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第10章 謎の美女レオーヌ



千楓と別れたあと、俺はそのまま授業をサボりトイレに来ていた


缶コーヒーを開けずにオデコを冷やして

落ち着いていたら

ふいに下腹部がじんわりと重くなった。

気づかないうちに、けっこう我慢してたらしい。


生徒会室でお茶をもらい、千楓とコーラを飲んでたのだから当たり前だ


トイレを済ませて手を洗って廊下に出て胸元のポケットに手を伸ばしてハンカチがないことに気づく…千楓に貸したんだった


どうしようか、購買行くかな。めんどくせえな


「では、今度はわたくしとお茶はいかが?」


後ろから声をかけられ振り向くと

そこにはお団子というには複雑な髪型(シニヨンていうんだっけ?)の

スタイルの良い黒髪の妖艶な美女が立っていた


年齢は高校生ではないことは確かだが、

姉貴と同じくらいか?



高校の校舎にこんな人がいていいのか?


「授業中ですし、このまま教室に戻りますよ」


こんな美女が俺に声をかけてくるのはなんか

なんとなく、美人局な雰囲気を感じてしまう


美女の眉毛が少しピクッと動いた気がした


「あら?わたくしとはアフタヌーンティーを楽しめないかしら?」


「いやまだ午前中ですし」


さらに眉毛がピクピクッと動いた気がした


「そう、拒否するのね。では、あなたが授業中にも関わらず密室で女子高生を泣かせるような行動を起こした上に他の女子生徒と逢引きをしていたと校長、生活指導、担任の先生に報告させていただくわね」


「いや、待て待て待て!待ってください。お茶をさせてください、お願いします。」


「わかればよろしくてよ」


見てたのか?聞いてたのか?

どっちにしろ趣味がよろしくねえなぁ


「報告」


「ごめんなさい」


なんで俺の心が分かるんだよ


「あと、このハンカチを使いなさい」


あ、ありがとうございます


ーーーーー


大人しく美女についていくと


生徒会室より豪奢な扉の前に来た


「ここは?」


「理事長室よ。さ、入って」


「理事長?」


彼女が胸のところに手を当てる


「ああ、会うのは初めましてよね。

わたくし、葛城学園の理事長をしています

天城レオーヌと申します。どうぞよろしく」


……まじかよ。


このタイミングで理事長に呼ばれるとは

ちょっとどころではない嫌な予感する


「あの…僕この部屋に入ってはいけない病で…」


「貴方は海賊団の狙撃手でもなければ、奉仕部に入るわけでもないから安心なさい」


まさかこの二段構えのボケにツッコミができる人がいるとはな…


「二段構えというより、二番煎じではなくて?」


辛辣…なんで分かるんだ?

というか漫画もラノベも読むんだな


「今、お茶を淹れるからそちらで座って待っててくださる」


「はあ」


このソファ柔らかいな、座ってる感覚があまりないな


「はい、どうぞ」


理事長に用意された紅茶の香りが鼻をくすぐる

凄く高級そうな香りがする


「ありがとうございます」


さっき別当さんが淹れてくれたお茶も呑んでるしコーラも飲んでるからすぐに飲めそうにないな


理事長が目の前に座る


指先でティーカップを軽く持ち上げ、

目を瞑り、香りを愉しんでる。


一口飲むと


「貴方のお姉さんの…凛はお元気かしら?」


「姉のこと知ってるんですか?」


「同じ大学の学友よ」


「そうだったんですね」


「貴方の担任の柊先生もよ、大学では3人でよく過ごしていたの」


理事長が懐かしそうに目を細めた先に写真がある

左から理事長、柊先生、姉貴と3人で楽しそうに並んで写っていた


「柊先生もなんですね」


「ええ、そうよ。凛はまだ話してなかったのね」


「理事長の青春ですか?」


「すごく楽しかったし、良い人生の経験となったわ。」


「羨ましいですね。」


「そう思うのは早くてよ、貴方は高校生活もまだ途中じゃないの」


「俺にはそういうのはどうでしょう」


「ふふ、途中だと気づかないことばかりだからしょうがないわね」


「そういうもんですかね」


俺は一口紅茶を飲む…


「美味しいですね、これ」


「さすが、凛の弟さんね」


なんかまた褒められたな


「この紅茶はゴールドティップスインペリアルと呼ばれた茶葉で淹れたのよ、

あの有名なヒーロー学園漫画に出てきた…」


「これがそうなんですか?!」


あの紅茶って存在するのか…

ていうか、ただの男子高校生にこんな高級な紅茶を飲ませていいのか?

