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第三十七話 かち合う二人



 開いた扉の先。そこにいたのは、黄金と黒鉄であった。


「フッ!!」


「くっ」


 いつぞやと同じ両手に剣を構え無数の剣戟を繰り出すクロロアさんと、肉体の一部を金に変え己が肉体によって応戦するクガネさん。

 片や攻め、片や守り。一見パワーバランスは偏っているように見えるものの、両者の間に明確な有利不利は存在しない。


「ちょ、レーゼさん!? そういうことは早く言ってくださいよ!?」


「ごめんごめん、あまりに心地よくてつい気が緩んじゃって……と、相手もこっちに気づいたみたい」


「そりゃ普通に扉空けましたからね! 物音どころかがっつり姿見られましたよ!」


 金色の腕が鋼鉄の剣を抑え込むと同時に、両者一斉にこちらを見る。


「貴女は、確か紅京さん……と、猫?」


「これはこれは、ご機嫌麗しく。月見にでもいらっしゃいましたか?」


「い、いえ……お構いなく……は、はは」


 幸い二人が互角にやり合ってくれているので、今すぐ狙いがこちらに来るということはないはず。まぁそれでも、狙われた瞬間に死亡が確定するのだから誤差みたいなものだけど。


 しかし……どうしよう? 異能石の確保もないまま敵に囲まれてしまった。


「ぜひともご一緒したいところではあるのですが、生憎こちらは立て込んでおりまして。少々お待ちいただいてもよろしいですか?」


「っ!! 待ちなさい、貴女の相手は私です!!」


「では、そろそろ本気を見せてください。本気でないあなたとの戯れは、少々マンネリです」


 一際大きな金属音が響き、五メートルほどの距離を取る両者。私としては、協力の可能性が残されているクガネさんにぜひともこの場を納めていただきたいが、果たしてそう上手くいくのか。

 クロロアさんは、彼女の戦いを見て本気ではないと思っているようだが。


「っ……わかりました。不本意ではありますが、本気で貴女と戦いましょう。ですが、くれぐれも侮ることのないように」


 その一言とともに、クガネさんの肉体はある変化を始める。初めは腕だけだった肉体の金への変化が、徐々に範囲を二の腕へと進ませ肩から全身へ。短く整えられた髪も、金色に染まると同時に長く伸びる。


「私の異能力は、『金の性質を強化する』力。肉体を金に変換することで、私はさらに強くなった」


 朱から金へと変わった美しいロングヘア―が、風になびいてキラキラと星の少ない空を彩った。


「名づけるならば、『即身仏』とでもしておきましょうか。仏のような深い心で、貴女を正面から受け止めて見せましょう」


「っ!! いいですねぇ、実にいい!!」


 両手を合わせ、祈るような構えを取るクガネ。クロロアはそれを準備完了の合図と受け取り、再び剣を構えて攻撃を開始する。


「カハッ!?」


 ――それは、まさに神速の一撃。


「えっ!?」


「嘘……僕の目をもってしても、予備動作すら捉えられなかった!?」


 お得意の肉弾戦に入るべく一気に懐に飛び込んだクロロアの顔を、瞬き一つの間に殴り飛ばすそのスピード。確か、金は鉱物の中でも相当重い部類のはず。体を金に変えた。つまり全身に金の重りを付けているに等しい彼女が、そんなスピードで動けるはずはないのに。


「……さらに速度を上げましたか」


 口の端から吐血し、苦しさと楽しさを併せ持つ表情を作るクロロア。殴り飛ばされて何がそんなに嬉しいのか。彼女の趣向はよくわからない。


「腕一つ分の金の重さ、目に捉えることすら不可能なほどのスピード。その二つが揃った一撃ですか。攻撃されたのが仮面の側でなければ、今の一撃で決着はついていました」


「……」


「生身を攻撃しなかったのは、あなたの身に宿った仏の意思。というわけですね。全身を金に変え、どうしてそこまで機敏に動けるのか実に興味があります。差しさわりなければ、教えを乞いたいものですが」


「貴女が敵対をやめ、私と共に脱出を目指すというのであればお話しますが」


「申し訳ありません、今はまだその気分ではないので……では、戦いの中で暴くとしましょう」


 てっきり今のでゲーム終了かと思っていた。だが、クロロアの探究心に火が付いてしまったようで、同じ戦闘スタイルのまま果敢にクガネさんに攻め込んでいく。


「しかし、戦法が拳ではやりづらいでしょう。なぜ武器をつくらないのですか? 拳より剣、剣より槍、槍より弓。戦闘において武器のリーチは絶対なのですよ?」


「生憎と、私は剣術も棒術も納めてはおりませんので――それに、武器がないから近距離でしか戦えないなどと、誰が申しましたか」


「? ――!?」


「ク、クガネさんの腕が!!」


伸びた・・・……!?」


 素早い踏み込みの正拳突きをして、“腕が伸びたよう”などと言うことは稀にある。けれど今、私とレーゼさんが目の当たりにした光景は比喩表現などではない。


 本当に、彼女の腕が伸びたのだ。


「っ!! 面白い、実にユニークな力です……なるほど、なんとなくですが掴めてきました」


「そうですか。では、これはどうでしょう」


 金に変化した腕の上に、さらに生成した金の鎧を装着し殴打するクガネさん。これだけでは、今までの攻撃と何も変わらないもの。クロロアさんも同じ考えを持ったのか、迫る合金に対し盾を構えた。


 一際激しい煌めきを発する黄金が鉄の盾に接触し、巻き起こったのは強烈な爆発。爆風によって体を持っていかれたクロロアさんは、壁に衝突し瓦礫の下敷きとなる。


「な、なになに!?」


「うわああああああ!!」


「――はっ、し、失礼! 大丈夫ですか紅京さん!」


「わ、私は問題ありません。けど、レーゼさんが」


「あ、あ”ぁ”」


 可愛らしい猫耳を両手で押さえ、ピクピクと痙攣するレーゼさんの様子に心配を募らせる私。体育館の時とは違い、事前情報も予兆も何もなかった不意打ちの爆音。人間の物より優れた感覚で、それをもろに食らってしまったのだ。

 猫の姿を維持できなくなったのか、金猫は徐々に人の姿に戻っていく。


「この方は……まさか、先ほどの猫が貴女だったなんて!? 大丈夫ですか、しっかりしてください!!」


 彼女とかかわりを持つ私よりも、爆音を出した張本人であるクガネさんが慌てふためくという謎の現象がおきる。しかし、人を思い此処まで真剣に慣れるクガネさんは、やはり優しい方であることは間違いないようだ。


 やはりこの方とは、協力関係を結んでおきたい。


「ね”ぇ、僕の”心配は”……?」



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