【短編】テーマパークの魔女は
『さあさあ皆様ようこそ憩いの地、テーマパーク・…………へ!
ここでは今日も沢山の人々が集まり、各々がやりたい事を好きに楽しんでおります。
皆様の協力の元、毎日違ったイベントを開催しておりますが、特に当パーク名物、ショッピングモール二階での大規模なマジックショーは必見です!
それでは皆様、…………にてお待ちしております!』
近代建築ばかりの世界には場違いの、白髪で魔女のローブと帽子を身に纏った少女が一人、そんな世界の空を飛ぶ。
狂った世界を見下ろす彼女の瞳には、今日も涙が流れるのであった。
〜とある男子校の生田くん〜
僕はとある男子校の二年生の生田。
身長の低さと中性的な顔立ちのせいで、友達には実は女の子なのではとよくからかわれます。
今日は修学旅行二日目の朝。
何故かここまでの記憶が曖昧なのだけれど、昨日の僕達はどこかのテーマパークのホテルに宿泊したみたい。
そんな僕は、朝から同室になったクラスメイト達とはしゃいでいた。
ギャーギャー騒ぎながら、寝間着から学校指定の制服に着替える。
皆、良い友達で、僕は皆が大好きだ。
途中、先生が部屋に入って来てウルサイと注意されたが、それでも僕達はニコニコで次の予定の時間までを、部屋で楽しんだ。
そんな中、僕は不意に部屋の窓から外を眺めた。
すると、一筋の白い光のような何かが目の前を飛び去って行った。
凄く早くて、僕の動体視力では何だったのかよく分からなかった。
「…気のせいかな?」
そう思う事にした僕は、友達に呼ばれて次の予定の時間が迫っている事を知り、そして焦りながらも、その焦りすら楽しむように友達と部屋を出ていった。
今日最初の予定は、ホテルのエントランスに集まる事。
僕は友達と笑いながら走ってエントランスに向かう。
そこには既に、ほぼ全ての二年生が集合し並んで座っており、担任の先生が
「お前ら遅いぞ!早く座れ!!」
と僕達に怒鳴った。
皆の視線が僕達に集まり、既に座っている別室の友達に苦笑いを向けながら、僕は自クラスの列の最後尾に座った。
いつもは出席番号順で並ぶのだが、今日は来た順で並んでいた。その結果仲良しで固まるので、エントランスは正直とてもウルサかった。
しかし僕達も今は修学旅行テンションな為、周りと同じように騒ぐ。
それは、僕より更に遅れた奴が来るまで続くのであった。
全員の集合がそれぞれのクラスの担任の先生によって確認されると、二年部の学年課長(二年生担当の先生達のリーダーのような存在)が大きな声で注目を呼びかけた。
すると周りは急に静かになり、勿論僕達も黙った。
学年課長は怒ると怖いと皆知っているので、当然の行動だ。
学年課長は、僕達が静かになった事を確認すると、今日のこの後の事について話し始めた。
「えー、今日はこのテーマパーク内で一日自由行動です。皆さん、敷地外に出る事は禁止ですから、絶対に出ないでくださいね。何かあったら、このホテルに帰ってくること。そして…。」
と、長ーい話を聞く。
(はぁ…、分かってるってそんな事。)
修学旅行前に担任から散々言われたことを復唱しているだけなのでとても暇で、朝という事もありあくびをしていた。
しかし、僕の退屈と眠気は次の瞬間吹き飛ぶ事となった。
それは学年課長が、
「………と言うわけです。えー、最後に、このテーマパークの方にここについての説明をしてもらいたいと思います。」
