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ディメンション・ドライブ!  作者: 晴海翼
序章:15の春に
4/17

00-04:安達 紗香

 遠い昔。戦乱の世だった頃。

 この国には、(アヤカシ)と呼ばれる存在がいました。


 志半ばに命を落とした武士(もののふ)の魂がそうさせるのか。

 はたまた、神に近しい存在が姿を現していたのか。

 どちらにせよ、人智を超えた存在であることは確かでした。


 私のご先祖様は人に仇なす(アヤカシ)を討伐する、霊媒師の一族。

 時代は過ぎ、太平の世となった今でも。

 時折起きる怪奇現象を解決する、この国に居なくてはならない存在だったのです。


 私やお父様も例に漏れず、いつ(アヤカシ)が現れても対応出来るよう、日々研鑽を積み重ねていました。

 ただ、私達が過ごした時間が長すぎたのか。はたまた、ご先祖様が頑張りすぎたのか。

 (アヤカシ)による怪奇事件は、年々減っていく一方。私に至っては、遭遇したことがありません。


 誰も知らない世界で刃を振るってきた一族です。

 政府としても、公にされると困る情報(もの)もあるのでしょう。

 いつしか私達の存在は、秘密という一点で維持されるようになっていました。


 ただ、それも永遠を約束されたものではありません。

 一族がその価値を失うことは時間の問題だと思われた時。


 ()()が、この世界へやってきたのです。


 突如、裂ける空。

 私たちのような一部の者は、直感的に(アヤカシ)の仕業だと断定しました。

 

 ですが発達した現代社会において、これ程までに目立つ現象を隠すことは出来ません。

 否が応でも表舞台に立たせなくてはならない。政府にとっては苦渋の決断だったでしょう。

 それでも、解決ができるとすれば我々しかいない。そう判断された結果、私のお父様が未知なる存在と対峙することとなります。


 ですが、違ったのです。

 現れた存在は、(アヤカシ)などではない。

 異次元からの侵略者だったのですから。


 結論から言うと、お父様は手も足も出ませんでした。

 打ちのめされただけなら、まだ納得出来たかもしれません。


 先程も申し上げたように、現代社会に於いて隠し事は非常に難しくなっています。

 お父様がO-dis(オーディス)に敗れる様は、世界中に公開されてしまいました。

 

 研鑽の日々を否定されただけではなく、笑い者にされてしまうという屈辱。

 嘲笑に耐えかねた母は、お父様の下を去ってしまいます。


 尤も、現れた侵略者。O-dis(オーディス)には、霊媒師のみならず凡ゆる兵器が通用しません。

 初根市を皮切りに、裂空現象は世界中で発生していきました。

 誰もが笑い事ではないと、混乱が加速していく中。


 時を同じくして発見された、もうひとつの存在。

 高位次元力精製炉ディメンション・ドライブO-dis(オーディス)を倒してしまいます。


 適合者(ドライバー)となる条件は誰にも分かりません。

 潜在的に因子を持つ者が、裂けた次元の影響で覚醒したのだろう。そんな推測が最右翼なのですから、解明出来ていません。


 人一倍正義感の強いお父様には因子が存在しなかったのか、高位次元力精製炉ディメンション・ドライブを手に取ることはありませんでした。

 一方の私はというと、手には一本の棒が握られています。

 

 刀の柄を模したこの棒は、私の高位次元力精製炉ディメンション・ドライブ

 私は適合者(ドライバー)。あの侵略者と、刃を交えることが出来る存在。

 

 古来よりこの国を守ってきた一族。

 その誇りに賭けて、私――。

 安達紗香はO-dis(オーディス)を討伐しなくてはならないのです。


 ……*


「あの……。ありがとう、ございました」


 集合住宅(マンション)の入り口で、私より年上の女性が深々と頭を下げてくれました。

 彼女は今日、O-dis(オーディス)と遭遇をしてしまった方。

 

 音無さんと天間さんが討伐をして事なきを得たものの、O-dis(オーディス)にはまだまだ未知の部分が多く残っています。

 少しでも情報を得るため、お話を伺わせて頂きました。

 ……本来なら、音無さんと天間さんにこそ訊きたいことな多かったのですが。


「こちらこそ、貴重なお話をありがとうございました。

 それと、お見苦しいところをお見せして申しわけありません……」

「そんな……」


 恥ずかしさから少し顔を紅潮させながら、お辞儀を返す私。

 顔を上げると、彼女は苦笑いをしていました。


「あの二人にも、お礼を伝えておいてくださいね」

「はい、それは勿論」


 自由気儘に動いている二人ではありますが、功績は彼女たちのものです。

 音無さんと天間さんとは会う機会も少なくありません。

 次に会った時に、伝えておきましょう。


 ……*


『ねえねえ、紗香』

「なんですか、《像断(かただち)》」


 帰路についていると、頭に声が響きます。

 声の主は《像断(かただち)》。私に発言した、高位次元力精製炉ディメンション・ドライブ


『本当にお礼伝えられるの?』

「……どういう意味ですか?」


 言葉の真意を捉えきれず、私はそのまま聞き返します。

 《像断(かただち)》はというと、少し沈黙した後にこう言いました。


『いや……。だって、会う度に喧嘩してるから……。

 毎回特等席で、怒鳴り声聴かされる方の身になってよ』

「なっ……!」


 先刻頭を下げた時よりも、顔が遥かに熱を帯びているのを感じました。

 図星を突かれて独りでわなわなと震えている自分は、側から見れば相当な光景でしょうね。


「それはあの二人が自由人だからであって……!

