第17章 二つの密会
あたしは決意をした
雄平くんをまた夢の道へ引き戻すために
あたしたちの野球部を守るために
でも
「本当にどうしようかなぁ…」
「なにが?」
声に出てしまっていたか
「いやなんでもないよ」
今は体育の授業中で男子がバスケの試合を行っている。あたしはまだ自分の試合まで時間があるので友人と見学をしていた
キュッ、キュッ、ダダダ
「ふーん、ていうか。男子はだいぶ、一方的だね」
キュッ、キュッ、ダダダ
「うんそうだね」
面白半分でバスケ部とそれ以外の男子チームで試合をしているけど、バスケ部は手加減抜きだから当然、素人チームはほぼ負けている。…ほぼね
キュッ、キュッ、ダッ!
「シュート!もらったぁ!!」
「甘えよ!!」
ダッ!バンッ!
「おお〜〜!すげえな藤堂!」
相手チームのバスケ部男子のジャンプショットを
バレーのアタックのように左手で叩いて止めた
いつからウシワカになったの?バスケの試合だよね
「藤堂くんすごいね」
「うん」
「ピッ!ディフェンスファウル!」
「ええっ!?」
「でも、ファウルみたいだね」
相変わらず締まらないなぁ、クスッ
「今のだめかー」
「ダメだよ、痛えよ!」
「はは、悪い悪い」
そうやりとりしながら雄平くんは顔から流れる汗を体操服で拭き始める
(あーあ、体操服が伸びて凛さんに怒られるぞー)
そう思っていると彼の服の下からお腹が見えて
ドキッとする、可愛い女子が見てるっていうのに本当にデリカシーがないなぁ
…雄平くんのお腹、割れてるんだね
「千楓の試合はまだなのか?」
今、別のコートで試合をしてた梓が汗だくで声をかけてきた。
「うん、もうすぐだと思うけど、梓は体調は大丈夫なの?」
「問題ない、動いててもそんなに不調は感じない」
「そっか、それならよかったよ」
「藤堂くんのことはどうするつもりなんだ?昨日の今日で思いついてないとは思うが」
「梓…その話なんだけどさ」
「ん?」
「お昼に2人で話さない?」
ーーー
体育の授業が終わりお昼の時間になった
生徒会室を開けてもらって梓と2人でランチをしながら作戦会議をすることにした
「あ、それ美味しそう」
「千楓も食べてみるか?」
「いいの!」
「千楓のも美味しそうだな」
「うん、交換こしようよ」
「はあ〜〜お腹いっぱい」
「お茶でも飲むか?」
「キタキタ!これも楽しみだったんだよね〜」
「ふふ、大袈裟だな。キミは」
「あたし、お菓子持ってきたから食べようよ」
「お腹いっぱいといってなかったか?」
「お菓子は別腹だよ」
「そうか、はいお茶をどうぞ」
「ありがとう」
「「ズズ…」」
「ほう…落ち着くね〜」
「なあ」
「ふ〜〜」
「いや、落ち着いてる場合じゃないだろ!?」
「あっ」
「キミが他の人に話を聞かれたくないからって
貴重な昼休みに生徒会室を無理言って生徒会顧問の先生に開けてもらったんだぞ!」
「あはは」
「普通にお弁当食べてお菓子食べてお茶飲んでって女子高生の昼下がりか!」
「それはぜんぜん合ってるでしょ!」
ツッコミ返しをすると梓は落ち着いたみたいで
座り直してお茶をすすってから聞き始める
「どうするんだ、彼をチームに入れるといったが簡単ではないだろう?」
「いくつか、考えたんだけどさ」
「ふむ」
「雄平くんがどう思っているのかがまだわからないんだよね」
「確かにそこがわからないからな、そもそも本人はまだやる気があるのかどうか、そこを確認しないと我々の一人相撲みたいなことになる」
「だから話したいなとは思ってるんだよね」
「どうやって話すんだ?教室で話すわけにはいかない、この部屋だって安易には入れるわけには…」
「でも、あたしは結構出入りしてるけどね」
「キミが勝手に入ってお茶を飲みにくるだけだがな」
「まあまあ、生徒会の仕事手伝ってるし、いいでしょ」