と言って、僕がまた説明かと辟易していた時であった。
学年課長に呼ばれ現れたのは、白髪で、魔女の格好をしたとても美人な女性だった。
暇そうに聞いていた周りの男達も、
「おぉ……!」
と、意識せず感嘆の声が漏れていた。
かくいう僕も、突然現れた魔女の姿に見惚れていたのだが。
魔女は、静かに話を始めた。
「はじめまして。私、このテーマパークの総支配人…のような立場の者です。今日は、このテーマパークにご来場、誠にありがとうございます。」
そう言うと優雅に礼をする魔女。
礼をした際、控え目な胸の谷間がチラッと見えたので、女性耐性の低い男子校の生徒たちの視線は釘付けになる。
そんな視線に気が付いているのか、魔女は妖艶に微笑み、そして説明を始めた。
「等テーマパークのモットーは救い。ですので皆さんにはこれからこの場所で自由に行動してもらいます。先生方から聞いていますが、いくつかのクラスは出店を希望されていましたよね?既に、全ての準備は整っていますので、該当する生徒の皆さんは所定の場所に行くだけですよ。…あとは先程の先生の説明と全く同じ内容なので省きます。それに、ワクワクして仕方がないでしょうし。」
そう言うとまたしても微笑む魔女。
僕は、いや皆がその笑顔に釘付けであった。
ひと呼吸おいて、その魔女は宣言した。
「では皆さん!今日一日、等テーマパークをお楽しみくださいませ!」
それははじまりの合図であったため、皆大歓声を上げた。
そして皆、我先にとホテルの外に飛び出して行くのであった。
……一部の奴らは、魔女さんに話し掛けようとしていたが。
僕のクラスは出店を辞退した為、先程の勢いのままホテルを飛び出した僕は今、友達と集まってパンフレットを広げ、どこから周ろうかと話し合っていた。
きっと今日は、これからの人生でもかけがえの無い思い出になるだろう!
そんな期待に胸を膨らませながら、僕は最初の目的地へと歩み始めたのであった。
背後で魔女さんが、僕を見つめているとは知らずに。
さあ、他クラスの皆が開店に向けてせっせと準備をしている中、僕と友人、合わせて四人は早速パーク内を練り歩いていたのだが、
「なあ生田っ!ちょっと疲れたしどっかの建物入らん?」
「ん?まぁ確かにちょっと暑いしな。ええよ。どこ行く?」
「んー、とりまここでええんじゃね?お前らは?」
「「何でもー。」」
「んじゃ決定な。じゃあ」
と言う訳で、僕達は取り敢えずあのクソでかいイ○ンモールみたいな建物を目指す事にしたのであった。
その道中の事であった。
友達の一人がトイレに行くと言い出し、それにあと二人も付いて行き、僕は一人トイレがあった小さな公園のベンチで、スマホをいじっていた。
(暇やし、俺もついて行ったら良かった…。)
そんな後悔を感じていたその時、
「お暇なのですか?」
と、突然綺麗な女性の声で話しかけられたのだ。
「えっ!?」
と僕は頭を上げると、そこには先程の魔女さんの姿が。
間近で見ると、その美しさに頭がクラクラする。
あとなんだかいい匂いもするし、女性耐性皆無な男子高校生にとって、魔女さんの存在は最早凶器であった。
「おーい。どしたー?」
魔女さんは僕の顔を覗き込む。
僕は緊張のあまり、
「えっ、あっ、ぅす…。」
という返事しか出来ない。
(ヤッベ俺クソキモいやんけ!!)
