第12章 かつてのライバル
第12章 かつてのライバルと同級生
純喫茶「陽だまり」から帰ろうとしたとき――
彼女に出会った。
新明煌星。
あたしと同い年の女子高生で、リトルシニア時代から何度も戦った相手。
言わば、ライバルだった。
「……別にコーヒーを飲みに来ただけだよ」
「でも、煌星の学校って、他県じゃなかった?」
「遠かったら来ちゃダメなのか?」
「そういうわけじゃないけど……」
「お前らこそ練習もしないでお茶会ごっこか?
へぇ……“やる気”あるんだな、相変わらず」
「諦めたわけじゃないよ」
「今日はたまたま練習が休みになっただけさ」
「ふん……まあ、わたしには関係ないけどな。お前らがどうなろうと知ったことじゃない」
「でもさ、もしかして私たちの様子、気になって見に来たりして?」
「そ、そんなことあるわけねえだろ!」
顔を真っ赤にして抗議してくる。
――図星、かな。
「煌星は昔から私たちのことを気にしてくれてるからな」
「ハッ! 違うって言ってるだろ」
「梓は相変わらず甘いものでも飲んでるんだろ? ラテに砂糖を三杯も入れて、今に糖尿病になるぞ」
「……梓の好み、覚えてるんだね」
「ッ……!」
「なんにせよ、久しぶりに会えて嬉しいよ、煌星」
「違うって言ってんだろ。わたしたちはもう、頂きに立った。……お前らは何してる? 腑抜けてんじゃねえぞ」
煌星の目が、まっすぐにあたしを射抜いてくる。
「……!」
「今日はここまでにしてやる。願わくば、次はダイヤモンドで向かい合いたいもんだ。じゃあな」
煌星が踵を返して店を出ようとしたそのとき――
ずっと後ろにいた執事のお爺さんが声をかけた。
「お待ちください、お嬢様」
「なんだよ、じい」
「もうお帰りでございますか?」
「ああ、ここにはもう用はないからな。
なんか文句あんのか?」
「いえ、店主様がずっとお待ちでございました」
「あっ……」
振り返れば、あたしたちの間に凛さんが立っていた。
笑顔で、お冷やの乗ったお盆を手に。
……まさに、プロだな。
煌星が一瞬「やべぇ」って顔をする。
執事はやれやれといった表情で、凛さんに声をかけた。
「マスター、申し訳ございません」
「はい」
「せっかく席にご案内いただいたのに恐縮ですが、オーダーを取り消してもよろしいでしょうか?」
「わかりました。大丈夫ですよ」
「申し訳ありません」
「すみませんでした」
さっきまで乱暴な口調だった煌星が、しっかりと頭を下げる。
やっぱり、育ちが良いんだよね。
「それじゃあ、少々お待ちください」
凛さんがパタパタと奥へと消え、
戻ってきたときには――
プラカップに入ったアイスコーヒーと、サンドイッチの包みが、ふたつずつ。
「これ、サービスです。」
「え?」
「でしたらお代を……」
「いえ、これは注文されたものではないですし、
また今度ゆっくりいらしてください」
「それは……ありがとうございます」
執事が丁寧に受け取り、深々とお辞儀する。
それに続いて、煌星もぺこりと頭を下げた。
可愛いな、このやり取り。
「じゃあな、千楓、梓!」
「あ、うん」
「また会おう」
「皆様、失礼いたします」
「ありがとうございました〜」
カランカラン――
扉が閉まり、音が静かに消える。
けどあたしの心の中では、風が吹き抜けていた。
まるで嵐が去ったみたいに。
「……そうだったね。前もそうだった。
いつも君が、あたしの胸の奥を熱くしてくれる」
「梓ちゃん、今の子って?」
「新明 煌星。昔からの野球仲間で、ライバルです」
「へぇ〜、二人とも野球やってたのね」
そういえば、ちゃんと話したことなかった。
「私も千楓も、葛城学園の女子野球部なんです」
「なるほど、だからね……」
なにかを考え込むような凛さん。
「凛さん?」
「あっ、いや! 女の子で野球ってすごいわね〜。
……ってことは、あの子も?」
「はい。彼女の高校は
“橘川咲春”
女子野球で有名な学校です」
「きっかわさくはる?……あっ!」
何かを思い出したように反応する凛さん
「有名なお嬢様学校じゃない!すごい子なのね〜」
「そうなんです。彼女はずっとすごくて……あたしたちの前を、走ってるような子で……」
言ってて、ちょっとだけ恥ずかしくなった。
彼女は恵まれてる。けど、それ以上に、前を向いている。
――あたしは……まだ、何も。
「千楓ちゃん?」
「あ、ごめんなさい…なので彼女は
あたしたちの目標なんです」
「……そう、良いわね」
「うむ、彼女に会って
私も喝を入れられたような気分だ」
「というか、あれは確実に入れに来たよね」
「しっかり入ってしまったな。私も千楓も」
「そしたらあの件、やっちゃおうか」
「みんなに聞いてから…な」
「反対されたら2人でやろうよ」
「どうやって試合をするんだ?」
「とりあえずランナーは透明で」
「どれだけ逆境なんだ…」
「ふふ、頑張ってね。2人とも」
凛さんと煌星のおかげであたしたちが決意を固めた日になった
そういえば煌星はどうしてこの店が分かったのかな?
