15.理想の零落
「俺が望んだ未来は…生からの解放、破滅だ」
『航』がそう口にした瞬間、エレオスシーフは青い斬撃と轟音で包まれた。
「【月影の振り子】」
誰かの声が聞こえた。それは女性の声で、スキルを使っているようだった。そして気がついた時には、もうエレオスシーフは崩壊していた。足元が崩れ、急接近していた『永冬の星』に落ちていく。一行は近くにいたので互いの姿を認識できたが、そこに『航』はいなかった。
「『航』は!?」
「姿が見当たりません!」
「翠は椋を守れ! 椋は首の骨を折っている!」
翠は椋を抱え、リズは杖を握りしめながら落ちる。その遠く、一人の男と一人の女が共に逆さに落ちていた。
「(もう未練はない…『時間』が…いや、あの方が責務を果たすまで、俺は少し眠っていよう…)」
「(今思うと、『終焉』に初めて謁見したことって別に名誉ってわけじゃないわね…今度はもう『終焉』の裁判もないし…ああもう、早く死にたい!)」
アルカはいつの間にか『死の世界』にいた。混沌とした雰囲気、揺蕩う血の匂い、魂が抜けた屍。アルカの魂の下には、倒れた自分の死体があった。
「(ここが『死の世界』…見るに堪えない光景ね)」
一方、『航』は…
「ここは…『死の世界』か…?」
その目の前には、黒山羊の仮面をかぶり、真っ黒なローブを羽織った男の姿があった。
「おめでとうございます。あなたは悲惨な死を遂げました」
「悲惨…ではなかったと思うが。まずは名を聞いておこう」
「名前、ですか。では、『カルナー』とでも名乗っておきましょう。お会いできて光栄です、エレオスシーフ元二代目船長の『航』さん」
その『カルナー』と名乗る者は、初対面にあるにも関わらず『航』のことを知っていた。
「なぜそれを?」
「私の仕事上、相手のことを熟知しておくことは基本中の基本ですから。これから、あなたに自分の運命を選択してもらいます。力を手に入れて蘇るか、このまま死ぬかどうかを…」
「力? 蘇る? 見ず知らずの黒山羊の話なんか信じられるものか」
『カルナー』はふっと微笑み、指を鳴らした。それと同時に、紐に吊るされたガラスの破片が降りてきた。そこには、『航』と思われる姿があった。その『航』は、剣を手にしていた。その剣を少し振った瞬間、その斬撃で大地が裂け、周りは焼け野原になっていた。
「これは、あなたがなるべき姿です。私の提案を呑めば、これくらい容易に実現できます。あなたの望みもきっと叶いますよ。さて、どうしますか?」
「力…望み、か…」
───少し前、『永冬の星』にて。
「ボフッ」
セルヒはモコモコの雪に頭から落ちていた。
「あ、生きてる!」
外からは雪越しに少女の声が聞こえてくる。
「ボフェファビブィべフボファ? ブフェ!」
頭を雪から出した後、翠と椋、リズの生存も確認した。不思議なことに、体に雪は一粒も付着していなかった。翠は椋の体を支えながら、目の前にいた少女とその隣にいる剣を持つ女性と青髪の男性に話を聞く。
「やあ、ボクのことはコユキって呼んで! 『天竜』については知ってる? ボクはその天竜の生まれ変わりなんだ〜」
「はじめまして、私は『天梁の騎士団』所属の騎士であり、【蒼茫に消光す天梁星】、カヴァリエーレ。わかってると思うが、さっきエレオスシーフを斬ったのも私だ」
「僕は【星見の裁断者】、アステオーリアと申します。カヴァリエーレと同じく、コユキに仕える護衛です」
「(言いたいことがありすぎてどこからツッコんだらいいのか…)」
リズが時操魔法で椋の体を健康状態に戻し、落ち着きも取り戻してきた。
「とりあえず、次は俺らの自己紹介だな。俺はセルヒ。『記憶』の継承者の一人だ。隣にいるのが、嶷灯 翠こと創世者の『運命』。その隣が…えっと…なんかやばい正体を隠してた椋。そしてあそこで雪だるまを作ってるのがリズだ。…なんで遊んでんだよリズ」
「へ〜、大物揃いだね!」
情報の共有をしばらく続けたが、特に有益な情報は無かった。その頃、翠は少し離れたところで一人で考えていた。
「(肩書持ちか…にしても、あれほどまで力を有すほどの実力者だとはな)」
「どうしたのですか? 翠さん?」
「ああ、お前は…アステオーリアと言ったか。…単刀直入に聞くが、お前らは味方か?」
急な質問にアステオーリアは少し目を開いた。その後笑顔でこう答えた。
「それはまだわかりませんね。僕達もあなた達のことを完全に信用したわけじゃありませんから。でも少なくとも、コユキとあのリズと言う子はもうお仲間同士と言って良さそうです」
リズとコユキは雪玉を投げ合っていた。もはや親友である。
「コユキさん、どうしてそんな速く雪玉を作れるんですか?」
「なぜなら、ボクは雪を自在に操れるからね〜。あつーい雪玉も作れちゃうよ?」
「すごーい!」
その光景を見ている五人がもれなく
「どうしてこうなった」
と思った。
「空から落ちてきても無傷なのと、体に雪が全くついていなかったのはコユキが雪を操っていたからか」
「そうだよー!」
『カルナー』について
『航』の死と共に現れた、黒山羊の姿の男。真の容姿、強さ、立場など、ほとんどが謎に包まれている。
コユキについて
『永冬の星』にいる少女。誰に対してもいつも元気で接する。雪を操ることができる。
カヴァリエーレについて
『天梁の騎士団』に所属する、【蒼茫に消光す天梁星】という肩書を持つ女性の騎士。エレオスシーフを斬り尽くした。コユキの護衛。
アステオーリアについて
もう一人のコユキの護衛。【星見の裁断者】という肩書を持つ。一行のことを信用しきってはいない様子。
肩書持ち⋯一部の強者には『神』より肩書が与えられる。特に特殊な読み方の肩書は歴戦の猛者の証。




