表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/37

第11章 「コーヒーの香りと選択の夕暮れ、そして…?」


雄平くんにハンカチを貸してもらったのに

殴ってしまったその日


今日は放課後の練習が休みになったので

梓とあたしは2人で下校をしていた


「まさかあんなことになるとはな」


「驚いたねぇ、ほんとベッタベタな展開」


授業が終わると梓と2人で理事長室に呼ばれた


普通なら生徒が理事長室に呼ばれることは

ドラマや映画でもない限りありえない


でもあたしたちは普通ではなかったみたいだ


理事長に呼ばれて聞かされたのは

女子野球部の今後についてだった


思っていた以上に理事の大人たちは

女子野球部を目障りに思ってるみたいだ


理事会の1人が監督をしているクラブチームと

試合をして勝ったら今年から大会出場を

許可してくれる


ただし負けたら廃部にする


そういう条件を突きつけてきた


箇条書きにすると


相手:理事のクラブチーム

勝てば:公式大会出場を認可

負ければ:廃部

ルール:男子規定寄り/助っ人可(伝手なし)


これは受けなくても良いらしいがその時は同好会のままだという


なんともお優しいおじ様たちだ

 


理事長室では答えを出せず…


梓と2人なら二つ返事で

受けて立つ‼︎と言いたいところだけど


このチームはあたしたちの物ではない

みんなでイチから作り上げた物だ


明日にはみんなに話さないといけない


あたしたちの意見だけでは決めてはいけないが

話したところでみんなはなんて言うか


みんなのやる気を削ぐことにならないだろうか?


あたしたちに憧れ一緒に野球をやりたいと言ってくれて入部してきた一年生たち


去年、別の学校に転校したり野球をやめて進学クラスに移ったりする中、1年間ずっと一緒に頑張ってきた二年生たち


みんなのことを考えると野球を続けるだけなら

今のままでも良いかもしれないと思ってしまう


梓とそういうことを話しながら帰っていると

コーヒーの良い香りがする


梓もあたしも足を止めて香りの元のほうへ向くと

昨日が初来店だけれど

お気に入りのお店[純喫茶 陽だまり]があった


「今日はどうするか?千楓」


「どうしようか、梓」


2人してわざとらしく聞き合う


(姉貴の店、気に入ったならまた来てくれよ)


彼の言葉を思い出す…が


お互い店主の弟さんと揉めたのに

その店にいくほど図々しくはない


しかもあたしは殴ってるし


「今日はやめとくか?千楓」


「そうだね、梓」


そう言って2人で見合って頷いた


コーヒーの香りを感じながら

とても後ろ髪を引かれるような思いで

あたしと梓は歩き出した瞬間、


お店の扉が開けられた


カランカラン


「あらいらっしゃいませ。

また来てくれたんですね」


[陽だまり]の店主、雄平くんのお姉さんが

お店から出てきた


あたしたちを見つけて

微笑んでくれた、やはりすごい美人だ


ちょうど箱を外に運ぼうとしてたらしい


「あ、私たちは…」


「「グゥゥ〜〜」」


梓が喋ろうとすると2人のお腹がおもいっきり鳴ってしまった


梓の顔が真っ赤に染まる


たぶん……あたしも


雄平くんのお姉さんは少し驚いた反応をしたけど

すぐにさっきの美しい微笑みに戻った


あんなに大笑いした遠慮なしの弟とは大違いだ


「そうだ、ちょうど良かったわ

お二人に試していただきたいものがあるの

お飲み物とサンドイッチも

サービスするからどうかしら?」


「「いただきます!!」」


思わず答えてしまった


(行こうか梓)


(しょうがないな千楓)


