第31章 ばってりー
ーーー数年前、とあるグラウンド
リトルリーグの練習を小学生の女の子2人がフェンス越しに見学していた
「ムフフフ!」
「ちあきちゃん嬉しそうだね」
「そりゃあ嬉しいよ!お兄ちゃんにやっと追いつけるからね!あずさちゃんはちがうの?」
「わたしもすっごく楽しみだよ。ちあきちゃんと一緒にプレー出来るところがいいなー」
「そしたら"ばってりー"になろうよ!」
「ばってりー?」
「お兄ちゃんが言ってたんだ!俺とあいつは"ばってりー"だから仲が良いんだって!」
「そうなんだ。わたしたちもなれるかな、ばってりー」
「なれるよ!ぜったいに!」
ーーー時間が戻り、現在…葛城市民球場マウンドにて
「さ、ほら行くぞ。千楓」
「…梓」
「ん?」
「やっぱ……梓の胸、おおきいね」
ゴンッ!
「痛っ!」
「くだらないこと言ってないでベンチに戻るぞ!最後の攻撃は私から始まるんだから!」
「まってよお母さん!もう少しだけ…」
「誰がお母さんだ!」
梓はベンチに戻り急いで防具を脱ぎ始めた
「あたし手伝うよ」
「ありがとう千楓」
レガースを外してバットとヘルメットを用意する
革手袋を着けてベンチを出る梓に千楓が声をかける
「梓!」
「なんだ?千楓」
「あの…頑張ってね。キミとまだ"ばってりー"でいたいから」
「わかってる、任せろ」
不敵に笑いながら打席に向かう梓だった
レッドアイアンズの投球練習が終わり葛城学園女子野球部の最後の攻撃が始まる
「お願いします!」と言いながら右打席入ってバットの根元を左手で持って投手方向に向け、右手を引くいわゆる弓道のような動作を行う
「ふぅー!」
息を吐き
その姿を観察するベテラン捕手の菊池
菊池 (すごい集中しているな)
ざっ!しゅっ!ドン!
「ボール!」
外角の直球のボール球から入る
二球目、カーブを梓の胸元から曲がり落ちるようにストライクゾーンに入ってくる
カキーン!
上手く身体の近くで巻き上げるようにボールを芯で捉える
「「「おお〜」」」
歓声を置いていくように高く飛んだ打球がレフト方向のポール際に行く
「はいれー!!」
千楓がベンチから身を乗り出すように叫ぶ
その声に押されるようにフェンスを超えて外野スタンドにどんっと跳ねる
「ファール!」
レフトポール左横のファールゾーンに落ちた
「「「ああ〜〜」」」
一塁側から大きいため息が球場内を包み込む
「……」
周りの反応など気にすることもなく梓は元の構えに戻す、バットを握る手は汗でじっとりと濡れ、だが微動だにしない。
眼差しだけが鋭く研ぎ澄まされている。彼女にとって周囲のざわめきも、すべて透明な壁の向こう側だった。
ざっ!しゅっ!ドン!
「ストライ〜ク!」
三球目、この日一番の速球が外角のストライクゾーンギリギリを掠める
「ストライーク!」
三塁側から歓声が上がる。だが一塁側ベンチから千楓の声が響いた。
「大丈夫だよ!梓は打つよ!」
その声に応えるように、梓のバットが走る。
四球目、三球目よりは少しスピードが落ちて少し内側にストレートが入ってくる
梓はその少しを見逃さない
バットをスムーズに出して完璧に捉えたと思った瞬間にボールがほんのちょっとしかし確実に外よりに急激に変化する
カットボールだった
それを認識した全員が凡打になる…そう確信した
約2名を除いて
カキーン!!!
ボールは芯から少し外れたものの、それでも強い打球がライト方向に飛ぶ
「嘘だろ!」
菊池はそう叫びながらマスクを外して打球を確認する
白球は勢いよく少し弧を描くように深めに守っていた右翼手の頭上を越えていく
さっきの大ファールよりは小さいがフェアゾーンの打球なのは明らかだった
「こんどこそ!はいれえええええ!!」
千楓の声が野球場内に響きわたる
ガシャン!!
願いむなしくも外野フェンスギリギリに当たりフェンス前に転がるクッションボールとなる
「うわ!おっし〜!!」
「まわれまわれー!!」
打者走者の梓は一塁をまわり二塁を目指す
ライトが素早く拾って中継を通して二塁へ送球する
梓は悠々と2塁ベースを滑らずに到達する
スタンディングダブルだった
「せーの!」
「「「ナイバッチー!!!」」」
ベンチにいる女子野球部全員で二塁にいる梓を両手の人差し指で差して讃える
梓はそれに応えるように拳を一塁側ベンチにむかって突き出す
それを見た千楓も右手で拳を作り突き出す
(やるじゃんあたしの相棒)
(私だってまだキミと"ばってりー"を組んでいたいさ!)
距離を超えて、二人の拳はひとつに重なったように見えた。
だが――試合はまだ終わらない。
彼女たちの戦いは、この先さらに熱を帯びていく。
ここまでお付き合いいただきありがとうございます!
初挑戦の作品で至らない点もあると思いますが、感想や☆評価をいただけると本当に励みになります。
毎日17更新です
引き続き読んでいただけると嬉しいです!