そんな僕の反応を受け、魔女さんは
「アハハハっ!!そんなに緊張しなくていいのに〜!」
と、朗らかに笑った。
そして魔女さんは、
「やっぱり君は面白いね。じゃあこれ、持ってて。」
と言い、僕の右手に何かを握らせた。
「ぅえっ…?ぁざす。」
相変わらずキモい反応だったが、それはさておき僕は右手を開いた。
するとそこには、神社で売られているようなお守りがあった。
不思議そうにお守りを見つめる僕に対し、魔女さんは言う。
「絶対に無くしちゃ駄目だよ?良い?」
僕はそれに対し返事をしようと頭を上げた。
しかし、もうそこに、魔女さんの姿は無かったのであった……。
少しして帰ってきた友達に、
「ん?お前お守りとか持ってたか?」
と聞かれたが、
「いや、まあええやんか。それよりはよ行こで!」
と、何となく言ってはいけない気がしたので、はぐらかしたのであった。
その数分後、無事に辿り着いた僕達は早速中に入る。
中に入ると、まず目に入ってきたのは巨大なエスカレーターだった。
「えっ、長くね!?」
「あんな長さいる?てかなんで二階までしか無いん。」
「えっそれなw。」
僕達は無駄に長いエスカレーターと、こんなに大きいのに二階までしかない変なこの建物を笑った。
だがしかし。
「…え?ここ凄くね?」
「それよ。ヤバイわここ。」
僕達はこの建物の一階を巡った。
ここにはスーパー、色々なチェーンの飲食店、服屋、良く分からない化粧品の店、それに加え何故か魚の市場まであった。
時刻は夕暮れ。あまりのボリュームの凄さに僕は疲れ果てたので、三人の友達に二階の探索を任せ、僕は一人、一度某コーヒー屋で休む事にしたのであった……。
コーヒー屋内の椅子に座りノンビリしていると、コーヒー屋のガラス壁の先にある巨大エスカレーターに、さっきとは桁違いの数の人間たちが乗って上に上がっていくのが見えた。
「え、何あれキモっ。」
僕はボソッと呟きつつパンフレットを開く。
するとそこには、夜に『ショッピングモール内にて大規模なショー』があると書かれてあった。
(ああ、そゆこと。じゃあ俺も、あいつらと合流してそのショーとやらを見るか。)
〜家族でやって来た菊池さん〜
私は菊池、二十二歳のOL。
私は田舎の都市のそこそこな家庭に生まれ、割と幸せに育ち、そして高校卒業後は東京へ上京し、就職しました。
今日は久しぶりに実家に帰ってきたので、お父さんとお母さん、そして十歳の弟と共に車でとあるテーマパークへと向かっています。
私は疲れて車内で寝てしまっていたのか、いつの間にかテーマパークへと到着していました。
弟に起こされ、寝顔が変だったとバカにされて笑われます。両親もそれに釣られて笑います。
私も、怒るような仕草をしながら笑いました。
私の家族仲は良くて、特に弟は昔から、私に大変懐いています。
今日は朝から出かけたはずでしたが、お父さん曰く、大変道が混んでいたらしいです。
そのため、時刻は既にお昼前になっていました。
車内から外を見ると、既に多くの人がそのテーマパークに集まっており、いくつか予定してあった場所には行くことができないだろうな、とお父さんは話します。
「取り敢えず、入場してしまおうか。」
お父さんはそう言うと、チケットを取り出し一枚ずつ私達に配ると、皆車外へと出ました。
そのテーマパークはとても奇妙で、一般的なテーマパークとは違い、客がお店を経営したり、イベントを計画したりといった面白いコンセプトでパークを運営していました。
あっ、あと驚いたのは、ここジェットコースターとか観覧車とか、そういった物が一切無いんですよ。
この場所、テーマパークというよりかは、巨大な自由広場といった感じですね。
ですがそれでも施設内はかなりの客で溢れており、パっと見た所修学旅行中の高校生と、あとは何故か赤ちゃん連れの人が多いなと思いましたね。
「お姉ちゃん早く行こー!」
私がパーク外から客を観察していると、弟が既に受付をしている両親の元へ私を引っ張って行きました。
…駄目駄目。今は仕事の事は忘れないと。
せっかく遊びに帰ってきたのだから。
事前に両親が買っていたらしいチケットで入場すると、それは大規模な文化祭を行う大学のような雰囲気であると直ぐに思いました。
テーマパークらしき施設の無さがその印象に拍車をかけているのでしょうね。