 伝言のひとつぐらい、伝えようと思えばいくらでも伝えられますよ!」

「――あーっはっはっ!!」


 《像断(かただち)》に反論をしていると、今度は左耳のインカムから笑い声が飛んできました。

 ……そうでした、私の声はこの女性(ひと)が聴いていましたね。


「また《像断(かただち)》に痛いトコ突かれちゃったの?」


 声の主は、うちの組織で通信士(オペレーター)を務めている佐和 まどかさん。

 高位次元力精製炉ディメンション・ドライブこそ適合していませんが、高い情報処理能力を持つ自慢の仲間です。


 そう、佐和さんは高位次元力精製炉ディメンション・ドライブを持っていません。

 故に《像断(かただち)》の声は聴こえないはずです。そもそも、通信に乗ること自体がありえません。


「佐和さん。何が『痛いトコ』なんでしょうか。

 私はただ、事実を述べているだけです」


 それなのに、私の発する言葉だけで会話の内容を予測してきます。

 遺憾であると伝えるも、聴こえて来たのはまた甲高い笑い声。


「あれ? 《像断(かただち)》に凛ちゃんたちと喧嘩してることを突かれてるのかなぁって」

『バレてるね』


 エスパーですか、この人は。


「私はただ、気分のまま戦う姿が許せないだけです。

 人々の安全を護るのであれば、相応の責任感を持って然るべきでしょう」


 そう、O-dis(オーディス)の目的も規模も解らないのです。

 こちらも組織的に動かなくては、耐え切れるはずがありせん。


 そもそも、自由気儘に人救けをするというのが間違っています。

 責任感を伴わない行動に人々の期待が上乗せされて、影響力を持つ。

 それがどんなに危険なことか、理解しているのでしょうか。

 私は何も間違っていません。ええ、この怒りは正しい感情です。


「ふぅん」

「……なんでしょうか」


 しかし、佐和さんは納得してくれないようでして。

 何やら含みを持った笑みを、浮かべている様子でした。


「いやあ。私はてっきり、凛ちゃんとあかりちゃんが心配なんだと思ってたからさあ。

 ウチに勧誘してたのも、自分がサポートできるからでしょ?」


 私は下唇を噛み締めました。

 正直、音無さんと天間さんが心配ではないといえば嘘になります。

 

 あの二人は偶発的に適合者(ドライバー)となったから、O-dis(オーディス)と戦っています。

 つまり、戦闘訓練を受けてはいない。

 もしもの時に対応する能力が欠けていても、おかしくはないのです。


 やり方は兎も角、あの二人が多くの人を救っているのは事実です。

 だからこそ自身に不幸な出来事が起きる前に、なんとかしなくてはならない。

 そんな想いを持って、勧誘したつもりでした。


「図星だった?」

「……そうですね。いつか、不幸が起きないようにとは願っています」

「そっかあ」


 素直に認めたからか、佐和さんの反応は軽いものでした。

 納得をしてくれたのでしょう。


 ……と、考えていたのですが。


「私はてっきり、友達が欲しい方が本題だと思ってた。

 ほら、紗香ちゃんって同年代の友達いないでしょ?」

『えっ? 紗香ってば、友達が欲しくて二人を勧誘してたの?』

 

 それはもう佐和さんの揶揄うような明るい声が、インカム越しに鼓膜を揺らします。

 間に受けた《像断(かただち)》が追い打ちを掛けてくるものですから、私の苛立ちは最高潮になりました。


「ち・が・い・ま・すっ! 断じて違います!!」


 相手がインカムをつけていようがお構いなしに、私はお腹から大声を出しました。

 もしかすると音が割れているかもしれませんが、これぐらいの反撃は許されるはずです。

 

「ムキになって否定するとこが、益々怪しいなあ」


 ですが、佐和さんは変わらず楽しそうにしています。

 いえ、声が少しだけ遠くなっていますね。さては、直前でインカムを離しましたか。

 

『そうだそうだ! 紗香、友達がいないのは事実じゃん!』


 そして、この攻めは佐和さんだけに留まりません。

 自分は手放せないと知っていて、《像断(かただち)》が更なる追撃を頭に響かせてきます。

 

「《像断(かただち)》も、黙っていてください!

 そんなことは、断じてありませんから!!」


 私はもう一度、怒鳴り声と共にはっきりと否定をします。

 O-dis(オーディス)が現れる前から修行の日々だったのです。友達を作る余裕がないのは、当然じゃないですか。


 今までから何ひとつ、変わっていないんですよ。

 羨ましいなんて、感じるはずがありません。

 

 そう言い聞かせていた心の内に浮かぶのは、いつも笑顔で会話をしている音無さんと天間さんの姿。

 私はあの二人が能天気なのだと、自分の中に眠る感情へ蓋をしました。


 だって、あんな笑顔を誰かに向けられたことはないから。

 想像出来ないものは、考えても仕方ないでしょう。

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