第25章 主将の一発
試合はあれから進んで4イニングス目
葛城学園の守備、千楓のピッチングはますます冴え渡っていた
ざっ!しゅっ!パーン!
「ストライクスリー!バッターアウト!」
「おお〜!」
パチパチ、パチパチ
歓声が上がる一塁側葛城学園スタンド
その少し離れたバックネット裏の観客席
1人観戦している藤堂凛
「千楓ちゃんすご〜い、また三振!」
初回以降は安打や四球を出すものの、ほとんどのアウトを三振で打ち取り、大人の男性たち相手に素晴らしい投球を見せていた
その凛の近くで観戦してる執事連れの女子高生と執事が喋っているのが聞こえる
「浦河様はなかなか良いピッチングをされますね」
「フン!いまだけだよ、そのうちバテちまうよ。」
「そうなのですか?」
「だって今のイニングの攻撃、おっさんたちはしっかり合わせてたじゃねえか。ヒットも出てるし、このまま行くと危ねえよ」
「なるほど…」
「なるほど…」
執事が頷いていると凛も頷く
「…ッ!ビックリしたぁ、なんだあの人」
「お嬢様、覚えておりませんか?」
「あ?誰だよ」
「浦河様、別当様とお会いした喫茶店の店主様でございます」
「あの店主かよ!いつから気づいてたんだよ」
「あちらの方が座られてからずっと」
「試合前じゃねえか、早く言えよ!」
執事連れの女子高生がそういうと凛の隣に立ち声をかける
「あの…この前はご馳走さまでした」
「え…?あ!もしかして千楓ちゃんたちのお友達の…」
「橘川咲春高校2年、新明煌星と言います。この前のサンドイッチとアイスコーヒー美味しかったです」
クールだけど、怖そうなイメージのある見た目と違い礼儀正しく挨拶をする女子高生と
「ワタシも大変、美味しくいただきました、ありがとうございました」
高齢の男性執事にお礼を言われ少し動揺をするも
スッと立ちあがり接客モードに変わる凛
「いえ、こちらこそわざわざご挨拶ありがとうございます。」
カキーン!
3人で挨拶をしていると打球音が球場に響いた
遊撃手の頭を越えてレフト前に落ちた
3番打者の千楓がまた、安打を放つ
一死、走者1塁
「すご〜い、千楓ちゃんまた打った!」
「けっ!また打ちやがって」
安打を放った千楓を見て悪態を吐く煌星
それを聞いて凛がびっくりしている
(……本当に千楓ちゃんは、誰からも注目されてるのね)
「申し訳ありません。煌星お嬢様は浦河様や別当様に対してライバル心が強いもので、座りましょうか」
「うるせえよ、じい」
「はは…」
3人とも並んで座る
梓がネクストバッターズサークルから出て打席に入る、弓を引くようなポーズを見せてバットを構える
「梓ちゃんのあれは何かしら?」
凛が疑問に思っていると不機嫌そうに煌星が説明をし始める
「あいつの家は弓道の道場をやってるんですよ、それであのルーティンをすると集中力が増すとかで…いつもあれをやるんです」
「ヘェ〜かっこいいわね〜」
ざっ!しゅっ!ぱーん!
クラブチームの投手の投げたボールが外角に構えられたミットに入るも
「ボール!」
しっかり選球をする梓…グラウンドの圧が観客席まで伝わる
ざっ!しゅっ!キン!ドン!
三塁側ファールゾーンのフェンスに突き刺さる
「ふー」
一息吐く梓…そして、しっかりと投手を見定める
凛たちもその空気に当てられる
球場内がその空気に呑まれたと思った瞬間、
ざっ!しゅっ!カキーン!!
内角低めに入ってきたカーブを思い切り叩くと
左翼方向に弾丸ライナーが飛んだ!
そのままスタンド席に飛び込んでグラウンドに跳ね返り左翼手が取る
それを見て3塁塁審が大きく腕を回す
「ホームランだーー!」
「「「ワァァァァァアア!!」」」
割れんばかりの一塁側からの大歓声が球場内を包み込んでいく
「3-0!!」
「ナイスバッティング!!」
盛り上がる1塁側ベンチとスタンド、凛も執事も立ち上がって拍手をするが、煌星だけは苦虫を潰したような顔をしながら腕組みをする
パチパチパチパチ
球場内に拍手の雨が降られる
ダイヤモンドを右の拳を挙げて周る梓
最後にホームベースを踏んで千楓と抱き合う
「流石だね、梓。女の子であそこまで飛ばすなんて」
「人を怪力みたいに言うな」
5番の選手とハイタッチをするとベンチの前で夏海が大きく手を広げて出迎えていた
「うおおおーーー!ナイスバッティングだ!梓〜」
戻ってきた梓にひときわ、大きい声で抱きしめる夏海
ギュウ〜〜〜
「い、痛いです。夏海先生」
「ははは!」
盛り上がっている球場内のバックネット裏の観客席の上、来賓席
「ほほう、ナイスバッティングですなぁ」
1人の理事が呟くと…他の理事の視線が集まる
それに気づくと慌てて咳払いをする
「んんっ!まあ、まだ3点差ですからね。」
「もう4回ですよ。芦屋社長は何をされているのか」
「あんなに負けないと豪語されていたのにこんな体たらくでは…」
「ですが、彼女たちもよくやってますよ」
「たしかにここまでやるとは…」
ずっと黙ったまま聞いている女子野球部存続派の葛城学園理事長のレオーヌ
「どうでしょう、皆様。少しだけ気持ちが変わったのではありません?」
レオーヌにそう言われて動揺しながらも強がる理事たち
「ま、まあ、多少はね」
彼女は表情を変えなかったが誰にも気づかれないように、ほんの少しだけ口元が和らいだ。
誰にも見られないように…
勝ったような賑わいの1塁側ベンチに比べて3塁側ベンチ
真剣な表情で顔を曇らせる芦屋社長が秘書兼マネージャーに話しかける
「……姫子」
「はい」
「ブルペンに連絡してくれ。我々にとって練習試合にならなくなった、主力の出番だって」
「わかりました」
「ここでやるとはな、だがここからが本番だ。女子に手を抜いたと思われるにはいかないからな」
「"それ"に関してはもう遅いとは思いますが…」
新たな波が千楓たちを襲いかかる
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