さて、早速目の前に飛び込んできたのは、制服姿の男子高校生達が営む料理の屋台群でした。
「いらっしゃいませー!!うちのお好み焼きは隣の焼きそばなんかより美味しいですよー!!」
「おま、何言ってんだよ!!こんな奴のお好み焼きなんかよりうちの焼きそばの方がうめぇから!!!」
「んだとー!?」
そんなじゃれ合いを行う二人と、その周りでそのやり取りを見て笑う高校生達。
眩しい青春に対し、私は無意識に目を逸らします。
だがそんな事は露知らず、
「咲。長旅でお腹減ってないか?せっかくだからあの楽しそうな屋台で買うか?」
「あらあなた。たまには良い事言うじゃない!じゃあお母さん達ちょっと買ってくるから、ここで待っててね。」
「たまにはって…!あっ、咲!?」
と、両親はイチャつく、と。
いつもの両親のイチャつきを見せつけられましたが、私は弟と共に青春に飛び込んで行く二人を見送りました。
両親は、
「あっ、お客さんですか!?いらっしゃいませ!うちのお好み焼きがオススメですよ!!」
「お前!抜け駆けすんなよ!!お客さん、こっちの焼きそばはどうです?そっちのお好み焼きなんかより美味いですよ!!」
と、無事に青春に巻き込まれていました。
(……まぁ、見た感じ両親も楽しそうにしているからいいかな。)
そう自身の中で結論付けた私は、青春の眩しさから逃れるように視線を泳がしました。
初めは何となく空を眺めていたけど、やがて飽きた私は、
(そういえば蓮、さっきから喋らないな。)
と、弟の事が気になり、隣に居る弟の方を向いてみました。
すると弟は、パーク入り口から少し離れた場所にある、大きなショッピングモールのような建物を一心に眺めているようでした。
私は、
「蓮〜?何見てるの?」
と、その質問に特に意味や意図はなく、ただ何となく聞いてみたんです。
すると弟は、
「…お姉ちゃん、帰ろう…?」
と、突然私の手を握り、小さな声でそう答えて震えていました。
「え…?」
その弟の異変に対し困惑していたのですが、
「お〜い!凛花!蓮!飯買ったからこっちの席で食うぞ〜!!」
というお父さんの呼び声が聞こえたかと思うと弟は、
「やった〜!僕お腹空いてたんだよね!」
と、先程の事が嘘であったかのようにころっと様子を変え、そして両親の元へと私を引っ張って行くのでした。
去り際に私は振り返りました。
そして弟が見つめていたその先を良く目を凝らして見てみると、そこには魔女の格好をした白髪のお姉さんが居て、とっても綺麗なその魔女さんは、何故だかこちらを眺めているように感じられました。
……?
…それより、早く両親の元に行かないと。
そう思ったその時、ふと自分のズボンのポケットに膨らみがある事に気が付きました。
(何だろう?)
と何となく気になった私はポケットに手を突っ込み、その何かを取り出しました。
それは、お守りでした。
(…?こんなお守り、持ってたっけ?)
そう私が疑問を感じた時、
「おーい!凛花ー?どうかしたかー?」
とお父さんが声を掛けてきたので、
「ううん。すぐ行く!」
と返事をし、私はポケットにお守りを戻すと、両親の元にかけていったのでした。
両親の元に行くと、机にはお好み焼きと焼きそば両方が並んでおり、
「見事に両方買わされちゃってさ。」
と、私は笑いながら座りました。
「まあまあ。そんな高くなかったし別に構わないじゃないか。それより、冷めないうちに食べようか。」
その後、私達は家族団欒を楽しみながら食事も楽しみました。
味は……まあおいておいて、努力と青春と屋台を感じられて、小さい頃行った花火大会の事を思い出して話したりもしました。
途中さっきの高校生がやって来て、
「「食事中すぃぁせん!どっちのほうがうまぃっすか!?」」
と聞いてきたりとかもあったりしました。
あの二人、喧嘩するほどってやつですかね。
さて。食事も取り、元気もチャージしたところで早速パーク内を巡ろうという事となりました。
…いやまあ当たり前ですね。
最初に行ったのは体育館のような施設。
どうやらここでは最新のVRゲームを体験出来るイベントが開催されているらしく、そこでひとしきり楽しみ、その後も私達は色んなイベントに参加してまわりました。
そして時刻は夕暮れ。
流石に疲れたお父さんが
