7.刺客と指名手配犯
「さて…もうここに用は無いな? これからこの星を出るぞ」
「いきなりだな…」
実は『航』が残した手紙に、『航』が支配する『煌航の星』の招待状が添えられていたのだ。
「もう行くか?」
「はい!」
「行きましょう!」
「わかった!」
すると、星間案内図が飛び出してきた。
「指示を確認。これから皆さんを『煌航の星』に転送します」
「え?」
「ーーー」
いきなり景色が変わった。そこはある小さな船で、星海を渡っているようだった。しかしその前で、激しい戦闘が繰り広げられていた。
「おい! 向こうにもいるぞ!」
いきなり知らない男性の声が響く。
「了解」
その時、黒いロングコートを羽織り、牙の模様のマスクをした金髪の女性が長剣を片手に走ってきた。
「危ない!」
椋がその剣を受け止め、弾いた。
「チッ。邪魔が入ったか…」
その女性は赤い霧に消え、いつの間にか男性も去っていった。
「はぁ…『赤霧の星』の刺客か…」
奥から『航』が歩いてきた。
「一難去ってまた一難だな」
翠も戦っていたようで、ため息をついていた。状況は飲み込めなかったが、危険ではないことはわかった。そして、物陰からサポートしていたリズが出てきた。
「ちょっと…今の状況を説明してもらえませんか?」
「今『煌航の星』に来たところなんだが、『赤霧の星』からの襲撃者と遭遇してな。それで戦ってたんだ。そしたら『航』が来たって感じだ」
『煌航の星』は不穏な感じがしていたが、これからはこういうことがないことを信じたい。
「ようこそ、『煌航の星』へ。君らはここについてあまり知らないだろう。しかし、今は案内するほどの時間がない。君らが持っている星間案内図に案内してもらうといい」
そう言うと『航』は去っていった。
「指示を確認。『煌航の星』について解説します。ここは無数の船が『劫舟』という巨大な船と共に星海を渡っている星であり、目的地は不明です。船の集まりを星と呼んでいるので、唯一の人工の星と言えます。これからは、直ちに『航』の所に行くことを推奨します」
「まぁ、別にここでやることとかも無いしな…じゃあ早速『航』がいるところまで案内してくれ」
「承知しました。それではこちらにお乗りください」
するといきなり星間案内図が変形して四人乗りのドローンになった。
「「「「え?」」」」
「…なんで?」
「いち早く『航』の所に向かうためです」
「いやそういうことじゃなくて…」
「では歩きで行きましょう」
星間案内図は地図のような元の形に戻った。とりあえず言う通りに歩きで行こう。
「なんだったんだよ今の…」
「やはり、しゅ…なんでもありません」
星間案内図の案内に沿って歩いていく途中、所々で白い髪、黒と金のコートを着た女性の指名手配のポスターがあった。その女性が目撃された時に撮られた写真のようだが、残像のようなものが写っていることから、とてつもない速度で移動していることは明らかだった。まあ、あいにく今は時が止まっていて、誰かがこの人を探すことも指名手配犯が何か犯すことも…
ザクッ。
セルヒはその指名手配犯らしきものに心臓を刺された。一瞬の出来事だった。
「!?」
「戻れ!」
セルヒと指名手配犯は元に戻った。そして再びその指名手配犯が光の如くやって来た。そこに翠と椋が剣をかざし、刀を受け止め、その白黒の残像は消えた。そして次は遠くから眺める本物の指名手配犯がやってきた。
「何者だ! 何のためにセルヒを殺す?!」
その者は黙って刀を振るい、残像のようなものを駆使して戦っている。
「残像使いか…」
翠と椋がその者と刃を交え、セルヒとリズは出る幕がなかった。そして翠がいよいよスキルを使おうと剣に魔力を込めた時、その女性はいきなり投降したかのように刀を鞘に収め、顔も見せた。
「もういい。貴様らの実力はやはり私より上ということが分かった。簡潔に自己紹介をしよう。私はレイ。レイ・カルカソンヌだ」
「…なぜ人を殺す?」
翠は尋問する。
「私の親友の命…いや、存在を奪ったとある人を殺す為だ。だから見つけ次第生物は殺すようにしている。リズという者を知っているか?」
「!?………こいつがリズだ」
「…この人がリズです!」
「えっと…こいつがリズだ!」
翠に便乗して椋とセルヒも続く。
「えっ?! ちょっと! 僕何もしてないですよ!」
リズは焦りながら汗を流す。
「私の仲間からそいつが情報を持っていると聞いてな」
「ふぅ…」
「『予言』はどこにいる? 答えろ。貴様が知っていることは確実なんだ」
「『予言』って…あの創世者ですよね? それなら、僕は確かに情報を持っています。しかし、ここは等価交換といきませんか? 僕が…」
レイは問答無用でリズの首に刀をかざす。そこに調停するかのように翠がため息をつきながら歩いてきた。
「はあ…じゃあ俺がコインを投げるから、その表裏で決めるとしないか?」
「ダメだ。貴様は『運命』なんだろ? コインの表裏ぐらい、思った方に運命の天秤が傾くだろう。その仲間から聞いたんだ」
「っなぜ…」
正体を隠していた翠の正体を暴かれ、結局情報を提供することになった。
「予言は…『黄金虚数世界』にいます」
「へ?」
セルヒはこんらんしている!
「チッ…逃げやがったか。情報提供、感謝する。ではまたいつか」
レイは去っていった。
「なあ…『黄金虚数世界』ってなんだ?」
「いわゆる、異世界のようなものです。創世者のみが立ち入りを許されている、秩序と混沌が入り交じった世界です」
「(そういえば…リズもそんな感じの金色の数列があった空間から来たよな…?)」
その頃、黄金虚数世界にて…
「(ふぅ…危なかったー。危うく見つかるところだった…)」
牙のマスクの女性⋯『赤霧の星』の刺客。指揮官のような男性と共に現れた。
レイ⋯何者かから情報を得て『予言』を殺そうとする者。
『黄金虚数世界』⋯創世者のみ出入り可能の世界。