6.船乗り
「えっと…何があったんだ?」
セルヒ達は急に元の位置に戻され、全員困惑していた。すると、星間案内図が飛び出てきた。
「現在の状況を説明します。どこからかアルカと名乗る女性が現れ、翠さんはセルヒさん達を遠くに転送させ、アルカさんと話していました」
星間案内図はペラペラと話しだした。
「翠さんは私が五大執政のことについて知っていることに驚き、アルカさんは私を能力でコピーしようとしましたが、失敗したことに困惑しています。そこで翠さんがセルヒさん達をここに呼び戻したというのが現在の状況です」
想定外の事が連続で起き続け、一行とアルカはさらに頭を抱える。すると、また星間案内図が喋りだした。
「皆さん困惑しているようなので、情報を整理させます。皆さんしばらく動かないでください」
しばらくしたあと、一行とアルカは再び冷静さを取り戻した。その中で翠は戦闘態勢に入っていた。
「とりあえず、情報はもう十分だ。去れ。俺の仲間を傷つけるな」
「いや、私は戦いたい。私はスキルのレベルが足りてないもの。これだったら『航』に貢献できないじゃない」
「どうやら、戦うしかないようだな」
二人とも戦闘の準備をし、戦い始めた。
「【運命の礫】」
「【虚空結界】」
翠のスキルがアルカに向かって飛んでいくが、アルカは裂け目を召喚し別空間に転送させる。
「【双刃の乱舞】」
「【零界】」
翠は広範囲技を使うが、アルカがどこかに消え、攻撃を完璧に避ける。その中、セルヒ達は遠くから傍観するしかなかった。リズはアルカの時を進めて老衰化しようとするが、なかなか当たらない。
「俺達になにかできることはないのか…?」
そんな中、椋が口を開いた。
「【冥界の幽雨】」
突然雨が降り出し、周囲が暗くなった。
「何、これ?」
アルカは視界が奪われ、翠を見失う。しかし翠はそのスキルを無効化し、アルカの位置を常に把握していた。
「今だ…!」
「!!!」
翠はアルカに向かって剣を振りかざす。その瞬間、アルカはニヤリと笑った。
「『航』!」
翠は何かにぶつかり、攻撃のチャンスを逃した。
「なんだ今のは…」
そこには、目を閉じて佇む男がいた。その男は手を天に向けて挙げていた。
「助かったわ。ありがとう」
アルカは体勢を整え、再び戦闘準備をする。
「俺が来るまでも無かったと思うが? アルカ」
「あの青年が割り込んできたのよ!」
「ただの言い訳じゃないか…」
アルカと男は仲良さそうに会話している。どうやらあの男が五大執政の『航』らしい。
「助っ人か…おい、椋! 参戦してくれ! リズもサポートを頼む!」
「分かりました!」
椋とリズも参戦した。でもセルヒは何もできず、攻撃が届かなさそうなところで戦いを見ていた。
「止まれ!」
「【零界】!」
「【白日の創造】!」
椋は巨大な壁を創造し、それを倒して潰すことを図ったが、
「【召舟】」
巨大な舟がそれを受け止め、防がれてしまった。スキルがぶつかり合う中、航は舟を操り、攻撃と防御を繰り返していた。
「【終夜の永黒】!」
椋は必殺技を使用した。そのことに気づいた翠は、皆に指示を出す。
「リズ! セルヒ! 椋から離れろ!」
そう言っている間に、椋から黒い霧のような物が広がっていく。それはあっという間にアルカを呑み込んだ。
「なによ…これ…」
アルカはブツブツ何かを言っていたが、気付いた時には消えていた。しばらくしたあと、霧は晴れた。そこに残っていたのは椋と、結界に守られた置き手紙だった。翠とリズ、セルヒが椋に駆け寄る。
「大丈夫か!?」
どうやら椋は気を失っていたようで、少し経ったあとに目を覚ました。
「敵は、倒せましたか…?」
「倒したどころか、片方は世界のどこかに消え去ったぞ。椋、大活躍だったな」
翠が椋を褒める。椋は照れているようで、少し微笑んでいた。
「そういえば、近くにこんな置き手紙がありましたよ」
リズは紙切れを一枚持ってきた。それにはこう書いてあった。
「お前達の実力はなかなか良いものだ。あのまま戦い続けていれば俺も死んでいただろう。お前達はアルカを殺したと思っているだろうが、彼女は空間を自由に移動できる。恐らくすぐに俺のところへ戻ってくるだろう。ところで、あの椋という青年は何者なんだ? 明らかに何かがおかしかった。また会った時、そのことについて教えてくれ。五大執政、航より」
椋はしばらく黙り込み、皆から目を逸らす。
「椋、お前は何者なんだ? あの力、創世者に匹敵しているものだったぞ?」
翠が問いかけるが、椋は何かをいつまでも隠し通していた。空気が重くなり、静寂に満ちた頃、セルヒが口を開いた。
「ところで、アルカって奴は誰なんだ? 二つ名でどんな奴か分かるのか?」
「…ああ。あいつは【終焉の先駆者】って言ってたな。奴は、あの『予言』から力をもらったものだ。その名の通り、奴はこの世界の『終焉』を人間として、誰よりも先に見た。」
『予言』。それは翠を超え、翠から創世者の権限を剥奪した者。翠にとっては恨むべき者。
「『終焉』…あいつはその姿を見た…なんだか、ぼんやりしているが、俺も見たような…」
実は、セルヒは寝ているときにそれっぽい姿を見ていた。それは、闇の中に生きる、孤独そのものだった。
「なぜその姿を見た…?!」
翠も驚くが、直接は会ったことはない。前世の記憶か何かだろうか…