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第四話


◇◇◇

そのドラゴンはある日突然現れた。

城と同じほどの大きさであると言って相違のない巨大な体は赤黒く、金の目に見つめられるだけで心臓が止まるほどの威圧感を持つ、正真正銘の化物。

ドラゴンは古来より知恵者として名高く歴史には強者として記され、自ら人里に出向いて人間を襲う事などまずあり得ない生物のはずだった。

けれどその赤黒いドラゴンは人を襲い、街を破壊し、悪逆の限りを尽くした。まさに異端のドラゴンだったのである。

これに頭を悩ませたのは、国民を慈しむ心優しい国王陛下。陛下は国民を守るため、腕に覚えのある者達にある通達をした。


──我こそはと名を挙げる強者よ、かの憎きドラゴンを討ち滅ぼせ。さすれば永遠の名誉と財を与えよう──


陛下のこの発令により、国中の強者達が声を上げ剣を掲げた。

けれどその異端のドラゴンには、誰の剣も届かなかった。

ある者はその翼を切り裂く事もできず、ある者はその大きな瞳に睨まれ逃げ出し、ある者はその大きな爪に貫かれた。

まるで人間を赤子同然のように屠るドラゴンを、人々は恐れの念を込めて“血濡れの暴君”と呼んだ。


あのドラゴンは誰にも倒せない。──そう確信されるかと思った時、かの英雄は現れたのだ。


まだ年若い少年はその戦いの才覚を買われてドラゴン討伐隊に加わると、圧倒的な力を持ってして討伐隊を勝利へと導いて行った。

ドラゴンが住処としていた山までは、魔物が多く住む森や盗賊が潜む道中を行かなければならかったが、少年はそんな事は物ともせずにドラゴンの元まで突き進んだ。

そうして少年は、陛下の悲願、国民の望みを叶えて見せた。

英雄と呼ばれるようになった少年には陛下から多大な名誉と財が与えられ、その功績から国を守る使命を与えられるに至ったのだった………。

◇◇◇




「教科書に載っている大まかな話はこんな感じです」

「きょ、教科書……」


何故か物語調だったロウディの説明を聞き、レイの口が間抜けに開かれる。

なんだ今の英雄譚は?誰の話だって?


「まさか知らなかったとは…ソレッドの人間じゃなくても誰もが知っている話ですよ。15年前に現れたその災害(ドラゴン)の傷痕は、当時他の国にいた俺の耳にも届いてましたし…」


エルドが驚いた様子で話を付け加えるが、レイから言わせてみれば15年前の自分はまだ1歳だったのだし、成長した後も森でひっそりと暮らしていたのだ。

何より、レイが暮らしていた森はソレッド王国の領地内とはいえ滅多に人の侵入がなく、レイ自身が街に降りなければ人との交流など持つ事のできない場所にあった。噂も何も届くわけがないのである。


「つまり、そのドラゴンを倒したから、お兄ちゃんはこんなお屋敷がもらえるほど偉くなったって事ですか…?」


怒涛の情報量に、レイの頭は混乱しつつも最適解を導いた。そうです、と強く頷くロウディに、レイが頭を抱える。


「もっと言えば第四騎士団の団長を任され、今も国の英雄として街を歩けば人に囲まれる程度には超人気者です」

「わぁ聞きたくなかった情報だぁ…」


国を救った英雄、それはとても名誉な称号なのだろう。けれどそれが兄となれば話は別だ。

いや誤解を招く言い方は避けよう。別に、兄が英雄になったからレイは頭を抱えているわけではない。

正確に言うなら、“英雄の妹”という扱いにくい称号が、森で1人気ままに暮らすばかりだった自分に付加されたことに頭を抱えていた。

森で暮らしているだけなら関係なかっただろうに、今自分はその英雄の国にいるのだから。


「レイ様、本題はここからです」

「えっ……」

「団長がレイ様をこちらにお連れした理由ですね」

「あっ……」

「大丈夫です、記憶がとんでも何度でも説明しますので」

「うっ……」


もう人の言葉も発せない。

レイがどんどん萎れていく様を見つつ、ロウディは容赦なく口を開いた。


「団長がレイ様をこちらにお連れした理由は…ずばり、ストレスです」

「………はい?」


ポカン、兄の偉業を聞いた時でさえ見せなかった阿呆面を晒しレイが固まる。


「すとれす、すと………ストレス!?あのお兄ちゃんが!?」


言葉の意味を処理し理解するまでにかかった時間はおおそよ3秒。

レイがガバッと体を前のめりにしてロウディを凝視すると、ロウディは至って落ち着いた様子で頷きを持って肯定して見せた。

この男、変人である事に加えて全く動揺を見せない。


「え、す、え?」


ストレス、言葉の意味はわかる。

心や体に過剰な負荷がかかる事を指す言葉、だろう。レイの認識が合っているのであれば。

けれどもレイの記憶に住む兄は、ストレスとは無縁の男だった。

ムカつく事があれば「ムカつく!」と叫び、笑いたい時は笑い、泣きたい時は「止まんねぇどうしよぉ!!」と泣きついてくるほどに号泣する。

過剰な負荷がかかる前に嫌いなものからは全速力で逃げ、逃げられないとわかれば嫌いなものそのものを叩き潰すような性格なのだ。


そんな兄が、ストレス………?


「なんで…」


口から転げ落ちたレイの言葉を聞き、ロウディの後ろに控えていたジル達が顔に影を落とす。

答えたのは、やはりロウディだった。


「端的に言ってしまえば相性の問題です。団長の性格と、王都での生活の」

お読みくださりありがとうございました。

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