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第五話


「相性……あっ、もしかして…」


思わず上げられたレイの声にロウディはしっかりと頷く。

王都での生活、しかも騎士団長の暮らしとなれば、それなりに規則や束縛が多くなるなど大抵の人間が予想できるだろう。

そうしてレイの兄ギルの性格を知っているとなれば、全て言わずとも察する事ができるはずだ。

ロウディは微かに目を伏せながら、言葉を続けた。


「基本的に騎士団の団長は国の中枢と国王を守るため、王都に常駐するのが決まりです。その決まりも団長にはストレスだったんでしょう」


ロウディがチラリとエルドを一瞥する。ギルと同じく旅人だったエルドは、それはもう大きく頷いて見せた。


「何かしら旅をしなくちゃいけない理由があるってわけじゃなく、団長殿は好きで旅をしていた人間です。自分の意思云々の問題とか以前に、無意識下でストレスを感じてもおかしくないでしょうね。生活リズムもまるっきり変わるわけですし」

「それに加えて、騎士団長は騎士団の責任者として書類仕事もしなければいけません。パーティーでの交流も仕事のうちに入ります。しかも、相手は今まで接してこなかった腹の底が見えない貴族ばかり。中には英雄と持て囃される団長を良く思わない者も、正直な話をすれば居ます。ストレスを感じて参ってしまうには十分な環境でした」


静かに話を聞くレイの表情から、だんだんと色が抜けていく。


「いつも気丈に振る舞ってはいますが、やはり参っているのは目に見えていて……レイ様をお呼びしたのも日々の生活に耐えられなくなったからでしょう。ある日突然、妹を連れてくると言い出して。我々も肉親が側にいれば少しは気が楽になるのではないかと思い、受け入れる事にしました」


騎士団長をやっていると告げた後、ギルは「迎えを寄越す」「一緒に暮らしたい」の一点張りだった。

レイが説明してほしいと何度言っても聞かなかったのは、おそらく自分が説明下手だと自覚していたからだろう。

それにもしかしたら、そんな余裕すらなかったのかもしれない。

ふざけた強硬手段に出るほどに、追い詰められていたのでは。

事実レイも兄の異変を察して、自分から話を切り上げ、怒りは治らなかったけれどここに来る事自体は了承したのだから。


「わかりました。一ついいですか」

「はい、なんでしょう」

「兄が騎士団長の立場にこだわる理由って、わかりますか?」


その問いを聞き、ロウディはグッと喉が詰まる感覚に襲われた。

緊張するように震える拳に違和感を覚えるも、こちらを見つめてくるレイを待たせるわけにもいかず口を開く。


「ドラゴンとの攻防で前任の第四騎士団長ルカリオ様が亡くなられました。団長とルカリオ様はとても懇意にされていたので、おそらく彼の意思を継ごうとしているのだと思います」

「………そうですか」


納得したのか前のめりだった姿勢を崩したレイに、ロウディはほっと胸を撫で下ろす。

追い詰められたギルの現状を、その親族である彼女に話す事に知らず知らずのうちに緊張していたのかもしれない。

その後、部屋の空気がほのかに和らいだ事を察した家令のジルが「長旅で疲れた事でしょう」とレイをこれから使う私室へと連れて行った。

彼女の世話役であるリックとイルゼも同様に部屋を後にする。


その場に残されたのはロウディ、エルド、マチルダの3名のみだった。


「ギル様の妹君にしては大人しい方でしたね。最悪ギル様と性格が全く同じ少女が来ても仕方ないと思っていました」


最初に声を発したのはマチルダだ。ギルの短所をほのめかす言い方にロウディとエルドは肩を竦めた。


「ですね。何か隠しているような素振りもない。最初は1人で森に暮らしていると聞いて驚きましたけど、単に森暮らしに慣れているだけかな」

「だからこそ、ギル様の心の拠り所になってくれるのではないかと思いますが…」


レイを簡単にまとめてしまうなら、後ろ暗いことなど何もなく、精神的に追い詰められた兄を支えるため森から出てきた献身的な妹。

ロウディとマチルダもそうであると確信し、これでやっとギルも心を休めてくれると安堵していた。

──ただ1人、エルドだけは不可思議この上ないという顔をしていたけれど。


「なぁロウディ」


エルドに呼ばれロウディが視線を上げる。


「お前、気付いてないのか」

「……?」


鋭い目つきで見つめられ、ロウディだけでなくマチルダも首を傾げた。気付いてないのか、とはどういう意味だろうか。

問題はなかったはずだ。レイを御者として迎えに行き、屋敷の者達を紹介し、事情を説明し、今は私室で荷解きでもしている頃だろう。

ロウディがなにも答えずにいると、エルドは大きくため息をついて見せた。


「そんなんだからモテないんだぞ!?」

「は?」

「あーもー!ギルも端正な顔立ちだけど妹も可愛かったな!しかも気弱!お前の好みど真ん中じゃないか!」

「っはぁ!?」


手を大きく広げて抗議するエルドに思わずロウディが声を荒げ、マチルダはガクッと肩を落とした。この男、料理の腕には真面目だがそれ以外は大概不真面目である。


「プラス要素として健気だ、どうだロウディ狙ってみっ」

「その口を閉じなさいエルド」

「ブォッ!?」


ドゴンッ、とエルドの頭上に拳が落とされた。

細い腕から繰り出される鉄拳は魔術によって身体強化されているため、筋骨隆々の男の拳と同等の威力である。

直球で言えば物凄く痛い、床でのたうち回るレベルで痛い。


「いってええええええ!?」

「自業自得です。それに呼び方には気をつけてくださいエルド。ギル様もロウディ様ももう我々が呼び捨てにして良いような身分ではないのですから」

「わ、わかった!わかってる!わかってます!だからそのあげてる足下ろそう!?な!?」

「あらここに?」

「顔の真上から足下ろすやつがあるかー!!!!」


エルドの顔目掛けてだんっと勢いよく足が振り落とされ、すんでのところで慌てて避ける。

涼しい顔のマチルダとは反対に、エルドは先ほどの拳骨の痛みも相まってゼェハァと肩で息をしていた。


「少しは反省なさい。ロウディ様、先に行きましょう」

「あぁ、はい」

「!?え!?ロウディも行くの!?」

「痛みが引いたら夕食の準備お願いします。あ、今日は俺も一緒に食べるので俺の分も」

「かしこまりましたよチクショウ!」


ここに俺の味方はいないのか!と自分から味方をなくした男が喚く。

けれどもエルドの悪ふざけなどいつもの事であるため、マチルダもロウディも少し笑いの混じった呆れ顔で部屋を後にした。

扉の閉じる音を聞きながらエルドは応接間の床に寝転がる。

埃一つ落ちていない絨毯の上だからか、汚いとはあまり思わなかった。


「は〜、なんか怖いのが来ちゃったな〜…」


吐き出すように呟かれた言葉は、誰の耳にも届かない。

お読みくださりありがとうございました。

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