第1話 夢見る青年と氷漬けの少女
辺境の村に住む青年アレンには大いなる夢があった。
金持ちになりたい、王国でいい地位に就きたい。
この世界の人間は大抵こういう夢を持つ、しかし彼だけは違った。
「何にも負けない最強になりたい.......そして女の子たちにモテモテになってハーレムを築きたい.......あ〜こんな夢、叶いっこないのにな、本当につまんねー世の中だぜ」
今日も村で絶賛畑仕事中です、終わったら森に狩りへと行く予定であります。
ちなみにサボったら村の人間にボコボコにされるのだ。
この村で産まれてから十七年、アレンはこの村での生活が心底嫌いだった。
―――――――――――――――――――――
物語の始まり方は千差万別だ。
例えばこのように森で謎の遺跡を見つけた、とかだ。
「狩りなんかクソ喰らえと思って森の奥まで来たけど、こんな遺跡があったんだな」
崖に張り付くような形で作られている遺跡には古びた鉄扉が口を閉じていた。
「というかこの扉.......空くのか?んっ.....しょ!」
扉は錆びていなかったのか、すんなりと開いてしまう。
この先には何があるのか分からず、全くの未知の世界だった。
「ちょっと危ないかもしれねぇけど.......もしかしたら伝説の剣とかあったり.......?」
溢れ出る好奇心には逆らえず、アレンは遺跡の中に足を踏み入れてしまう。
こういう遺跡には大抵、罠やらモンスターやらが潜んでるかと思いきや、遺跡の中は妙に小綺麗で、まるで遺跡の内部だけ時が止まったかのようだった。
「不思議なところだな......ん?あれは......え、女の子!?」
一際広いスペースに、大きな水晶が置いてある、その中にはなんと銀髪の幼い少女が一糸まとわぬ姿で入っていた。
「ま、まさか死体?じゃ、ないだろうな....冷たい.....いややっぱりこれって氷漬けのしたいじゃないの!!??」
一瞬取り乱したアレンだったが、彼女と共に氷漬けにされたある物に見入った。
長めの太い棒に先端にはひし形に近い物体が取り付けられている不思議な物だった。
「なんだこれ?よく見えねぇや...とりあえずこの子を出してあげないと、」
何か氷を砕く道具がないかと当たりを見回してがそれらしき物は見当たらなかった。
しかし彼は気が付いた、氷の表面.....正確には氷漬けにされた少女の控えめな胸付近に魔法陣のような物が書かれていたのだ。
「これは.......氷が!?」
なんと彼が魔法陣に触れると、氷がドロドロに溶け始めたのだ。
一瞬にも満たない時間で氷は消失し、少女が倒れ込んでくる。
「お、おいアンタ.....生きてるか?」
死んでいるかもしれないが、とりあえず呼びかけてみる。
すると彼女はうっすらと目を開けた。
「ん.......勇者様....?私は一体...」
勇者!?一瞬、はいそうです、と言いかけたがこんなに幼い女の子を騙すのは心苦しいので正直に言う。
「期待させちまって悪いが俺はそんな大層なもんじゃない、それにアンタ....そんな格好でいいのか?」
自分の格好に気がつくと少女は自らの体を抱き寄せて必死に隠した。
「み、見ないでくださいっ!あっち向いてて.......」
「わ、悪ぃ.....それでアンタは何者なんだよ.....」
「わ、私は待ち人のアレクシアといいます.....勇者様に神器と共にここで待つように言われていました」
勇者といえば5000年前に異世界から現れ、魔神と相打ちになりながらも世界を救ったと言われる伝説の勇者のことだろうか?だとしたら彼女は.......
「アレクシア....何を言ってるんだ?勇者は5000年前に魔神と相打ちで死んだぞ....」
アレンからそのことを聞いたアレクシアは慌てたような表情になる。
「ば、バカ言わないでください!!5000年.......?今は人界歴1100年じゃ....」
「今は人界歴6100年だ、多分アンタはずっとここで眠っていたんだよ」
「そ、そんな.....私はこれからどうすれば...」
アレクシアはその場で崩れ落ち、大粒の涙を流す。
その様子を目にすると、アレンに最低な考えが浮かぶ。
(いま孤独感で押しつぶされそうな、この子に優しくしたら惚れてくれるんじゃね?)
ああ、俺って最低だな。
しかし、その前にアレクシアがアレンを指さした。
「お兄さん、勇者様の代わりになってくれませんか?この神器をあなたに授ける代わりに」
アレクシアはそう言うと一緒に氷漬けにされていた鉄の筒を差し出してくる。
彼女の体よりも大きいその筒を。
「これはなんなんだ?」
前々から気になっていた、彼女が《《神器》》と呼ぶ物に。
「これは勇者様が愛用していた一撃必殺の爆弾を発射する最強の武器、無限ロケットランチャーです」