「そろそろ本命のモールに行こうか。」
「そうね。行きましょう?」
と提案しそれにお母さんも同意したので、私達は早速ショッピングモールを目指して歩き出しました。
ここで、私は周りの異変に気が付きました。
「あれ?何だか周りの人達もモールを目指してない?」
いま私達が歩いている道の先にはモールぐらいしか無く、周りの人達が皆私達と同じ方向にしか進んでいない事が少し不気味に思えたのです。
しかし、お母さんが
「ああ。それは多分、皆これが目当てなのよ。」
といい、私にパンフレットの一部を見せて来ました。
そこには、夜に行われる『ショッピングモール内にて大規模なショー』の事が書かれてありました。
ああなるほど。と納得した私はパンフレットをお母さんに返し、再びショッピングモールを目指して歩き出しましたのでした。
ショッピングモール内に着くと、既に中には大量の人が居ました。
そして何故か皆二階を目指していて、その光景を見た私は、
「うわっ。」
と若干引いてしまいました。
そして、それで完全に萎えたのか、
「私は、そのショーとやらはいいかな。」
と、両親に伝えました。
両親は、
「うーん。まあ、そう言うなら仕方が無い。三人で見に行くとするか。」
「そうね。じゃあ蓮。行きましょ?」
と言い、弟の手を握ったのです。
その時の弟は、何かを訴えかける目をしながらも何も言わず、黙って両親について二階に上がっていったのでした。
さて、ここに来て始めて一人になった私は、何となく外に出てみことにしました。
外は既に夜になっており、星空とそれに浮かぶ満月があまりにも美しかったです。
しかし、相変わらずショー見たさに集まってくる人の多い事。
ウンザリしつつ私はショッピングモールの裏手に回り、壁の窪みに腰掛けると、一息つきました。
そしてもう一度夜空を見上げると、一人になった事によってか色々と思いだしてしまい、自然と涙が流れてしまいました。
私は高校卒業後夢にまで見た上京を果たし、そして幼い頃からの夢だった化粧品に関わるお仕事に就職する事が出来ました。
ですが、夢は結局、夢のままで終わらせる方が良いのだと実感しました。
回ってくる仕事は雑用や外回りといった物ばかりで化粧品開発など一切関わらさせてくれず、上司のセクハラパワハラに耐え接待をして、帰ったら寝るだけの日々。
休日は殆ど無く、休みを取ろうとすると、クビにするぞと脅され、使えない新人だと罵られ、陰口を言われる。
そんな生活を続けて今年で四年目。
今度は私が新人を同じ様に扱う番。
そんな事したくなくても、しなかったら私が再びその扱いに戻るだけ。
相変わらずセクハラパワハラは止まず、ようやく企画書の提出は認められたけど、まともに取り扱ってもらった試しが無い。
…私は空を見上げ涙を流しながら、ずっと我慢してきた言葉を漏らしました。
「あと…あと何年頑張ればいいの……。」
そう、その時でした。
「……そっか。そうなんだね。」
私は突然の声に驚き、声がした方に急いで振り向きました。
するとそこには、とても辛そうな表情を浮かべた、さっきの魔女さんが立って居ました。
いつ私に接近した!?とか、足音は!?だとか、考える事はいくらでもあったと思います。
ですが、何故でしょう。
魔女さんからは、安心感の様なものを感じて、警戒という言葉や感情は一切出て来ませんでした。
「……ねえ、凛花さん。家族は、好き?」
魔女さんは何故だか私の名前を知っていました。
ですがそれよりも、その質問の方を優先したいという気持ちで私は満たされていたのです。
だから、答えました。
「はい。家族は皆、優しくて、暖かくて。家族は私の『帰る場所』なんです。」
すると、その答えを聞いた魔女さんは、更に辛そうな顔を浮かべました。
「……そっか。帰る場所、か。」
そして、魔女さんは少し黙り込みました。
かと思ったら突然、何かを決心したかのような表情を浮かべると、
「なら、この後始まるショーを見に来てよ。」
と、それは悲しそうな笑みを浮かべて言いました。
「えっと…?それはどういう」
事なのですか?と、聞こうとしていたその時強い風が吹いたので、私は一度言葉を中断し、あまりの風の強さに目を閉じました。
そして、目を開けた時には魔女さんは居なくなっていました。
「…何だったの…?」