そもそも、その漫画も読んでいるのか

疑問点が多すぎる



理事長は不敵に笑いながら


「礼を尽くすとは、こういう一杯を出すことから始まるのよ」


「礼…ですか?」


「貴方に依頼したいことがあるの」


嫌な予感があたった…


生徒会長である別当さんが知ってて、理事長である彼女が知らないはずはないか


「お断りします」


「あら?どういう依頼かは聞かないのね」


「聞かなくてもわかります…なんとなくですけど」


「では、今の彼女たち…女子野球部の現状でもお話ししましょう」


「それも聞く気はないですよ」


俺はすぐに立ち、ドアに向かって歩く

逃げるようで情け無いが今はその話はできない


「そのお紅茶…高かったのよね」


ピタッ


「まだ残っているのに、行ってしまうのね」


この人…性格悪いな


「礼を尽くすというのはこういうことよ」


絶対そういうことじゃ無いと思うが…

出された飲食物を残すのは

ポリシーに反する…チクショウ


「分かりました。飲み終わるまでですよ」


「ふふ、良い子ね」


理事長はそう言って俺のカップに追加で注いだ…どんだけ淹れたんだよ


また…したくなってきた


「トイレはそちらにあるわ」


本当になんでわかるんだよ。



「手を拭く用の紙も置いてあるから安心して」



「使わせてもらいます」


ーーーー


理事長室のトイレから戻ってくると


「それで俺に依頼ってなんすか?」


少し乱暴な言葉になってしまってる


「あなたの状況は知っているわ。失礼ながら調査をさせていただいたの」


「調査と言っても姉から聞いたんでしょ?」


「勘違いしないでね。"この件"については凛は何もしてないわ」


「この件?」


「わたくしが凛から聞いたのは弟が以前の学校を不当にやめさせられることが納得出来ないと怒っていた事よ」


「姉貴が怒ってた?」


「ええ、あんなに怒っていた凛は初めて見たわ」


俺が悩んでいた時は明るく励ましてくれたのに

本当に姉貴には頭が下がる


「話を戻させていただくと先程も話した通り貴方に依頼したいのは女子野球部についてよ」


「彼女たちはもう自分たちでなんとかなってるんでしょ?俺は必要ないでしょう」


野球部の練習場は学校から少し歩くが

俺の通学路になっているので時々彼女たちの練習を覗いていた。


人数も少ないし指導者がいないとは聞いていたが、しっかりとチームになっていたのを俺は知っている


「今、本校には野球部は存在してないわ」


「男子は昔、廃部になったんでしょ?」


「女子野球部も存在しないわ」


「は?…いやだって千楓たちは活動してるじゃないですか?」


何言ってんだこの人


「彼女たちは書類上はあくまで同好会なの」


「人数だっているし、活動場所も確保してるのに」


彼女たちの活動を何回見たけど、

とても何かが足りないようには見えなかった


人数は少ない。だけど彼女たちはいつも声を出していて、どんな練習も真剣だった。誰一人、投げやりな顔をしているやつはいなかった。


「なかなか、承認が得られないのよ」


「承認?」


「我が校の運動部は全て学校の理事会の承認無しに創部は出来ないようになっているの」


「それは…昔の事件のせいですか?」


「そうよ、これでも運動部を作ること自体を反対されてた時に比べればマシにはなったのだけれど」


「マシになったって野球部は違うんすよね?なんでですか」


「それほどあの時のことが根強く残っているということよ」


「なんだよ、それ」


「表向きは野球部だけど、公式戦出場は認められてないわ。去年の理事会で今年も認可は降りなかったの」


ということは千楓たちはずっと当てのない海路を進んでいるということだ


それもその海を知る船長も航海士も海図もなく…


そんな残酷なことがあるか



「そこで貴方に頼みたいの」


「そこまで大事になっているのなら

俺がいても変わらないでしょう」


無理だ。俺は一介の男子高校生…

そんなやつにできることはない


彼女たちに同情はするし、大人たちの対応に憤りは感じるがもう手にを得ない


レオーヌは表情を変えずに話を続ける



「理事会の1人に学園の近くで会社を経営されてる方がいらっしゃるの」


「それが?」


「首都圏で展開している有名なジムの社長で野球好きでも知られているわ。その方は社長業の傍ら

自らクラブチームを作って監督もされているの」


「もしかして駅前にある[レッドアイアン]ですか?」


「ご存知なのね、その通りよ」


「そこの利用者なもんで」


「その社長が自分のチームに勝つほどの実力があれば出場を認めてもよろしいのではと提案してきたの」


「そんなベッタベタな展開あります?高校野球嫌いの校長なんですか」


