表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂時計  作者: YUKI
4/5

4

ピンクの花びらが頬をくすぐる。ベンチでうつらうつらと、また昔の記憶が蘇っていた。

退屈な病院よりいくらかはマシだなと・・・重い足取りでまだ、人影のない校舎に向かった。

階段を2階から3階に上がりかけて、はぁ~と大きなため息とともに引き返す。3階は2年生の教室、そして俺はもう一度1年と・・・・『何組だったっけなぁ~』と、ぶらぶらと廊下を歩いてみる。

そんな俺を呼ぶ声、振り返れば俺の苦手な男・生徒指導の時任 明久が、にこやかに手を振りながら近づいてくる。

「嶽城君、やっと復帰だね。今度はもっと上手くやらないといけないよ」と。

おいおい教師たるものが、無免許で事故をおこした生徒にそれかよ、頭を抱えたくなる。

「嶽城君にお願いがあるんだけどね….君の人柄を信じて」

はぁーなんだこの男は、だから、何度も言うようだが、俺は無免許で、…..もうやめよう。

脱力しながら、

「あなたに信じてもらえるような人柄だとは、本人さえも気づいてなくて。俺は、何を頼まれるのでしょうか?」

あまり、表情を出すのが苦手な俺だが、多分かなり慇懃無礼な態度だったと思う。

そんな俺を、にっこりと笑顔で交わし、

「今度転入してくる男の子を見守ってあげてほしいんだよ。君にならきっと…..」

語尾を珍しく視線をそらし、濁らした。珍しいこともあるものだ。

俺の返事を聞く前に、時任の携帯が鳴り出し、軽く手を上げ去っていった。

取り残された俺は、

時任の言葉を思い返していた。

『男の子….見守る…..どういうことだ….編入してくるんだから、高校生だろう….なのに男の子と言ったよなぁ』

疑問符だらけだ。


時任と話をしてからもうひと月以上になる。

だが、何もない。

からかわれたのだろうか。


学校では真面目な優等生で通してきた半年、たった一度のバイク事故で周りの見る目が変わっていった。

今は、ひとつ上の先輩になるのだが、一年前は机を並べて勉強したクラスメート。

仲の良かった友達などいなかったが、優等生であった俺を恐れるような眼差しは見せなかったのに・・・と、自分が情けなくなる。

もちろん、今も成績の方はトップを維持している。当然である、二度目なのだから・・・・。

昼の顔と夜の顔を使い分けてる俺としては、昼が退屈で仕方ない。

そんな時、時任の言っていた、男の子のことがフッと思い出され、楽しみになってきている。


6月の半ば、俺は校長室に呼ばれた。

部屋には、校長のほかに時任もいた。男の子が来たんだなと、内心にんまりと楽しみを見つけた子供になっていた。

「失礼します。」

「嶽城君、ごめんね。この前に話しておいた件なんだけど・・・」

にこやかに話し始めたわりに、語尾が消えていく。

「まだ、転入手続きが済んでないんだ。ごめんね。」

子供みたいに顔の前で、両手を合わせ拝んでみせる時任に

「そうですか。俺のほうは、かまいませんが・・・」

「う~ん、早くしないと中間に間に合わないでしょ・・・」

と、一人思い悩んでいる時任に呆れた顔で、校長が

「明久、仕方ないだろう。まだ精神的に無理なんだろうから」

「兄さんに言われなくても解ってます」

拗ねて反論する時任、優しく見ている校長。二人は腹違いの兄弟である。


そんな一幕から2日後、また俺は校長室に呼ばれた。

この間と違っていたのは、校長と時任の他に、もう一人少年がいたことだ。

まるで、魂が無いような、今にも消えてしまいそうな少年。

「嶽城君、この子をお願いするね。名前は、如月静君だ。仲良くしてやってくださいね」

時任が、その少年の肩をぽんと叩きながら、俺に少年を紹介する。

如月が俺のほうに視線を合わせたとき、スーと身体に魂が戻ったような感じだった。

俺と視線を合わせたときの如月の態度が気に入らない。

あからさまな怯えだった。

今日初めて顔を合わした相手にあんなふうに怯えられては、ちょっと苛めてやろうかな~と、心の隅に思っても不思議ではないだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