そう言いつつ私は立ち上がり、まあ不思議な魔女さんに言われたし…と思ったので、ショーを見る為にショッピングモールへと戻って行ったのでした。
ズボンのポケットから、膨らみが消えている事にも気付かずに。
〜私は笑顔を終わらせる〜
今日も、多くのお客様がパークにやってきた。
私は今日も、来場されたお客様一人一人全てを見て回った。
皆、笑顔に溢れていた。
でももうすぐ、このパークは閉園の時間。
ならば最後を飾る私のショーで、最期まで笑顔に溢れて貰おうじゃないか。
ショッピングモール二階中央、巨大ステージに集まった来場者達。
そんな人達の前に魔女は、箒に跨がって来場者達の上を虹色の光を降らしながら飛び回って登場した。
その幻想的な輝きに、来場者達は大歓声を上げる。
しばらく飛行パフォーマンスを続けた後、魔女はスタッとステージに着地した。
そして一礼すると、再びの大歓声を浴びながら魔女のショーは始まった。
魔女は小さな杖を取り出すと、まずは小さく杖を振った。
すると杖の先から温かい光が溢れ出し、それはやがて会場すべてを包み込んだ。
次に魔女は、巨大な積み木のお城を作っては観客の頭上に移動させてから崩し、観客に当たるギリギリで止めてみたり、巨大な可愛い動物の人形を呼び出しては観客に与え、その暖かさを伝えたり、頭上にオモチャの車や電車を走らせたりを行った。
次に始まったのは、観客の頭上で人の形の人形達が、かくれんぼや鬼ごっこなどの遊びをするという演目であった。
時々人形達がコケたり拗ねたり喧嘩したりと、人間らしい仕草をしたら会場には笑いが発生した。
その次は、先程とは変わって本格的なスポーツであった。
観客のギリギリまで野球のボールやサッカーのボールが飛んでくる。
観客のギリギリを攻めるたびに、観客からはおおっ!!といった声が上がった。
次は先程とは違い、景色を楽しむ演目であった。
だが、それは単に綺麗だとかそういうものでは無かった。
突然雨が降りだしたかと思えば、突然晴れる。
雷が鳴り、竜巻が起こり、そして晴れる。
そういう時間がしばらく続いた。
そんな時間が終わったあと、会場には大きな大きな虹が掛かった。
そしてその上では、初めの方に見た動物の人形達が楽しく遊んでいた。
観客は皆、その姿を微笑ましく眺めた。
動物たちは虹の上から観客を覗くと、上から優しく手を伸ばした。
観客も、それに釣られて手を伸ばした。
その時、一度も喋ることの無かった魔女の声が会場内に響いた。
「この公演を持ちまして、当園は閉園をさせていただきます。皆様、長い間お疲れ様でございました。」
魔女はそう言い終わると、一人一人の観客の身体を優しい光で包み、その身体をゆっくりと空に浮かべて行く。
そして、観客はそのまま虹の上の動物人形達に近づいて行く。
そして動物人形達に触れると、人形達は優しく観客を抱き締めて、光の粒へと変え空へと共に登って行った。
その中のとある一人の少年も、合流した友達と共に空へと登っていこうとした。
しかし、自分だけが何故か光に包まれず、三人の友達において行かれてしまった。
少年が、
「お前らだけずるいって!!」
と叫ぶと、三人の友達は振り返り、
「「「生田。お前はまだ来んなよ。」」」
と言って、そして消えてしまったのであった……。
一人を残し、他全てが光の粒となり空へと登っていった。
皆に笑顔を与え、そして奪った魔女は呟いた。
「私の…帰る場所…か。」
魔女は悲しげに笑うと、再び箒に跨がって空へと飛び上がった。
誰も居なくなったパークを空から見下ろす。
魔女の魔法で用意された屋台やイベントは既に夢の様に散り始めていた。
その様子を見て、魔女は自傷気味に笑い、そして呟いた。
「やっぱり、ここは夢の跡地だよね。」
〜???〜
『えー、臨時ニュースです。先日お伝えした高速道路上での乗用車と修学旅行中の高校生の乗ったバスの衝突事故ですが、その場で死亡が確認されず救急搬送された、バスに乗っていた男子高校生一名と乗用車に乗っていた22歳の女性ですが、22歳の女性は先程死亡が確認され、男子高校生一名は一命をとりとめ、現在命に別状がない状態にまで回復したとの事です。』
初めての短編小説でした。
面白かったら、是非評価とか、感想とか、そういうのを宜しくお願いします。