第24章 初回の攻防
ざっ!しゅっ!パーン!
「ストライ〜ク!」
千楓の投げた直球が梓のミットに突き刺さる
歓声が上がり球場が盛り上がる中、3塁側レッドアイアンズベンチ
「ほう、良いボールじゃないか。スピードはいくつだ?」
「スピードガン用意します」
隣でスコアシートを書いていた秘書兼マネージャーの女性がカバンの中を探す
「120kmはゆうに超えてるよなぁ」
ざっ!しゅっ!パン!
足元低めに入るようにボールが曲がる
「ボール」
「今のはスライダーかな、これも良いボールだ。やっぱもったいないよなぁ」
「スピードガン用意しました」
「おう」
ざっ!しゅっ!パーン!
ピピっ
「いくつだ?」
「131kmです」
「速いなー」
ざっ!しゅっ!カン!
レッドアイアンズの1番打者が打ったボールがボテボテと遊撃手に転がる
「セーフになるかな、1番はウチで1.2を争う俊足だし…」
と芦屋監督が思っていたが、遊撃手がきっちり処理してアウトにする
「やるなー」
「ワンナウトー」
芦屋監督が感心している中、人差し指を立てながらアウトカウントの確認を行う千楓たち
「遊撃手の子も小柄なのにやるねー」
「あの遊撃手は一年ですね」
「ふーん、あ!」
話しているとレッドアイアンズの2番打者が一塁側へファールフライをあげる
高く上がった打球を一塁手が捕球してアウトとなる
「差し込まれましたね」
「油断してるからだよ、次は主力打者だけど、どうする?女子野球たちは…」
ざっ!しゅっ!ブン!パーン!
内角高めに浮き上がるようにきた直球に驚き思わずバッターはフルスイングをするが、思いっきり空振る
「ストライクスリー!バッターアウト!!」
「あーあ、まあ良いボールだったな」
「ちょっと苦戦しますかね」
秘書兼クラブのマネージャーが尋ねる
「かもなー、そしたら我らのエースを出すだけさ。ブルペンに連絡しといて、出番あるよって」
「わかりました、監督」
不穏な空気のレッドアイアンズベンチに比べて盛り上がる葛城学園ベンチ
「千楓!ナイスピー」
「ナイスピッチングです、先輩!」
「ありがとう!茅夜もナイスプレーだったよ」
後輩を撫でる千楓
「えへへ、ありがとうございます」
「意外となんとかなったね」
「うむ、だが、まだ初回だ。油断せずに行こう」
「「おう!」」
「茅夜からだったね、切り込み隊長よろしく」
「了解です!」
茅夜はヘルメットとバットを用意し始める
「ふぅ」
「どうだ?投げてる感じは」
一息吐くように座る千楓の横に捕手の防具を一部外しながら梓が声をかける
「うん、あたしの調子は悪くない。今の打者たちだったらなんとかなるかもよ」
「そうか…今の打者たちなら…か」
2人が話していると
カーン!
「おー!ナイスバッチ、茅夜ー!」
投手の足元を通るように中堅前にきれいに打球を弾き返して一塁をオーバーランで留まる
「おっとっと、あたしは3番だから準備しないとね」
梓(すこし…千楓の調子が良すぎるのが気になるな。どうしたものか、こういう時に相談できる人がいると良いんだが…おっと)
「夏海先生、バントのサインを」
「お、おう」
ベンチの一角で仁王立ちしている夏海にコソッと伝える
自分の帽子やベルトなど、身体のあちこちを触りバッターとランナーに伝達をする
ざっ!しゅっ!コン
2番のバッターが綺麗にバントを決め、一塁にいた茅夜が二塁に行く
「梓、このあとは?」
「このあとはノーサインで大丈夫です。どーんと構えててください」
「わ、わかった!」
梓は球場のバットケースからバットをだしてヘルメットを被りネクストバッターズサークルで腰を落とす
「ナイスバントー!」
「千楓ー!頼むよー」
「千楓先輩ー!」
千楓は左打席に立ち世界的に有名なバッターのようにバットを立ててスタンド方向へ腕を伸ばし、袖を捲る
息を吐き、本来のバッターの構えになる
かなり雰囲気のあるバッターにレッドアイアンズの投手は少し心の中でたじろぐ
ざっ!しゅっ!
「あ!」
余計な雑念を入れたボールは甘くストライクゾーンに入っていく
千楓 (捉えた!)
カーン!
逆らわずにおっつけて打った打球は左中間を切り裂く…左翼手と中堅手が追いかけている間に二塁にいた茅夜が本塁に着く
そして千楓が二塁を陥れる
「ナイバッチー!」
「よーし!先制だー!」
声援に片手をあげて応える
反対側のレッドアイアンズのベンチ
「すごい人気なんだね、あの子」
「先発投手の女の子ですね」
「身体能力も高い、すらっとしてる。良い身体だ」
「社長…セクハラですよ」
「違うわ!野球選手としてだ!あんなふうに良い選手が女子にもたくさん出てくるのは嬉しいよ」
「嬉しいですか?」
「野球界の発展に繋がるよ。バレーだってテニスだってさ、いつだってその業界を盛り上げてくれるのは女子選手だよ?」
「それでも我々が勝ったら…」
「…まあな」
キーーン!!
続いて梓も大飛球を打つ!
大きな弧を描きフェンスを越えようかという打球だった
…がフェンス手前で中堅手に取られる
「ああ〜!おしい」
ため息に包まれる一塁側にある葛城学園ベンチ
「く〜惜しかったね」
「少し焦って打ってしまったよ」
「お手伝いしますわ、梓先輩」
「ありがとうそれよりも」
カーン!
梓が喋ろうとすると打球音が遮る
葛城学園の5番打者が打った打球は三塁手の正面に向かいそのまま取られて一塁に投げられてアウトになった
「千楓がずっと2塁にいたから飲み物とグローブを持っていってやってくれ」
「わかりましたわ」
ベンチは歓声に包まれていた。
けれど二塁に立つ千楓は、どこか胸の奥にざわめきを覚えていた。
レッドアイアンズのベンチは――沈黙している。
(まだ…初回、あと6イニングもあるな)
梓はキャッチャーミットを手にはめて、マスクをもって少し不安を抱えながら自分のポジションのキャッチャーボックスに向かう
審判の前に座り投球練習を受ける梓の心に一抹の不安がよぎる




