22. « プロセス : 融合 & 防衛 » 実行
キミヒは椋を抱きしめる腕を離し、涙を拭った。
「さて…私の目的はもうほぼ達成した。まさかまた会えるとはね…あと目的は一つだけだ。それで、君たちに伝えなければならないことがある」
「なんだ?」
「実は…星間案内図のコピーに成功してしまってね」
キミヒが淡い笑顔を浮かべながら言葉を絞る。
「「「は!?/え!?」」」
「だけど、その過程で星間案内図の防衛プログラムを起動させちゃってね。隣の部屋にあったとある研究対象と融合して戦力を増幅…とにかくまずいんだ。どうか手を貸してくれ。終わったら、星間案内図は返すからね」
アルカのコピースキルが効かず、『終焉』から力を得た天流万奏楽団がくれた星間案内図の防衛プログラムが起動し戦力が増した状態。その場にいる全員は
「やばいな」
そう思った。
「でも安心してくれ。長くは保たないものの、今は特殊なカプセルに封印してるし、ここには『永冬の星』屈指の実力者が集っている。これだけの戦力があれば………」
「あれば………」
「まあギリギリ…うーん…まあ、うん。勝てるだろう」
「不明瞭だなおい」
椋も少し落ち着き、話を真剣に聞けるようになった。
「クータスタ君は記憶こそ取り戻したけど、まだ力は解放できていないはずだ。そこでクータスタ君以外の者達は、カプセルが破壊されてからクータスタ君が力を取り戻すまで時間稼ぎをしてほしい」
「椋…いや、クータスタの実力は確かなのか?」
翠が質問すると、キミヒは自信満々に答えた。
「安心しろ。なんてったってクータスタ君に宿るのは『変数』だからね。『変数』って言うのは…説明が難しいな。簡単に言えば、如何なる力を持ってしても破壊、死滅、消去が不可能であり、世界にどんな影響を及ぼすかわからない存在だ」
「そんな危険なのがクータスタに宿っていると?」
「ああ。クータスタ君はひょんなことから『変数』06の1:6Fに体を侵食された。そこで私達はクータスタ君と1:6Fの『色彩』を調律して魂を完全に融合させ、1:6Fが及ぼす影響をクータスタ君ができる範囲に留め、おまけのその力をクータスタ君が制御できるようにしたんだ」
そう言っているうちに、耳を劈く轟音が辺りに響いた。光の爆発が起こり、研究所Xの一部が破壊された。
「もう目覚めたみたいだ…私も戦闘に参加する。セルヒ君はクータスタ君を連れて地下シェルターへ!」
「!?…あぁ、分かった」
光が止み、そこからは左右非対称の翼を生やした女性が現れた。
「キミヒさん、あなたが先ほど言っていた、とある研究対象とは、あれのことですか?」
「そうさ…見ず知らずの外の世界から堕落してきた者、ヴェルジェネ。肩書は【機械仕掛けの堕天使】だ。星間案内図が融合した今は違うかもしれないが…」
ヴェルジェネは目を開き、みんなを見下した。すると早速弓を構え、糸を引いた。カヴァリエーレがそれに反応しスキルの準備をするが、キミヒが早口でそれを止めた。
「待て! 説明を忘れていたが、彼女には魔力関連の攻撃が一切効かない! 故に物理か霊力で対抗する必要が…」
「【神聖︰弓式】」
ヴェルジェネは糸を掴んでいた指を離し、光の矢を放った。オルヴォワールが大剣を構えて飛び上がり、矢を斬り落とそうとした。しかしそう簡単にはいかなかった。
「くっ…!」
その一振りは火花を散らせ矢を少しせき止めたが、最終的に剣は弾かれオルヴォワールは地面に落ちていってしまった。
「えい!」
コユキが両手を振り翳し、分厚い雪の壁を張り、矢を防いだ。が、一発目で壁は打ち破られた。咄嗟にレフコローゼも霊化の目を光らせながら植物で防ごうとしたが、一回分の防御が限界だった。
「これだけの時間があれば十分だ!…【赦罪の晩鐘】」
カヴァリエーレは指を鳴らし、心象世界を展開した。そこでは光の矢はカヴァリエーレの剣で薙ぎ払える程に弱体化できていた。
「…【神聖︰滅式】」
ヴェルジェネがそう言うと、より多くの光弾が放たれた。威力はそこそこだったが、カヴァリエーレとレフコローゼが剣を振るい続けていても耐久でやっとだった。その時、アステオーリアが策を申し出てきた。
「カヴァリエーレ、レフコローゼさん、そのまま耐えていてください! 僕のスキルで攻撃します!」
「馬鹿! 彼女には魔力関連の攻撃が…」
「キミヒさんに協力してもらい、魔力を霊力に変換してもらいます!」
アステオーリアはさっきの時間に研究所Xの資料を読み漁り、『魔力と霊力の変換術と霊化の目の関連性』という資料を見つけていたのだ。
「キミヒさん、できますか?」
「ああ、分かったよ」
するとアステオーリアは槍を構え、スキルの準備をする。
「…【蒼星螺旋】!」
アステオーリアは槍に光を纏わせ、ソニックブームと共に投げた。キミヒはその直前に青い霊化の目で魔力構造を書き換え、霊力にした。その槍はヴェルジェネに向かって飛んでいき、避ける間もなく命中した。そこには青い光と煙が蔓延していた。
「恐らく彼女はまだ生きています! 各自警戒を!」
煙が消えヴェルジェネの姿が露わになった。ヴェルジェネは無傷で、オルヴォワールを盾にしていた。
「団長!!」
ヴェルジェネは腹部に槍が突き刺さったオルヴォワールを少し見た後、投げ捨てた。オルヴォワールの目からは血の涙が零れ落ち、死んでいたようだった。しかしその顔は微笑んでいた。
「(ありがとよヴェルジェネ…久しぶりに本気が出せそうだ…)」
「…【暗澹の血炎】!」
その瞬間、右目から流れる血が赤黒く燃え盛り、霊化の目がはっきりと炎の模様を映し出した。ボロボロになった体は瞬く間に完全に治り、大剣を再び構える。
「ははっ! 懐かしい感覚だな! こうなるのは、俺がこの星の英雄になった時ぶりだな!…そうだろ、キミヒ?」
ヴェルジェネについて
この世界に堕落し、研究所Xに研究対象とされた後に星間案内図と融合した。(Revel / Systemより)
オルヴォワール・レッドクロウについて
天梁の騎士団の団長であり、『永冬の星』の英雄。その偉業を殆どの者は知らない。
変数…肩書持ち、創世者、『神』…如何なる力を持ってしても破壊、死滅、消去が断じて不可能であり、世界への影響が心配されている存在。その数は一つではない。