「まるで千川高校みたいよね」


これも知ってるか

世代ではないだろうに…俺もだけど


「まあ、同じ女子チームなら勝てるかもですけど…」


「いいえ、男性チームよ」


終わってんじゃん

理事のおっさんたち卑怯過ぎるだろ


「認める気ゼロじゃないですか」


「わたくしも抗議したわ、そしたら助っ人を呼んでも良いということになったの」


「それはOKが出たんですね」


「彼らにとっては、“どうせ勝てない”という確信があるからこそ、助っ人も許したのよ。裏を返せば、チャンスではあるわ」


そうは言っても女子高生が成人してる男性チームと試合をするのにチャンスもクソもあるか


「相当な実力の助っ人を探さないとですよね」


「そこであなたに依頼したいの」


「"どっちの依頼"か知らないですけど、俺にはムリですよ。もう野球には関わらないと決めてるんで」


彼女たちには申し訳ないけど、俺には俺の事情がある。

またここで野球に関わってしまうと何のためにここまで逃げてきたのか分からなくなってしまう


「そう…なのね。わかったわ」


あれだけ引き留めたくせにえらくあっさり引き下がるな。まあ、いいか


「千楓たちはこのことは?」


「彼女たちにはまだ今年も認可が降りなかったとだけ話してるわ。これからこの部屋になつ…」


ドンドンドンガチャっ!


「待たせたな!レオーヌ!!」


レオーヌの話の途中で柊先生が入ってきた


ノックの意味がないくらい勢いよく入ってきた


思春期の男子に遠慮のないオカンか!


「彼女は昔からこの開け方よ。まず返事を聞かないの」


社会人になったらその癖、治せや!


「あれ?藤堂もいる」


「夏海いらっしゃい、今お茶を淹れるわね」


そう言って立ってポットに向かうレオーヌ


「おーさんきゅ!レオーヌが淹れるお茶は美味しいからなー。」


ふーと息を吐いて俺の隣に座る


どうしたらいいか迷うんだが…


サボりの生徒と理事長と担任がいる状況ってある?


しばらくしてレオーヌが淹れたお茶を運んできた


デカ目のグラスにロックアイスが入ってて

そこに綺麗な琥珀色の紅茶が入っていた


…ホットじゃねぇんだな


それをごくごくと飲む


ごくごくと


ごくごくと


これイッキに飲んでない?


「ぷはー!いつもながらレオーヌのお茶はおいしいな!」


本当にイッキに飲み切った


「あら、ありがとう」


慣れた手つきでおかわりの紅茶とロックアイスを足してる


いつものことなんだろうか


2杯目のアイスティーを少し飲んでから

一息つくと


「それで藤堂がなんでいるんだ?授業中だよな」


先生の顔に戻ってる…怖いな


「いや…ちょっと」


「梓に面談は1限目で終わるように言ってあったし、もう2限目の時間でここは理事長室だぞ」


どう言えば良いのか


「わたくしの仕事のお手伝いを頼んだのよ」


レオーヌが助け舟を出してくれた


「お!そうなのか。」


「面談が早く終わった彼がちょうどいたから手伝って貰っててそれが長引いてしまってそのお礼をしてたの」


「いやいや授業中なんだから教室に戻せよ!お礼はまた今度でもいいだろ」


まったくもってその通り


「あなたもここにいるじゃない」


「あたしの授業がないこの時間に呼んだのはお前だろ!」


「そうだったかしら?」


「全く…!次に生徒に用がある時は担任の先生

と担当科目の先生に連絡しろ!というか

授業中じゃないときにしろ!」


本当にその通りのど正論


「もう彼には戻ってもらうわ。ありがとう助かったわ」


「あ、はい。お茶ご馳走様でした」


「出来ればあの件も少し考えてもらえると

ありがたいわ」


「……善処はしますよ」


「あの件?」


訝しがる柊先生をよそに

スッと立ち上がりそのまま扉を開けて出る


ガチャッ!バタン


「ん…!っはぁ〜」


理事長室の前で少し伸びをする


今日泣かした女の子、怒らせた女の子

彼女たちのことを思い出す


彼女たちの境遇には大変なんだなと

同情してしまう


ドアが閉まったあとの静寂が、紅茶の香りよりも濃く残った。

何をどうすればいいかなんて、まだ何も分からない。

……でも、心の奥のどこかが、また少しだけ熱を持った気がする。



ガチャっ!



「藤堂!この時間の授業はあとで課題を出してもらうからな、1限目の課題も提出を忘れるな」



バタン!





俺も同情してもらいたい…


ここまでお付き合いいただきありがとうございます!

初挑戦の作品で至らない点もあると思いますが、感想や☆評価をいただけると本当に励みになります。



引き続き読んでいただけると嬉しいです!

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