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第四十八話 友にかける思いは sideレーゼ




「(そんなこと、あっちは思い出しもしないだろうけど)」


 ちょっぴり過去の記憶に思いを馳せてみる。いかんいかん、今は目の前の敵に集中しないとね


「貴女が紅京さんの親友……なるほど。思いの大小こそあれど、私と貴女は同じ目的のために戦っているのですか」


「? 僕と君が? ――アハハ、面白い冗談を言うんだね」


 僕が郷愁に浸っている間に何を言い出すかと思えば、随分とまぁ的外れもいいことを口にするじゃないか。僕とネル少女が同じ思い? こんなに腹の奥底からこみあげてくるのは何時振りだろうね。

 もっとも、それは笑いの感情ではなく怒りの感情なのだけど。


「冗、談……」


「同じ? 笑わせてくれるよ。僕と紅京くんは友人だ。互いに笑い合い、落ち込み合い、じゃれ合うことのできる無二の相手。それに比べて君のそれは何だい? 何が正しいことなのか考えもせず、無心で他人の言葉に従っているだけじゃないか」


 そうだ。ネル少女の行動原理は友情なんかじゃない。心の隙間を埋めるために、誰かに縋りついているだけだ。


「ッそれは!!」


「図星だろう? なぜなら君が彼女らに従う理由は、捨てられたくないという欲望ただ一つ。それは友情なんて綺麗な物じゃない、依存だよ」


「ッ! ……言っていいことと悪いことの区別もつきませんか!」


「傷ついたかい? それはすまないね、僕の方も少々気が立ってて冷静じゃないんだ。なにせ僕の輝かしい思い出を、真っ黒の泥炭で汚されたんだからね」


「クッ!! アアアアアアアア!!」


 静寂を貫いていた地面から激しい砂嵐が巻き起こる。ネル少女め、とうとう本気で僕のことを潰しにきたらしい。二人の姿は見えなくなるけれど、二対一の状況ならば悪いことにはなるまい。それよりも僕の身の安全を優先しようじゃないか。さて、君はどう戦うのかな。


「貴女に私の何がわかるというのですかっ! 一人化け物ひしめく学校に取り残されて、右も左もわからない世界を生き残ることの大変さが!! 何が悪いんですか! やっとの思いで状況を共有できる相手を見つけられて、大事したいという気持ちのどこが!」


「何をそんなにムキになっているんだい? 僕はただ君とは違うということを伝えたまでのことだよ。君がどんな気持ちで彼女らの味方をし、人殺しに手を貸しているのかなんて知ったことではないさ」


「ッ!!」


 いいよいいよ、どんどん怒りで我を忘れてる。悲しいかな、この世は優しい人間ほど損をするようにできているんだよ。君が紅京くんと変わらないくらい友達思いで、困っている人を見捨てられない人だということは十分に分かった。……けれどね、この性格悪い人間の逆鱗に触れたことが、君の運の尽きというやつさ。


「うあああ!!」


「あひょいひょいっと」


 砂を高圧で弾き飛ばし着弾地点を刃物のように切り刻む砂の刃。さしずめ砂塵ならぬ砂刃といったところか。随分とまぁ容赦ない攻撃がポンポンと飛んでくるものだ。いや、元から巨大な岩石で人を殴り飛ばそうとしてくる奴だったな君は。


 まったく、僕の猫目石の力がなかったら一瞬でお陀仏だったね。


「どこを狙ってるんだい? お友達を助けに行くには僕を倒して進むしかないんだよ、もっとよく狙いなよほらほら」


「どこまでも人を馬鹿にしてっ!!」


 僕の猫目石の能力は、その名もずばり猫の特性を強化して引き出す能力。猫への変身はその一部で、本命は人間よりも優れた感覚器官や肉体機能を付与することにある。


 例えば耳や目。今なお吹き荒れる砂と風の中でネル少女の声と動きを捕らえることができるのはこれのおかげだ。

 その次に抜群の身体能力。猫の体は液体なんて言われるほど柔軟性に優れる。前述した感覚と合わせれば、まるで舞台上を舞うピエロのように華麗に動きまわることができるのだ。


「猫パンチ!」


「くっ」


 半分おふざけの入った攻撃を打ち込めば、ネル少女は距離を取ろうと大きく後退する。

 対応としては正解だ。僕の能力は利点を列挙すればそれは素晴らしい能力ではあるが、代わりに今彼女がするような遠距離攻撃手段は持ってない。かろうじて石を投擲するくらいだが、猫の腕は物を掴むことには優れていないからね。


「ふん? 先ほどから見てて疑問に思ったのだけど、君は見たところ能力をまだ使っていないね。理由を聞いてもいいかな」


「……」


 だんまりか。見たところ砂に関する能力なのだろうとは予想できるけれど、砂を操ることも岩を作ることも異能石の力の副産物の範疇。クガネくんのように、元々の石の性質を強化するものと言われればそれだけなのだけど、そうするとここまで出し渋りをする理由に乏しい気がする。


「――……です」


「? 何か言ったかな、いくら僕の耳が優れていても可聴領域には限界がある。もっと大きな声で言ってくれないかい」


「もう、使っていると言ってるのですよ」


「なに?」


 もう使っている、とは? まさか本当に石の性質を強化する能力とでもいうつもりか?


「何か、体に違和感があるのではないですか? 肌寒さに始まり、意識がもうろうとするような感覚が」


「僕は至って健康だよ、ハッタリのつもりなら意味なんて……な、い」


 あれ、なんだか視界がぼやけて……それに、なんだか意識が遠のいてきているような……


「なに……を?」


「わざわざ説明をする気はありません。少しでも刃で傷がついたならもっと早く症状は進行していたはずなんですけど」


「症状? 傷? 一体何を言って」


「する気はないと言っているでしょう!!」


 朦朧とする僕の前に、今再び岩石の腕を構え飛び込んでくるネル少女。これを避けない選択肢はなく、かといって今まで通り回避できる状態であるとも思えない。

 だから今回は意表を突くために、あえて岩を真正面から迎え撃つことを決めた。



 ――だがその時、



「ッ!!」


 僕たちが対面する間を、金色の光が突き抜けていったのだ。何度も言うように僕の目は常人よりも優れた感覚を持つ。なんの備えもなく間近に太陽に迫る光を見た僕は、今がどんな状況かなど考える間もなく反射的に視界をずらした。


 ……してしまった。


「っ……!!」


 ――それから数秒の間を置いて、僕の胸に大きな裂傷が開いた。

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