ーーー
朝、理事長から千楓たちの話を聞いた俺は
放課後に女子野球部の練習場を外から眺めていた
とは言っても誰もいない
(今日は休みか?)
転校してからというもの
放課後はここに寄ることが多くなった
うちの体育科は通常の高校に比べて授業が終わるが早いので慌てて帰る必要なかったしな
学校に慣れるために校舎を歩いてるのもあるが
千楓たちのことが気になるのか
わざわざ女子野球部の練習が始まるまで
時間を潰してから下校している
進学科はまだ授業中なので歩くところは限られてはいるが…
今日も課題が大量に出されたので
図書室で終わらせて提出してから来た
ちょうど練習も盛り上がってくる頃かなと
思ってきたのだが…誰もいないのか
少し、肩透かしな気持ちになりながらも
家の方向に足を向けたとき
黒塗りのリムジンが俺の横についてきた
後ろの窓が開くと茶髪のロングだが男勝りで
えらく顔立ちの整った女子高生が乗っていた
「よぉ、やっぱり藤堂じゃねぇか」
「新明か、久しぶりだな」
俺の以前の学校の同級生、
新明煌星だった
相変わらずの目力だ
お嬢様とは聞いていたがこんなに立派な
リムジンに乗ってるとはな
「お前、ここにいるってことは葛城学園に
転校したんだな」
「まあな」
「…お前いま何してんだよ」
「…下校中」
「それは見りゃぁ分かるよ、お前が今も野球をやってるのかを聞いてるんだよ」
「そっちこそ知らねえのか、葛城学園に男子野球部はないんだぜ?」
「そうなのか…そいつは残念だな。」
「俺にも"そのつもり"は無いしな」
「勿体ねぇ…と言いたいがあんなことがあれば
しょうがねぇか」
「新明こそ、ここで何してんだよ
わざわざ県外の学校まで来て練習はどうしたよ?」
「…別になんでもねえよ」
「まさか!…俺のことがしんぱ…」
「それは無ぇ」
「そうかい」
キッパリ言われるとちょっと傷つくな
「ここって、葛城学園野球部の練習場だよな?」
「あ?ああ、そうだよ。正確には女子野球部のらしいけど、ここに用だったのか?」
「いやそう言うわけじゃねえけど」
「残念ながら今日の練習は休みみたいだぞ?」
「だから違うっつーの、それより喉が渇いたんだがこの辺になんか店無いのか?」
「ぬるい缶コーヒーならあるけど」
「いらねえよ。そうじゃなくて小腹も空いてるからどっか寄りてぇんだ」
「この辺は学園の区画だからあんま店はないぞ」
「ちっ!サービスエリアまで我慢するか」
「お嬢様なのにサービスエリアに寄るのか」
「悪いかよ。この辺に店が無ぇんだからしょうがね
えだろ」
ていうか、高速使ってまでここに来たのか
「そんなら駅前に[陽だまり]って純喫茶があるぞ」
「純喫茶〜?」
「コーヒー以外も紅茶やミックスジュースとかあるし、腹減ってんならサンドイッチとかの軽食もあるぞ」
「やけに詳しいな。コーヒーにサンドイッチか…」
「コーヒーは好みがあるから知らんけど、
サンドイッチはおすすめだぞ」
新明の腹の具合は知らんが、育ち盛りが夕飯前に食べるならちょうどいいだろう
「ふーん、よし!場所を教えろ」
命令口調か、まあいいけど
「このまま駅前に向かって走るとパーキングがあるからその隣だ。」
「ありがとよ、お前に会うのは偶然だが…思ったより悪い顔してなくて安心したよ」
「そうか?」
「じゃあな、また"偶然"会おうぜ」
「おう、気をつけて帰れよ」
窓が閉まり、リムジンは静かに走り去っていった。
姉貴の店の営業は成功かな。
……わざわざ高速を飛ばしてまで、あいつは何を確かめに来たんだ?
ここまでお付き合いいただきありがとうございます!
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注釈:煌星は女の子です(笑)
引き続き読んでいただけると嬉しいです!