「キミはそうだが藤堂くんは違うだろ、彼は何もしてないし、そう何度もは…」
「あのさ、部で買い出しが必要なものってあったよね?」
「ん?ああ、いくつか、消耗品が無くなりそうだから夏海先生に頼もうしてたところだ」
「それ、あたしが行ってこようか?近所のスポーツ用品店だったよね」
「いいのか?歩きだとかかるから少し手間だぞ」
「そこを雄平くんにも頼もうよ、彼ならやってくれるでしょ」
「なるほどな、わかった夏海先生に話してみよう」
「じゃあ今から体育教官室にいこうか」
「お茶を飲んでからな」
「うん」
ぐいっと飲んでから2人で生徒会室を出る
「ちゃんと閉めた?」
「ああ、今日は閉められたよ」
「夏海せんせーいるかな」
「どうだろうな」
「そういえば!凛さんと夏海せんせーって同じ大学で友達だったんだってさ」
「そうだったのか。意外な2人組だな」
「あと天城理事長もだってさ」
「へー!理事長もか」
2人で仲良く話しながら廊下を歩くあたしたちだった
ーーー
夕方、店内に残る柔らかなオレンジ色の光。
純喫茶[陽だまり]の若き主人、藤堂凛はカウンターの奥で、壁掛け時計をちらりと見やりながら、静かにグラスを拭いている。
長居していた常連も席を立ち、ベルの音と共にドアが閉まると、喫茶店は急に広く感じられた。
窓際のカーテン越しに射し込む夕日が、テーブルの木目を金色に染めている。
「さて、そろそろ閉めようかしら」
彼女がそう呟くと外にでて[CLOSE]の看板をかけて店内の片付けを始める
コップや皿を片付けてテーブルを拭いていって
閉店作業を進めていくと扉が開く音がした
カランカラン。
「あ、申し訳ございません。もう閉店でして…」
扉の前に見覚えのある2人組がいた
黒髪で無造作にまとめられたポニーテールでスラリとしたパンツスーツのカッコいい女性と
白いブラウスに黒のスカートを履いていてシニヨンで黒髪をまとめた妖艶な女性の2人だった
「夏海ちゃん!レオーヌちゃん!」
「よぉ!凛」
「こんばんは、凛。閉店後にごめんなさい、少し時間あるかしら?」
「ええ、どうぞ。何か淹れましょうか?」
「「本日のおすすめのコーヒーを」」
カウンター席に2人共座る
「本当にすまんな、凛」
「来てくれて嬉しいわ、今日はどうしたのかしら?」
コーヒーの準備と閉店作業を行いながら2人に話しかける凛
「実はあなたの弟さんのことで来たの」
「雄平?あの子もしかして何かやらかした?」
「いやいや特に何というわけじゃないんだ、クラスでもみんなと仲良くしてるから」
「わたくしも話したけど、そんなに悪い子には見えなかったから安心なさい」
「そう…よかった」
弟が安定した学校生活を送れてると聞いて少しホッとした凛だった
「はい、どうぞ」
凛が2人の前にコーヒーをそれぞれ置く
白いカップの縁から、香ばしい香りとともに細かな湯気が立ちのぼる。
「美味しそうだ」
「素敵な香りね」
2人がカップを両手で包むと、ほっとする温もりが指先に広がって口に含むと、わずかな苦みとやさしい熱さが胸の奥まで沁みていく。
「うん、美味い!」
「さすが凛、とても美味しいわ」
「ありがとう、2人とも」
少し落ち着いた雰囲気に3人が学生時代に戻る
しばらくして夏海が口を開く
「それで用ってのはな、うちの女子野球部についてなんだ」
「女子野球…ああ千楓ちゃんや梓ちゃんたちね」
「凛は知っていたのね」
「2人とも最近、うちの店に来てくれるようになってね」
「高校生で純喫茶って渋すぎだろ!」
「それでうちの女子野球がかなりの崖っぷちなの」
「?…どういうこと」
レオーヌと夏海は今の女子野球部の現状について話した。
去年に創部される予定だったのが許可されず、ずっと正式に認可をされてないこと、理事会により廃部の危機にあることを…
「酷い話ね」
少し強い口調と厳しい眼差しをレオーヌに向ける
