか嫌だわ!
「つか、あぶねえよ。包丁使ってんだから」
「そうだったわ、ごめんね」
全く悪いと思ってない謝罪をしながら手を洗い始める
ジャー
「ふんふんふん♪」
「ハンバーグと味噌汁作ってるから」
「ハンバーグ?やった!」
「もう少しかかるから風呂入ってきてくれ」
「わかったわ、楽しみしてわね♪」
なんか機嫌がいいな
漫画だったら擬音で、るん!るん!って出てきそうだ
ーーー
「姉貴ー!出来たぞー」
「はいはーい♪」
嬉しそうにパタパタと走ってきた
2人で座って手を合わせて
「「いただきます」」
「んー!美味し!雄くん上手ね」
「上手いことできてよかったよ」
幸せそうにもぐもぐ食べてるな
まさか姉と2人きりの向かい合わせで食べる日が来るとはな
人生わからないものだ
「まさか雄くんと向かい合わせで食べる日が来るなんてね」
同じことを思ってたか
「そうだな」
「雄くんは本当に料理上手ね」
「姉貴には負けるけどな」
「そりゃあ、アタシは喫茶店の店主だし、まだまだ雄くんには負けないわよ〜」
「そうなんだけどさ」
たわいない会話をしながらもぐもぐと食べ進めていき
「「ごちそうさまでした」」
食べ終わりカチャカチャと片付けていく
「片付けまで悪いわね」
「居候だからな、これくらいは」
「気にしなくていいのよー姉弟なんだからぁ」
そうは言っても実家から出たいという
かなり無理なワガママを聞いてくれて引き取ってくれた
家族だから当たり前だと姉貴はいうけど姉貴はもう26だ。
夢だった喫茶店を任されて、今が一番大事な時期だってわかってる。
だけどそんなときに俺は、
自分の勝手で、実家を飛び出して、姉の部屋に転がり込んだ。
その事実が、ずっと引っかかってる。
姉貴が何も言わないからって、俺も何も言わないでいるけど。
本当は、「こんな弟、邪魔じゃないかな」って……毎日ちょっとだけ思ってる。
俺のせいで姉貴の人生の選択肢を
狭めているのは確かだ
俺は姉に対して一生頭が上がらないだろう
「風呂…入って来るか」
ーーー
「あー気持ち良かった」
「おかえり〜」
頭を拭きながら出てくると姉貴が声をかけてきた
「呑んでるのか」
顔を赤らめながら手にワイングラスを持っていた
テーブルにはチーズと赤ワインの瓶が置いてある
「そうよ〜、大人の特権よ♪」
「なんか機嫌良いな」
「そうかしら?ね、ちょっと付き合ってくれる?」
「俺はまだ呑めないぞ」
「コーラあるでしょ、コーラ!」
「コーラかよ」
「四の五の言わずにほーら!」
ニッニコでグラス渡してきた
「これ細いけどワインか何かを呑むやつじゃねえの?」
「いいじゃない、雰囲気は大事よ♪座って座って」
「はいはい」
座ってまた向かい合う
「はい、かんぱーい!」
「かんぱい」
かちんと当ててからくいっとお互いに飲む
姉貴はニヤニヤしながらグラスを見ながら回す
「やけに嬉しそうだな」
「んー?そうでもないわよー。それで?今日は学校はどうだった?」
「あーまあまあかな」
「友達はできた?可愛い子はいたかしら?先生はどんな人だった?」
すげえ質問攻めがきた
「友達はまだ初日だし無理だろ」
「あらそうなの?」
「なんか珍しがって集まって声はかけて来てくれてるけど」
「じゃあじゃあ!可愛い子は?」
「その中にはいなかったな」
「ふーん、その中には?それ以外にいたのね」
頬杖をつきながらニヤリと笑う
「………」
「図星だとすぐ黙る癖、相変わらずわかりやすいわね」
「どんな子だったの?」
さっきよりもニヤニヤしながらこっちをみる
「猫みたいなやつだった」
「猫?」
「自由でおっちょこちょいで慌てん坊で」
「それ褒めてるの?」
「でも、芯のあるやつだった」
「それは…可愛いわね」
「……うん」
何かに気がついた姉貴がちょっと真剣な笑みに変わった
俺もそれは察したけど自分でわかっているので
何かを隠すようにグラスを傾けた
「見た目も?」
「え?」
「見た目も可愛いのかって話よ」
「うんまあ……いんじゃね」
再び茶化すような目になりやがった
「ふーん」
姉貴はニヤニヤしながらワインを呑む
「…なんだよ」
「んーん、なんでも。話変わるけど、実家には連絡したの?」
「なんで?」
「なんでって、まだしてないの?」
「わざわざしねえよ。そのために出てきたんだから」
「気持ちはわかるけど、まだ未成年なんだからちゃんと報告と連絡はしなさい。メッセージだけでも!」
「…わかったよ。あとでするよ」
「よろしい」
「明日の夕飯は何が良い?」
「そんな無理しないでいいわよ。お店もそろそろ短くするし、アタシも早く帰れるから」
「大丈夫だよ、別にやることないし。居候なんだから家事はやるよ」
「居候って…そんなこと気にしないでよ。一度きりの高校生活よ?自分のもっと人生を優先して。」
「そういうわけにいかね…」
「いくのよ!あなたは何のためにここに来たの?」
突然ぐいっと両手で俺の頰を抑えた
振り払おうと前を見るとそこにあるのは
いつも元気な姉の悲しげな表情だった
「アタシに気を使わないで自分の人生を大切にして。お願い」
少し泣きそうになっている凛姉を見て折れた
「わかったよ。けど、何をしたいかは決まってないからしばらくは作るよ。ダメな日は連絡いれるから、まだもう少し店は遅いんだろ?」
まだ、友達も出来ないし
「そうね、そこまではお願いするわ」
凛姉も折れてくれた。
俺のことを考えてくれてるのはわかってる。
家族だから甘えていいと言ってくれるけど――
だからこそ、俺は余計に甘えづらい。
それでも姉貴は…凛姉は俺のことを
家族として想ってくれてる
「じゃあ明日は酢豚が良いわ!」
「魚買ったんだけど」
「えーいいじゃな〜い。家主命令よ!」
「そこで言うんだ」
と話していると何かを思い出したように
「そういえば、今日のサンドイッチはどうだった?かなりの自信作だったのよ〜」
チーズを持った手がピタっと止まった
「ごめん、食べてないんだ」
「え?どうして。食べずに捨てたの?」
すごいショックを受けた顔をしてる
さっきよりもずっと悲しい顔してる
「違う違う!昼飯忘れて困ってた奴がいてそいつにあげたんだよ」
「あら、そうなの?あげちゃって雄くんはどうしたのよ」
「今日は午前中だけだから帰って作って食べたよ」
「そっか、始業式だけか。ごめんなさいね、余計なことして…」
「いや正直助かったよ、千楓は部活があるのに
朝も食ってねえって言ってたから」
「千楓?」
「あ、いや、その忘れたやつがさ」
黙って横を向く
「ふんふーん?」
またニヤつき…何回やるんだ
「そういや美味しいって言ってたぞ」
「本当に?良かった〜今度お店のメニューに加えようとしてたの」
姉貴は嬉しそうに手を合わた
「そんなに自信があるのか、一つくらい食べれば良かったかな」
「今度作ってあげるわよ♪」
「楽しみにしてる」
こうして夜が更けていった
ここまでお付き合いいただきありがとうございます!
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