第23.5章 試合開始直前
葛城市民球場のバックネット裏――関係者用の廊下を、一人の女性が秘書を伴って歩いていた。
野球場には不釣り合いなほどの艶やかさと気高さをまとい、誰もが思わず目を奪う。
彼女――天城レオーヌ理事長が扉を開くと、上からグラウンドを一望できる来賓席に入る。
そこには既に数名の紳士がいた。金と地位を背負った男たち、かつて葛城学園の不祥事で傷を負った理事たちだ。
「これはこれは、天城理事長」
「ごきげんよう。今日はよろしくお願いしますわ」
「今日でようやく、葛城学園から野球の名が消える」
「芦屋社長も大げさなことをする。こんな催しをせずとも――」
理事たちの皮肉に、レオーヌは口元に笑みを浮かべた。
「さて、どう転ぶでしょうね。……ふふふ」
その余裕に、男たちは訝しげに視線を交わす。
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観客席にて
試合開始を前に、球場はざわめきで満ちていた。
葛城学園の生徒たちの間を、藤堂凛が一人でパタパタ駆けていく
「ねえ、今の人すごい美人じゃない?」
「誰かのお姉さんかな? でも、あっちにいる執事連れのかっこいい女子高生も気になる」
バックネット裏には、黒服の執事を従えた学制服の少女が座っていた。
「はん、女子高生とオッサンの試合だろ? 大げさだな」
「お嬢様、そう言わずに」
「うるさい、じい」
さらに別の席では、汗をぬぐいながら駆け込んできた女性が息を整える。
「……間に合った。がんばれ、千楓ちゃん!梓ちゃん!」
球場には、様々な想いが集まっていた。
⸻
レッドアイアンズ・ベンチにて
「女子にしては動きがいいですね」
キャプテン菊池が肩を回しながら言う。
「そうだな。男なら欲しい人材ばかりだ」
監督は口を歪めた。
「だが油断はするな。負ければ理事たちに何を言われるか分からん」
「大変ですね、社長も」
「他人事みたいに言うな。お前たちにかかってるんだぞ」
「おっす!」
「怪我だけはさせるな!」
威勢のいい声がベンチを震わせた。
⸻
グラウンドにて
「集合!」
「いくぞ!」
「「「おおーっ!!」」」
両チームが整列し、キャプテン同士が握手を交わす。
「お願いします!」
「こちらこそ」
分厚い胸板、丸太のような腕――さすがジム所属の社会人チームだ。
「礼!」
「「「お願いしまーす!!」」」
投球練習を終えて千楓は梓とマウンドで話す
「どうだ、調子は?」
梓がささやく。
「うん、悪くない」
千楓は頷き、声援に手を振った。
「ありがたいね。理事長が声をかけてくれたんだ」
「じゃあ、始めようか」
「――あたしたちの青春を」
二人はグラブを合わせる。
「プレイ!」
審判の声と同時に球場が息を呑む。
千楓は力強く振りかぶった。
ざっ! しゅっ! パーン!
「ストライク!」
乾いた音が球場に響いた。
こうして、葛城学園女子野球部の運命を懸けた試合が幕を開けた。
本編で書ききれなかった周囲の描写をおまけにしました!
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