それを見た夏海から
「いやいや!理事会と言ってもレオーヌは悪くないんだ!」
「そうなの?」
「むしろレオーヌは応援してくれる側なんだ、他の理事たちがな、認めてくれないんだ」
「そうだったの…ごめんなさいレオーヌちゃん」
「いいのよ、酷い話なのは事実なのだから。わたくしの力不足なのも事実だし」
「それで千楓ちゃんたちはどうなるの?このまま廃部になってあの子たちは野球が出来なくなるの?」
「理事の1人がな、クラブチームの監督しててそのチームと試合することになったんだ。そこで勝てれば存続プラス正式な部になる」
「かなりの無理難題をふっかけてきたのね」
凛は呆れながらコップを拭く
「これでも問答無用の廃部からはだいぶ譲歩されたんだけどな。助っ人も許可してくれたし」
「ふーん、助っ人ね…ん?もしかして」
「その助っ人に凛の弟さん…藤堂雄平くんにお願いしたいの」
「レオーヌちゃん、最初からこのつもりで雄平を葛城学園に入れてくれたの?」
物々しい雰囲気になってきた
「ええ、そうよ。まだその時は廃部の話はなかったけれど、甲子園で活躍した実力の彼が来てくれたらこういう時に役立つと思って」
「おい、レオーヌ!何を言ってるんだ」
慌てて止めに入る夏海
キッと真剣な眼差しでレオーヌを睨みつけ、目の前に立つ凛。
構わずコーヒーを飲み続けるレオーヌだったが、カップを持つ指がわずかに震えていた。
やがて覚悟を決めたように顔を上げ、凛を真っすぐに見返す。
「あなたの弟さんを利用しようとして、うちに転校させたのは事実よ。どんなに恨まれても仕方がない。わたくしは、その覚悟でここに来たの」
重たい沈黙。
夏海が慌てて口を開こうとしたその瞬間――
「……レオーヌちゃん」
凛は深く息を吐き、カウンター越しに深々と頭を下げた。
「ありがとう」
「へ……?」
夏海は気が抜けたように腰を落とし、レオーヌは驚きに目を丸くする。
凛は震える声を抑えながら、必死に言葉を紡いだ。
「雄平はね……まだ野球が好きなんだと思うの。だけど地元に残っていたら、あの子はもう一度マウンドに立つどころか、二度と野球に触れることすらできなかった。怪我で壊れて、環境に潰されて……。そんな未来しかなかった」
拳を固く握りしめ、唇を噛む。
うつむく目には、姉としての悔しさと、弟を守れなかった後悔が滲んでいた。
「だから……転校させてくれてありがとう。利用だろうが策略だろうが、雄平が“野球をやれる場所”にたどり着けたこと、それだけであの子には救いなんだと思う」
その言葉に、夏海もレオーヌも言葉を失った。
凛の視線は強く、しかしどこか泣き出しそうに揺れている。
「……ただ、その先は本人が選ぶことよ。わたしがどんなに望んでも、雄平が背を向けるなら、それが答え。だけど――もし、あの子がまたボールを握りたいと思ったときには、私も全力で支えるから」
レオーヌは口を開きかけて、けれど言葉が出なかった。カップを持つ指先が、さっきよりもはっきりと震えていた。
夏海は黙って頷き、視線を凛に送る。
静寂を破ったのは、凛の柔らかな声だった。
「さあ……もう難しい話はおしまい。せっかく来てくれたんだもの、アップルパイを出すわ。今日のは少し出来栄えに自信あるの」
その声にレオーヌは少し笑みを浮かべる
「いただくわ」
「おー!美味そうだな」
「アタシもコーヒー飲んじゃおっと、そこのテーブルで女子会しましょ!」
3人ともテーブルに移り、お互いの近況や仕事の話に花を咲かせた。その姿は話す内容こそ違えど、学生時代に戻ったようだった
ここまでお付き合いいただきありがとうございます!
初挑戦の作品で至らない点もあると思いますが、感想や☆評価をいただけると本当に励みになります。
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