嬉しそうに迎え入れてくれた雄平くんのお姉さん


戻れなくなってしまった…


だってここ美味しいんだもん


ーーー


「美味しかった〜」


「……ああ、本当に」


雄平くんのお姉さん――凛さんが「ちょっと試してもらいたい」と出してくれたのは、見た目こそ飾り気のない一皿だったけど、一口食べて思わず声が漏れた。


――固めの昭和プリン。


スプーンを入れたときの手応え。

卵と牛乳の素朴な風味。

ビターなカラメルと控えめな甘さのコントラスト。

どこか懐かしくて、でも今の自分にぴったり寄り添ってくれる味。


ちょっと孤独な紹介になってしまった


「お口に合ったようでよかったわ〜」


その柔らかな言い回し、なんだか雄平くんに似てる。

やっぱり姉弟なんだな。


「本当に美味しかったです。新メニュー候補なんですか?」


梓が嬉しそうに尋ねる。どうやら、かなり気に入ったらしい。


「ええ。前からメニューに加えたいと思ってて。でもやっぱり、何人かに試してもらって反応を見てから、ね」


「へえ、楽しみですね」


メニュー表を開いたとき、ふと気づいた。


「ここ、食事系のメニュー少ないんですね」


「そうなの。前のマスターが『珈琲を楽しむ空間にしたいから』って。あまり食事は増やさない方針だったのよ」


「なるほど……でも、ナポリタンがあるんですね。気になります」


「ふふ。おすすめよ」


よし、今度の休みに食べに来よう。

お昼ごはん代わりに。


「前に来てくれたときも思ったけど、浦河さんってブラックで飲むのね」


「あ、はい。最初はミルクと砂糖を入れてたんですけど……だんだん、それが邪魔に感じちゃって」


「もしかして甘いもの、苦手だったかしら?」


「いえ、大好きです。……ただ、コーヒーは苦い方が好きなだけで」


「千楓は中学の頃からブラック派なんです」


「えっ、本当に? すごいわね」


「そうですか?」


「私なんか、ブラックに目覚めたのは大学生からよ」


「ほらな千楓、それが普通だ」


「はいはい、わかってますって」


……そんなドヤ顔しなくても。

でも、こういうやり取りも、なんだか心地いい。


「別当さんは甘いものがお好きなの?」


「梓は、あたし以上に甘い物に目がないんです」


「なぜ千楓が答える……」


「ふふ、可愛いわね」


「可愛い……ですか?」


キョトンとした表情の梓に、凛さんが少しだけ微笑んだ。


「ごめんなさいね。バカにしてるわけじゃないの。別当さんってクールで大人びてるから……そのギャップがね、ちょっと可愛くて」


「そ、そういうことですか……」


梓の顔が少し赤くなってる。

照れてるの珍しい。それに嬉しそう。


「よかったね、梓」


「うるさいっ!」



笑い声が店内に広がって、BGMのジャズをかき消していった。


こんなふうに笑える時間が、なんだか久しぶりな気がする。


「……ちょっと聞いてもいいかしら?」


凛さんが静かに口を開く。


「聞きたいこと、ですか?」


「弟さんのことですよね」


「雄平くん? どうして?」


「千楓、忘れたのか。彼は“転校生”だぞ」


「……ああ、そうだったね」


……あたしはそんな彼を、今日殴ったんだった。


「雄くん、学校でどんなふうに過ごしてるのかなって。気になっちゃって……ちょっと、シスコンなのかもしれないけど」


あはは、と少し照れたように笑う。けど、その笑顔はどこか作られたものに見えた。


「私は別クラスなので、昨日ようやく話したばかりで…ただ、困っている様子はなかったと思います」


梓が気まずそうに答える。揉めたことが気になるんだろうな


「千楓から見てはどうなんだ?」


「うちの体育科は男子が少ないから、わりとすぐに馴染んでました。あたしとも、よく話しますし」


今日喧嘩したことは、言えないけど。


「そう…うん。それなら、よかった」


凛さんが小さくうなずいて、微笑んだ。


さっきよりも、少しだけ柔らかくて。


“姉”というより、“家族”の顔だった。


…でも。


梓は、少しだけ切なそうな表情をしていた。


生徒会長として、きっと何かを知っているんだろう。


あたしも、あの目を見たからわかる。


彼はまだ、何かを抱えてる。


――このままで、いいのかな。


「……あの、雄平くんのお姉さん」


「どうしたの?」


「彼は、どうして……転校してきたんですか?」


「千楓!」


「ごめんなさい。でも、知りたいって思ったんです」


知ってどうなるってわけじゃない。

でも、気づいたら聞いてた。


「……気にかけてくれてありがとう。でも、それは――雄くんの気持ちもあるから、私からは言えないの」


凛さんはそう言って、少しだけ寂しそうに笑った。


優しい顔だった。けど、どこか苦しそうでもあった。


「そう……ですか」


「でも、弟の周りにあなたみたいな子がいてくれて、私はすごく嬉しいわ。――ありがとう、千楓ちゃん。これからも、雄平をよろしくね」


「……はい。凛さん」



あたしがそう返すと、凛さんはふわりと笑った。



……なんかズルいな、この人。


その笑顔、きっと雄平くんも好きなんだろうな



「梓ちゃんも、ありがとうね」


「は、はい!」



「お店のほうも、またぜひ来てね。雄くんのお友達が来てくれるの、本当に嬉しいの」



「また来ます」


「……ナポリタン、食べにね」


凛さんが人差し指を唇に当てて、いたずらっぽく笑う。


「ここだけの話――前のマスター、食事メニューは増やすなって言ってたけど……このナポリタンだけは、奥さんと一緒に何度も試作したんですって。可愛い話でしょ?」


その顔があまりに嬉しそうで、思わずこっちも笑っちゃった。


ーーー



「そろそろ行こうか、千楓」


「……うん」


「今日はありがとうね」


カランカラン


ドアの音と一緒に、冷たい風が頬をなでるちょうど席を立ったそのとき、ちょうど誰かが入ってきたようだ。


「いらっしゃいませ。2名様ですね。お好きな席へどうぞ」


凛さんの声色が変わる。接客モード。

クールで完璧な美人店主に切り替わるのが、ちょっとかっこよかった。


「……さすがだな」


「うん」


入ってきたのは執事服の老齢の男性と

女子高生っぽい人。制服は、うちのじゃない。


(珍しいね……)


ドアに向かって歩き出そうとした、そのとき――


「あれ? 千楓と梓じゃねぇか」


凛とした響き。美しく、力強い声。


……この声、知ってる。


振り向くと、そこには――


煌星こうせい!!」


まさかの顔に、思わず声が出た。


「なんでここにいるんだ?」


梓も驚いていた


胸の奥が、ざわついた。嫌な予感と、嬉しい予感が混じって。

※お知らせ※

副題をリニューアルしました!


(旧)まだ燃え残っていた心に、火を灯してくれた君へ

(新)追放されたエース、女子だらけの野球部で再起します


中身はそのままなので安心してくださいね!


ここまでお付き合いいただきありがとうございます!

初挑戦の作品で至らない点もあると思いますが、感想や☆評価をいただけると本当に励みになります。

引き続き読んでいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