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第三話

案内された先はゆとりのある応接間。

ロウディが扉を開けると微かな足音がいくつか聞こえた。


「お待ちしておりました」


数えれば5人、使用人にしては上等な制服を着た人らが揃って頭を下げる。

最初に言葉を発したのは初老の男性だった。

たった一言目の声を聞いただけで、紳士とはこういう人を言うのだろうとレイが感じ取るほど、とても穏やかな雰囲気を纏った人。


「ルカニア家の家令をつとめさせていただいております。ジル・ダールと申します。心よりお待ちしておりました、レイ様」


にこりと微笑む姿は穏やかな大樹のようだ。なぜだか彼の声を聞いているとホッと肩の力が抜ける。

レイが入り口で立ちっぱなしになる様を見てジルはもう一度穏やかに笑い、ロウディを一瞥する。

その視線に気づいたロウディがレイの背中を押し、レイを客間のソファに座らせた。


「他の者の紹介もさせていただきたいのですが、よろしいですか?」

「あ、はい…」

「ありがとうございます。まず家政婦長から、マチルダ・グレンジャー。主に私と共に使用人達の統括を行っている者です」

「ご紹介にあずかりました、マチルダ・グレンジャーと申します。レイ様とお会いできるこの時を心待ちにしておりました。よろしくお願いいたします」


ゆったりと弧を描いた口元はとても上品で、レイは少しだけ母を思い出した。

母も彼女と同じように穏やかで、何をしてもお淑やかな人だった。


「次に、ルカニア家の料理長を任せております。エルド。元は旅人でしたが、その腕を見込んでギル様がスカウトした者です」

「レイ様、初めまして。どんな注文にも対応してみせますんで、遠慮せずになんでもお言いつけください」


ニッと笑う姿に、なるほど、と思う。少なくともマチルダのような上品さは見受けられないけれど、代わりに溌剌とした暖かさがあった。


「最後に2人、レイ様の身の回りのお世話を担当いたします。リックとイルゼです」

「リックです。レイ様の身の回りのお世話をさせていただきます!」

「同じく、イルゼと申します。よろしくお願いいたします」


揃って頭を下げたのはレイより少し年上か、あるいは同い年ほどの男女。快活な笑みを見せた少年リックと、所作の一つ一つまで美しい少女イルゼ。

正反対のように見える2人だけれど、レイへ向ける視線はよく似ていた。


興味、関心、敬愛、奇異。


感情の入り混じった目だ。けれども不快感はなく、レイはやっぱり居心地の悪さを感じた。


「ギル様からレイ様はあまり人と接する事に慣れていないと聞いておりましたので、挨拶はこの5名までとさせていただきましたが、ルカニア家には他にも多くの使用人がおります。もし機会がございましたら、お声をかけてあげてください」

「わ、わかりました」


目線を合わせ、丁寧に微笑むジルを見て、レイは目眩がするかと思った。

ジルが紳士的である事はもこの短い会話でわかったけれど、それ以前になんなんだその話し方は。

まるで一国の姫になったみたいだ。それとも王都ではこれが普通なのか。


「レイ様、どうかしましたか?」

「え!?あ、い、いや…なんでもないです」


まるで借りてきた猫のような態度でレイがぴっしりと固まってしまう。

キョロキョロと視線を彷徨わせる姿が少し不憫にさえ見えた。


「レイ様…」


それはどうやらジル達も同じだったようで、代表してジルが心配そうに声をかける。


「もしよろしければで良いのですが、ギル様からこの屋敷に来る事をどのように伝えられたのか教えていただけませんか?あまり考えたくないのですが、どうも我々とレイ様で認識に違いがあるような気がするのですが…」


ジル様何を…?という顔をしたのはリックとイルゼ、まさか!という顔をしたのはマチルダとエルドであった。

ギルと付き合いの長い者達が驚嘆の表情を浮かべた事で、ロウディもなんとなく予想していた事実に確信を持ち始める。


「えっと…騎士団長になって家を買ったから、一緒に暮らそうと言われました」

「なるほど。他には…」

「………えー、と、あの、迎えは3日後あたりによこすから準備しておいて、とは言われた…かな?」

「まさかそれだけですか?他には何か…騎士団長になるまでの経緯や、現在の立場などについては」


パチクリとレイが目を瞬かせる。ジルの顔色があからさまに悪くなった。


「いえ全く」


きっぱりと言い切ったレイを見て、もう我慢ならないとマチルダが「そんな馬鹿な!」と声を上げ、それに答えるように「あいつは最初からずっと馬鹿だろ」とエルドが言う。

リックとイルゼは驚いた顔で「え、どう言う事!?」「そのままでしょう」なんて会話をしていた。

全く事態が飲み込めないのはレイだけだ。

どうすれば良いのかと焦るレイの肩に、ロウディが優しく手をかける。


「団長へのお説教は俺達に任せてください」

「え?お、お説教…?なんで…?」


いきなり物騒な事を囁いてきたロウディは素直な反応をしたレイに対し、満面の笑みを浮かべて答えた。


「レイ様は最後の仕上げに団長の顔面を殴りましょう!大丈夫です、コツは教えますので!」

「いやだからなんでですか!?」


とりあえず、ロウディは変な人だという事だけは確かにレイの記憶に刻み込まれた。

お読みくださりありがとうございました。

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