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第四十四話 桜の秘密



 “ この本を開いたものへ

 まずは、ここまでたどり着いてくれたことに感謝します。私が残すことのできた手掛かりは多くなく、時間経過によって消えたものもあるはずです。それでも、同じ『桜石』の異能を持つものとして、貴女に希望を託すことができることを大変喜ばしく思います ”


「……これは」


「誰かの日記っぽいね」


「同じ桜石の能力者? そんなことがありえるのでしょうか」


 一旦木の上に戻ってきた私は、二人立会いの下で復元された本の一ページ目を捲る。そこに書き記されていたのは、私と同じ『桜石』の異能を持つという謎の人物の日記。

 かつて私たちと同じように、学校に閉じ込められた人がいたんだ。


 “ さて、突然のことに驚いているとは思いますが。こちらの世界にいらっしゃるということは、おそらくはかのゲームに参加されている頃合いではないでしょうか? 故、不要な雑談は抜きにしまして要点のみをここに書き記します。どうか私の遺産が、貴女の手助けになることを願っています ”


「一ページ目はこれで終わってますね」


「この人が来た時にも、殺し合いのゲームは行われていたんだ。わざわざここに遺産って書いてあるところを見るに、著者は生き残ることを諦めていたみたいだけど」


「……次、行きますね」




 二ページ目


 “ 校内に閉じ込められると同時に目覚めた異能の力。あなたもきっと、いろんな人の力を見てきたことでしょう。ルビー、サヌカイト、楔石などなど、その種類は膨大です。念のため今回のゲームで使われた異能石の情報も記しておりますが、こちらはあまり役には立たないかと思われます ”


『ルビー』熱を操る能力。人の体温を探知し鉄をも溶かす高熱を纏います 『讃岐石』波を操る能力。大気を操作して楽器を操り、音玉を弾丸のように飛ばすことができます 『楔石』固定を操る能力。物体に衝撃を加えることで強さに応じた時間物体の動きを止めることができます……――





 その後にも、全部で十一種類の異能石と能力の詳細が書かれている。だが著者の危惧した通り、同じ異能石を持つ異能者はこっちにはいない。私という桜石の能力者を除いて。


 “ そして、私と貴女のつかう『桜石』の能力は、『開花』 ”


 そしてついに、私が一番欲している情報がここに。思わず息をのみ、ページ端をつまむ指先に力が入る。


「『開花』……」


「うーん、これだけだと何ができるのかわからないや」


「そうですね、もう少し先を読み進めてみませんと」


 お二人に言われる前に、すでに私は長い文字列を先へ先へと進んでいっている。自分の持つ異能石への興味もさることながら。


 何か、この人は問題解決への糸口を知っているような気がしたから。


 “ 異能を発現させるほどの莫大なエネルギーを生み出し、様々なものに応用することができる。他の異能石は、自らの石の全エネルギーと引き換えに特定の異能の力を肉体に付与しますが、桜石だけは少し違います。言うなれば他の異能石の初期型、プロトタイプとも呼ぶべき物質なのです。この本を復元した力も応用の一部 ”


「……つまり、能力者の考え方次第で他の異能も使えるようになるってこと?」


「確かに、この文面をそのまま受け取るのならそういった意味にも取れますね」


「へ~、よかったじゃん紅京くん。当たりも当たり、大当たりだ」


 と、お二人が歓喜に満ちている傍らで、当の私はあまり喜んでもいられなかった。なぜなら私は、桜石の能力にまつわる二つの欠点を身をもって知っているから。


 “ ええ、これだけではとても素晴らしい石だとも思えるでしょう。ですが問題はここから。桜石の行使には、ある三つ・・の欠点があります ”



「(やっぱりあった、桜石の欠点についての言及が)」


 “ 一 桜石は、必ず一能力につき一つの石を消費する。他の異能力は石こそ砕けますが、発動してしまえば能力の複数回の行使が可能。使い時は見極めなければなりません ”


 “ 二 持続的な能力には、時間制限があること。肉体の活性化に始まる力の行使は、石のサイズにもよりますが長くても十分が限界でしょう ”


 “ 三 桜石の生成は、ある一つの例外を除きできません ”


「(すべて、ガシャドクロ戦で私が感じた違和感と一致してる。一つ目の欠点についても、時間制限の時点で覚悟はしてた)」


「これで紅京くんの戦力増強については解決したわけだけど。結局七不思議に関してはわからずじまいだね」


「そうですね。もう少し一帯を調べてから屋上に戻りましょう」


「うぇっ、まだ調べるの? もう帰る気満々だったんだけど」


「すみません、もうすこしだけ先を読ませてください」


 二人に七不思議の探索についてはお任せし、私は一人解読を進める。桜石の持つ力と欠点についてはよくわかった。どうやらこの著者の人も、相当な時間をかけて桜石の解明を行っていたらしい。



 ――ひらり


「? これは……本の切れ端?」


 先ほど復元したばかりの本からなぜ切れ端なんか出てくるのか。しおりの代わりにでも挟んでいたのだろうか?

 そう思いつつ舞い落ちた紙を拾い上げるも、特に何かが書かれているわけでもなさそうだ。


「(切れ端……そういえばこの本も、わざわざプレートの一部だけが隠されていた。同じ能力者が現れるとは限らず、この本の存在を知ることもないかもしれないのに。そこまでして厳重に隠す理由って)」


 そう考えると、このただの切れ端にも何か意味があるのではないか。そう思った私は、ポケットから比較的小さめの桜石を取り出し本と同じ手順で復元を始める。

 一瞬にして、切れ端は一枚の紙に変化した。しかもそこには、本と同じ筆跡の文字がずらっと並べられている。


「やっぱり、同じ人が書いたものみたい。えーっと、何々――」



 “ もし、私と同じ異能者の方がこれを見た時。どうか、気分を害することのないことを祈ります ”


 この一文に始まり、紙に書かれていた内容は以下の二つ。


 ・桜石の入手方法と、桜石生成の例外について

 ・能力行使における代償


「――なに、これ……!?」


 それを見た時、私は、二人が側を離れたことに心から感謝した。もしもこの紙を見られていたら、あの優しい二人が何を思うか。


「うっ!? オエェッ!!」


 衝撃的すぎる内容を見た私は、この時、人として大事な何かを共に吐き出した。

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