1.止まった世界
「カチッ」
時計の針が九時を指した。
「ーーー」
全ては、終わった。
「カチッ」
時計の針が九時を指した。
「…またか…もうこれで何回目だろうか…」
「………」
「…!?!?俺は今何を…」
俺はセルヒ。ごく普通の一般人だ。転生とかもしていない。なんならしたい。話は変わるが、俺は最近、違和感を感じている。いつも九時ぴったりに起きるし、いつも起きた時に強烈な頭痛が襲ってくる。それに、朝起きる瞬間に金色の光が見えたり、自分の声で
「またか…」
などの声が聞こえる。しかしたった今、俺は今まで以上の違和感に出逢った。
「………え?」
「時間が…止まってる?」
弟の時間も止まっている。
「おい、リズ!どうしたんだ?!」
「母さんも…」
「………何も…喋らない…何も…動かない…」
「それに…何で俺だけ止まってないんだよ…」
「悪夢なら覚めてくれ………!」
外に出ても誰も動いていない。
「おいおい、本当に誰も動いてねぇじゃねぇか…」
空には飛行機がその場に止まっていたり、雲も一定の位置で止まっていたりしている。その瞬間、
「ーーー」
空中に黄金のポータルの様なものが空いた。全てが止まっている中で、それだけは唯一動いていた。中にはよくわからない数字っぽいのが並んでいる。そして、中からローブを着て、大きな杖を持った小柄な少年が出てきた。
「誰だ?!」
セルヒは警戒心を高める。
「うぅ…頭がクラクラする…」
中から出てきた人は頭を抱えている。
「…どうやら敵意は無いようだな…」
セルヒは警戒を緩める。
「ええっと…ここはどこですか?」
「え…どこって言われても…」
「あ、いや、すみません!いいんです!とりあえず、自己紹介が遅れましたね。僕は星間放浪者の、リズと言います」
ふと弟のことを思い出す。その瞬間、悲しみと疑惑の感情が込み上げてきたが、何故か直ぐに無くなった。
「え?」
「え?何かおかしなことでも言いましたか?」
どうやら偶然のようだ。そのことに気づいたら急に親近感が湧いてきた。
「いや、俺の弟の名前もリズだから…」
「そうでしたか。なら別の呼び方でもいいですよ」
「まあそんなことはいいんだが…なんで今ここに来たんだ?それに、何故か時間も止まってるんだよ。何か知ってるか?」
「そういえば、ここに来た時からずっと僕が扱う『時操魔法』という魔法に似た魔力を感じているんですよね」
「時操魔法?」
「まあ、その名の通り時間を操る魔法ですね。それに、あなたからもその魔力が感じられます」
セルヒは純粋に驚く。
「俺に?!」
「はい。それに、とても強力な魔力です。これだけあ れば、世界を操ることも容易にできるかと…」
さらに驚く。
「いやいやいや、俺魔法の使い方とか分からないし、今までだって使ったことないし…」
「まあ、人によっては使いこなせない人もいますからね…でも、使い方さえ分かれば絶対に強くなるはずです!」
この上ない程驚く。
「やったー!………じゃなく、とにかく俺の他にも動ける人を探さないと。何も分からないままだ」
「そうですね。あなたや私のように魔力が多い人なら動けるはずです!では、探しに行きましょう!」
二人は相変わらず止まっている世界を探索し始めた。
しばらくして………
「ん?あのパーカーの人、動いてないか?」
明らかに動いて何かブツブツ言っている人がいた。
「そうですね。話を聞いてみましょう!」
「あ、あの…」
青年は顔を背けて黙り込む。
「………」
「すみません。僕ら、この止まった世界で動ける人を探してるんですけど…」
青年が顔をこっちに向けた。気怠そうな顔だった。
「あぁ。知っている」
「(なんで?)」
「え?もしかしてあなたって…『創世者』の『運命』ですか?!」
「あぁ。だが、俺のことは嶷灯 翠と呼んでくれ。その呼び方はあまり好きじゃないんだ。知ってるだろ?」
「知ってるわけ無いじゃないですか…」
「まあそんなことはどうでもいい。これからはお前らの旅に同行することになるだろう。セルヒは俺を仲間にしようとしてるだろ?」
「なんで分かったんだ!?」
「まだ説明してませんでしたね。この方は『創世者達』というグループに所属している、『運命』です。『創世者達』とは、それぞれ一つずつの概念を操る能力を持った者達です」
「つまり、翠は運命を操るってことか?」
「そういうことだ。『創世者達』は他に、『予言』、『時間』、『記憶』、『生命』、『輪廻』がいる。そのうち、時間を止めている元凶は『時間』だろう」
俺はこれからの旅のラスボスを早速見つけたような気がした。
「そ、それって…誰でも知ってるようなことなのか?」
翠が呆れているように答える。
「そんなわけないだろ…これは創世神話の内容だぞ?」
「創世神話は、世界の隅にある終世遺跡の最奥に置いてあった本です」
新しい単語が次から次へと出てきてしばらく混乱していたが、いろんな説明を受けてようやく情報を整理できた。
「まあこんなところで話をしていても時間の無駄なので、早速出発しましょう!」
「そうだな!/あぁ。行こう」
三人の旅はここから始まった。
お読みいただきありがとうございます!
以下はこの作品の人物紹介と固有名詞の紹介になっています。
セルヒについて
この作品の主人公。一般人だが、膨大な魔力を秘めている。
リズについて
止まった世界で出会った異邦人。『時操魔法』を使うビビりな少年。不明な点が多い。
嶷灯 翠について
姿を変えた『創世者』の『運命』。『運命の基盤』というものを使って運命を操作できる。とても強いというのに、あまり能力を使わない。力を溜めている様。
この作品の固有名詞について
『創世者』⋯『終焉』と共に世界を築いた者達。
『創世神話』⋯『終焉』が書いたとされる、世界の始まりを記す本。
『終世遺跡』⋯『創世神話』が置かれた、世界の隅にある遺跡。しかし、ここの石板には『世界の中心』と書かれている。