2.時空の狭間から
しばらくして、三人は町を出て広い平野に出てきた。
「これって世界中が止まってるのか?」
「はい。そういえば言い忘れていましたが、この世界には様々な星があるんです」
急に当たり前のことを言いだしたかと思えば、翠がよくわからないことを言い出した。
「俺達が今いる『生の世界』には異様にデカい八つの星とちっさい星が数兆個あるんだ。それとは逆に、『死の世界』にもいくつか星がある」
「???」
「『生の世界』はみんなが生きている世界で、『死の世界』は死者の魂が漂う世界です。おそらく、生者は『死の世界』には干渉できないので、止まっているのは『生の世界』だけだと思います」
「それでも全ての星が止まってるんだな………あれ?」
「どうかしましたか?」
「いや、死の世界に直接干渉できないなら、どうやってそのことを知ったんだ?」
「それもまた、創世神話の内容です」
「またかよ…」
「…待て!誰かいる…」
翠が戦闘態勢に入った。
「誰もいないようだが?」
「来るぞ!」
空間が裂け、その中から黄金の歯車仕掛けのロボットっぽい物が出てきた。
「邪魔者を検知。直ちに殲滅します」
敵だった。その瞬間、セルヒは
「(チュートリアルか?)」
と思った。
「はぁ…所詮は雑魚か…」
嶷灯 翠は呆れた顔で剣を構える。どうやらチュートリアルではないようだ。
「【運命の礫】」
剣から淡く光る何かが出てきた。
「ーーー!!!」
その途端、敵は瞬く間に消え去った。
「なんだ今の!?」
「あいつを『死の世界』に送ってやっただけだ。もう戻ってくることは無いだろう」
「(絶対に敵に回したらダメな人だ…いや、まず人なのか?)」
「…も、もう終わりましたか?」
「なんだ、引っ込んでたのか」
「いや、あの、ええと、き、急に現れてきたので…」
「はぁ…その体格に見合わない杖は何の為に使うんだ?」
「すみません…」
「えっと…とりあえず行こうか…」
三人はまた歩き出した。
「さっきの話の続きですが、僕達が今いるのは一番平和な、『追憶の星』という星です」
「その他には、『煌航の星』、『闇影の星』、『赤霧の星』、『輪廻の星』、『生命の星』、『戒時の星』と…暗雲で隠れている未確認の星だな。おそらく『時間』は『戒時の星』にいる」
「その全ての星を巡ることになるのか?」
翠は空中に画面のような物を浮かばせ、それをしばらく眺める。
「待て、確認する………そうだな、全ての星を巡り、最後には………は?」
「どうしたんだ!?」
「最後、重要な結末が書いてあるところが、全て黒く塗り潰されている…」
「???」
「いや、まあ旅を進めれば分かるだろ」
「そこの方々…」
真っ黒なレインコートを着た気弱そうな少年が話しかける。
「動いてる!?」
「なんだ?」
「あなた達、動いてる人を探してるんですよね…? どうか、あなた達の旅に同行させて貰えませんか?」
「動いてる時点で、それなりの魔力はあるようだが、どうやら使えないようだな。まあいっか。人はいるだけ良いしな」
「はい! ありがとうございます! 僕のことは椋と呼んでください!」
「分かった」
旅の仲間が四人になったところで、平野を抜け、森林に入った。その瞬間、獣のような咆哮が轟いた。
「ヤ゛ャ゛ャ゛ーーー!!」
「!?」
「今のは森の奥の魔物の咆哮だ」
「ひぃ…」
「なんだ、もう怯えてるのか…安心しろ。今、俺達が勝つように運命を定めた」
「もうそれチートだろ!」
翠が即答。
「そうだが?」
セルヒが引くように答える。
「そうなんだ…」
翠はきょとんとした顔で答える。
「???」
「そろそろ着くようですよ…」
「さて、腕の見せ所か…」
「ィ゙?」
「失せろ」
「ィ゙ァ゙ャ゙ーーー!」
「【運命の礫】」
「ギル゙ャ゙ーーー!」
その魔物は『死の世界』に送られたが、まだまだ湧いてくる。
「ったくめんどくせぇ…【裂空の殲刃】!これで森ごと斬り尽くす!」
辺り一面が黒い光に覆われ、瞬く間に森は更地になった。その瞬間、
「戻れ」
全てがもとに戻った。
「何が起こったんだ!?」
「? 何を仰っているのですか?」
「時が戻っただと!?」
「この森にまだ生存者がいるかも知れないじゃないですか!」
「はあ…」
椋は混乱している。
「えっと…何があったのですか?」
みんなが椋に今起きたことを事細かに説明する。
気まずい空気が漂う中、さっきの魔物がまた現れた。
「時間が戻ったから復活したのか!」
「【双刃の乱舞】」
翠が双剣を扱い、踊るように魔物を殲滅していく。
「す、すごい…」
「進め」
リズが魔物がいる空間の時間を進ませ、老衰化させる。しばらくしたあと、魔物は一匹残らず全滅した。
「ありがとよリズ。おかげで狩りが順調だった」
「や、やっと終わった…」
「なんだ、ビビってたのか?」
「うぅ…」
四人は再び足を動かし始めた。
椋について
どこからか現れた純粋無垢な少年。■■■と■の■■、そして申し訳程度に剣を操る。
『生死の世界』⋯『生の世界』と『死の世界』の総称。それぞれ生者と死者が集う。
魔物⋯『時間』の魔力から生み出されたと思われる生命体。