第22章 運命の試合前日
気づけば、明日はもう――クラブチームとの女子野球部の運命がかかった試合
あたしたちは試合前の最後の練習を迎えていた
「もう明日なんだね、試合」
「ああ、楽しみでもあり怖さもあるな」
「大丈夫かな」
「大丈夫さ、千楓なら男子にも負けない。ダメだったらリオンもいる、明日は勝てるさ」
「わかった、頑張るよ」
「これでさ、雄平くんもいてくれたらもっと良かったのに…」
「そこはもうしょうがないさ、これは我々の問題だ」
「そうだけどさ」
「ほら次は千楓だぞ」
「はーい」
あたし達は練習に戻る、明日のためにそして未来のために
全体練習が終わり最後に夏海せんせーも含めてみんなで集まる
梓が中心になるように扇形に近い形になる
「今日の練習はここまでにしよう」
「いつもより早くない?」
「明日に備えて早く休んだほうがいい、万全の状態で試合に臨んでほしい」
「なるほどね」
「では、解散としよう」
「あ、ちょっと待ってくれ梓」
梓が解散しようとすると夏海せんせーが横から声をかけてきた
「すまんがみんな少し時間をくれるか」
「……わかりました」
真ん中にいた梓と入れ替わるように夏海せんせーが立つ
「みんな……本当にすまん!!」
夏海せんせーはそういうと頭を思いっきり下げた
その姿を見てみんなざわざわしだす
「先生…どうしたんですか?」
梓が戸惑った様子で声をかける
「本当はこんなことにならないようにするのがわたしの仕事だ。何も気にせず、大会を目指して今日も練習していたはずだった」
「……」
「それが力不足で理事会に押し切られて学校側の都合で振り回してしまい本当に申し訳ない! 」
頭を下げながらあたしたちに謝罪をする先生、その姿をあたしたちは黙って見ていた
「せんせー」
あたしは見かねて声をかける
「それは明日負けたらにしよう」
「へ?」
あたしに言われて驚きながら顔を上げる夏海せんせー
「はい!まだ謝るのは早いです!」
「まだ負けてませんわ」
「みんな…」
「私たちは自分たちで試合をすると決めました。当然、負けるつもりはないです。」
「わかった、済まなかった!言葉を変えよう、明日は勝つぞー!」
「「「おおー!」」」
良かった、元気が出たみたいだ
せんせーもせんせーで頑張ってくれていろいろサポートしてくれてるのはわかってる。
だからみんなせんせーが好きなんだよね
「だけど…」
「千楓、明日は頑張ろう」
「う、うん」
みんなが盛り上がってるのを他所にあたしは怖さを感じていた
ーーー数時間後、同じ練習場にて
「ハッ!ハッ!ハッ!ハッ!」
あたしは暗くなった練習場で走っていた
家にいても息が詰まるだけで、ご飯も喉を通らなかった。
気づけば足は練習場に向かっていて、無心で走り続けていた。
けれど、不安は消えない。
足は止まっても、心臓だけが暴れている。
手のひらは汗で濡れて、ペットボトルが滑りそうだった。
「負けたらどうしよう」――その言葉ばかりが頭を回る。
喉がひりつき、水を飲んでも乾きは癒えなかった。
ベンチに腰を落とした瞬間、膝が勝手に震えているのに気づいた。
「大丈夫、大丈夫」
何度も呟いてみても、声は上ずっていた。
……もう、堪えられなかった。
視界が滲んで、涙がぽろぽろと溢れてきた。
「どうしよう、怖いよ」
「こんなところに1人は怖いだろ」
「…!」
後ろから突然、声がしたのでびっくりして慌てて振り返ると
「雄平くん!!」
ジャージ姿でスポーツバッグを持った雄平くんがいた
「お前、何してんだ、もしかして泣いてる?そんな怖かったのか」
そう言われて慌てて目を擦る
ゴシゴシ
「おいおい、あと残んぞ。ほれ」
雄平くんがタオルを放り投げてきて顔に当たる
「わぷっ!なんでここにいるの?」
「ちょっと柊先生に頼まれてな。人使い荒いぜ、あの先生」
「そんなことある?」
「お前こそ気づかなかったのか。」
「いつから、いたの?」
「まだ少し日が残ってるときにな、ちょっと時間が掛かっちまったけど」
「そうだったんだ」
あたしは暗くなってから来たから彼はずっと前からいることになる、そういえば来たとき室内練習場の明かりが点いてたような?
それもわからないくらい一心不乱に走ってたのか
「俺は先生の許可をもらってるけど、お前はもらってないだろ。」
「う、うん」
「また、怒られる前に帰ったほうがいいぞ。女の子1人じゃ危ねえし、じゃあな」
「あ、あのさ!」
「ん?」
「悪いんだけどさ、一緒に帰ってくれない?」
「……いいけど」
あたし達は練習場を出て通学路を並んで歩く
「雄平くんはさ、怖くなかった?」
「まあ、あんな暗いとこで1人で泣く女の子がいたら怖いけど」
「そうじゃなくて!!試合だよ!し、あ、い」
「試合〜?俺は考えてる暇はなかったな」
「考えてなかったの?」
「いやそりゃあ、ある程度の方針や戦略は頭に入れてるけどよ、マウンドに立ったら捕手のミットしから見れなかった」
「そうなんだ」
「俺は負けたら…なんて考えてる余裕がなかった。自分の投球が如何に出来るかが当時の俺にとって重要なことだったよ」
「自分の投球か…」
「前は考えてたよ。俺のせいで負けたらどうしようとか、けど、どんなに良いピッチングしても負ける時は負ける。」
「負ける時は負ける…か」
「ああ、思わぬところでな。」
「でも、負けるのは怖いよ」
「そうだな、負けるのは怖いな。それが失うものがあるやつほどそうだ。けど、勝っても失うこともあるんだぜ?」
「…!」
「何を悩んでいるのか、知らんけど。1人じゃないんだろ?」
そうだった、雄平くんは勝ったのに失った人間だ、勝っても認められなくてチームを追い出されて結局…何もかも奪われて1人になってしまった
あたしにはみんながいる…この前も思ったことだ。
投球を受けてくれる梓がいて後ろを守ってくれるみんながいて野球が出来る
もしかしたら最後になるかもしれない
それでも…!
「ありがと。頑張ってみるよ」
震えはまだ止まらない。それでも――仲間がいる。
梓が受けてくれる。みんなが守ってくれる。
泣いたからこそ、もう隠すものはない。
明日は怖くても、逃げない。投げるんだ、あたしの全力を。
怖くてもいい、泣いてもいい――それでも逃げない自分でいたい。
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