14.あの頃はここも希望で満ちていた
気づけば何もかもが元通りになった。強いて言うなら静けさが増したくらいだ。
「まず、『航』が…あの名を口にしたことで椋が闇落ち…『航』が一瞬で殺され、そこにラレムが来て元通りに…うーん分からんな」
セルヒは情報の整理に苦戦していた。リズは自分の思考の時間を早め、翠は言わずもがな一瞬で整理していた。セルヒは自分が『記憶』の力を持っていることも忘れていた。そこで『航』がさっきまでの問題をほっといて自ら本題に入ってくれた。
「さっきまでお前達の身に何が起きたかは知らんが、ひとまずはお前たちが知りたがっているであろうエレオスシーフについて教えてやろう」
「『航』! ホントに彼らに伝えるつもり!? あの秘密は長年守られてきたものなのに!」
アルカは『航』がセルヒ達にエレオスシーフの情報を伝えることを拒んでいたが、『航』は
「いいんだ。どうせこの舟ももうすぐ廃れるしな」
と言い、首を横に振った。そして語り始めた。
「少し話が長くなるだろうが、辛抱して聞いてくれ。椋が途中で目覚めると思うが、その時はセルヒ、お前が記憶を埋め込んでやってくれ。まずは…そうだな。エレオスシーフが造られる前からか。この窓から見える、あの星が見えるか? あれは『永冬の星』と言う、雪山と研究所Xがある星だ。あそこには元々、雪山の上のさらに上に『天竜』がいた。その天竜は、根拠もなしに、災厄をもたらすとされてきたんだ。嫌悪感を抱いた民は『天空の目』という組織を設立した。天竜を討伐するためにな。しかし、天竜は攻撃しようとしなかった。そこで一方的に天空の目が攻撃していたんだが、ついに怒りを覚えた天竜は反撃を開始する。これが、エレオスシーフが造られる理由だった。研究所Xは天竜討伐用にエレオスシーフを造った。それは巨大な戦艦で、天竜の手にも負えなかった。天竜が雪山に墜ちた後、エレオスシーフは役目を失い、好奇心旺盛だった船長は星間の旅を始めた。後に、それについていきたいと志願するものが現れ、小舟が周りを飛び交うようになった。あの頃は、ここも希望で満ちていたんだ。軈て船長は死に至り、その遺体は宇宙空間に捨てられた。そして二代目の船長が現れ、エレオスシーフを継いだ。それが俺だ」
いつの間にか椋も正気を取り戻し、起きていたので、セルヒがさっきまでの話の記憶を埋め込んだ。しかし、理解には及ばなかった。なぜなら、その話で言うなら、この巨舟こそが、エレオスシーフということになるからだ。混乱だけが頭をよぎり、空いた口が閉じない。
「しかし、俺は船長とはいえエレオスシーフを直接操縦することはできないんだ。強いて言うなら、加速と減速ぐらいだな。エレオスシーフは後に『煌航の星』となり、宇宙を浮遊する。『永冬の星』に戻るだとか、同じ場所を回ってるだとか、世界の果てを目指してるだとか、さまざまな噂が飛び交っているが、真実はどれも違う。俺が先代の船長からエレオスシーフを継ぐ時、こう言われたんだ。
「君がいくら優秀だろうと、いくら傲慢だろうと、この舟は必ず応えてくれる。これからは、君が船長だ。行き着く先は君が望んだ世界であると約束しよう」
と。俺は世界の果てなんて望んでないし、元に戻ろうとも、同じ場所を回ろうとも思わないからな」
しばらく昔語りは続いたが、静かに時が過ぎていくばかりで、思考が追いついたのはリズが皆の思考速度を早めた後だ。
「じゃあ『航』、お前の望みは一体何なんだ!? 先代の船長が言った、望んだ世界は、どこなんだ!?」
「俺は、何も望まない。なぜなら、『予言』がエレオスシーフに『英雄の来訪により滅びる』と言う言霊をかけられたからだ。だから、どうせもう廃れるからと何も望まずに不規則に動いているんだ」
その話を聞いて翠がキレる。
「あいつなんかが定めた予言なんざ信じるな! 自分達の宿命をやすやすと受け入れるな! 運命を歩む者は、他人に左右されずに自分でその道を歩むんだ!」
「!? …そうか、そうだったんだな。俺は過信していたんだ。今、俺の中に一つ望みが芽生えた…」
何かに目覚めた『航』はハッと目を見開き、すぐに落ち着いた。足元を眺めて自分の無力さを痛感し、拳を握りしめた。その瞬間、地面がグラッと揺れ、舟の向きが変わった。舳先が『永冬の星』を向き、急突進していく。
「なんだ、急に!」
「舟が、『永冬の星』を向いています!」
「うわぁ~! 助けて〜!」
そんな中でも『航』は堂々と立ち尽くし、微笑みを浮かべながら涙を流す。そこに真剣な表情でアルカが話しかける。
「本当に、これで良かったの?」
「ああ、これが俺の望みだからな」
「なら、私も逃げたりしないわ」
『航』は椅子に座り、乗務員全員を停止させる。そしてセルヒ達の方を向き、足を組む。
「『航』…お前、何を望んだんだ?」
「お前達がいてくれてよかった。おかげで俺は最後の望みを叶えられそうだ。じゃあな、未来の英雄達」
一行は黙り込み、その望みを聞く。
「その望みは…」
「生からの開放、破滅だ」
『航』について
エレオスシーフの二代目船長。生きる束縛からの開放を望んだ。
先代の船長について
エレオスシーフの元船長。かつて天竜を討伐した者。エレオスシーフを操縦する権限を『航』に譲渡した。
『永冬の星』⋯雪山があり、研究所Xもある星。かつて天竜がいた。
『天空の目』⋯天竜討伐のために立ち上がった組織。天竜には手も足も出なかった。
エレオスシーフ⋯先代の船長から『航』へと受け継がれた天竜討伐用の戦艦。後に『煌航の星』の巨舟となった。




