リヴァイアサンの熱帯夜
時々ある不眠の日には私の心の中に嫉妬の炎が噴火している。
火は蝕む。私が何においても自分が愛する者を他者に愛されることに我慢がならない。
夢の中で私と彼ら彼女らの様々な形で育まれる貴重な一日を最も尊い思っているのにもかかわらず、現実にその尊い一日はないのだ。なんてことだ!
こんなにも愛している。誰よりも言葉を尽くしているのに。この夢は夢でしかない。現実ではきっと私以上に愛する者がいて、その者に彼ら彼女らは愛するを強いたりもするのだろう。
許せない。私の愛が、想像が作り上げる日々を享受せずに、のほほんとしているのが許せない。
あぁ、嫉妬。あぁ、なんて醜い嫉妬。理解されることも無い傲慢だということは分かっていても、私は私の嫉妬を理解しているがために合理化させようとして毎夜起き上がり、獰猛に牙を剥き飛翔する愚かなる心の生物を諫める。
サークルというコミュニティにおける私が尊敬する方がいて、その方と出会ったのは三か月もない。けれども、他の面々は二年以上の付き合いがある方もいる。その方と親友だったり腐れ縁だったりする方もいる。
それがどれほど邪魔で仕方がないか。殺意として蜷局を巻くに十分な理由足りえるか。
許せない。現実が許せない。私が並び立つことが出来たかもしれないのに、その可能性を描かなかったこの現実を燃やし尽くさねば気が収まらない。だから、煌煌と燃え盛る硫黄のように嫉妬が沸き起こる。
大学の親友がほかのやつらと旅に行ったとか、ライブに行ったとかも許せない。
この私を差し置いて? なぜ? 何が気に喰わなかった? どうして私じゃない?
許せない。たった一度しか殺せないのがなんとも残念に感じるほど、焼き殺すにあまりある嫉妬の炎。どうしてくれようか。どうしてくれようか。
嘆きは咆哮。殺意は暗闇。愛は嫉妬となり君を突き刺し、十字架に張りつける。
私の愛する者よ。丘に行き、太陽を仰げ。
そこに汝の太陽がある。しかし、果ては崖である。
私は権威と兵を兼ね備え、車輪の音を轟かせながら終末のラッパを吹く。
必ずやお前たちを崖まで追い詰め拿捕し、十字架にはりつけてやる。
どれほど赦しを乞うても私の中で翼を広げた竜の獣は鎮まることを知らない。
そして、太陽すら地平に消え、お前たちを見限った時、お前たちが流した絶望の涙をガラス瓶に封じ込める。
そして、私が持つ凡庸な木の槍で貴様らの肝臓を刺してくれる。
刺される痛みと血を失う恐怖を一晩味わい、喉が焼けつくように言葉を叫ぶがいい。
私へ赦しを求めるか。私へ呪いをかけるか。
けれども、家族や友人へ遺言を残すことは絶対に許さない。私はお前たち愛する者の舌を焼いた鉄ばさみで斬りおとす。
さぁ、太陽が見えてきたぞ。
希望に乾いた眼が潤うだろう。
さぁ、もう一刺しを左目にくれてやる。脳まで達する深い深い木の槍だ。
そうして死んだら君の血を集めてこれもまた小瓶に保存しよう。
昨晩に貯めた涙は君の死体を下ろした後のコルクの十字架にかけておく。
あぁ、あぁ、ようやく死んだ。
私の嫉妬心も眠りについた。
朝を迎えれば燃え上がるのは太陽と生命だけなのだ。
偽りの愛も幻影も闇の中でしか燃え盛らない。
あぁ、良かった。
私は愛してなど最初からなかったのだ。