第二十八話 集いし者たち
――ズドンッッッッ!!!!
「え!?」
「な!?」
「!!」
「この攻撃は……!」
遥か後方より、その砲弾は飛来する。ガシャドクロの頭部に着弾し、二発同時に引き起こされた爆発。大量の火薬を用いた大砲に匹敵する威力の砲弾は、私達の中には存在しない攻撃方法。
一同一斉に振り返り、各々が砲弾の発射地点を探る。そして――
「いたっ! 校舎の反対側、通路の上!!」
初めに気づいたレイダさんの声に導かれ目視した先に、その人はいた。
九条さんとは正反対の、所々本体が露出している白い鎧。顔は髑髏の仮面で覆われており、身の丈以上に大きなキャノン砲が、肩から銃口を伸ばすようにして二つ。
「――――」
銃口から白煙を上げて、今まさに攻撃を行ったことは誰の目にも明らか。
「骨人……!」
「骨人? ――あっ」
以前、九条さんからお聞きした要注意人物の片割れ、骨人。特徴的なドクロの仮面といい、特徴はすべて当てはまっている。では、あの人を味方として認識するのは止めた方がいいのだろうか。
校舎の反対から反対、ほぼ横断するに等しい距離を一方的に攻撃できる精度と威力。背中を任せるにはいささか怖さの方が際立ってしまうが、はたして。
「――――」
続く第二射、第三射も命中。一発目とは打って変わり、今度は腕や足を狙って打ち込まれている。そのまま胸部を狙い破壊すればいいものを、なぜか骨人は急所を外し動きを封じるために破壊活動を行っている。
その行為は、まるで誰かを誘導しているようにも思え――
「はっ!!」
「ッ!!」
「フッ!!」
「ヤッ!!」
視界外の暗闇から飛び出す、四つの人影。それぞれが薄金、朱、白、黒の髪を靡かせ、ガシャドクロへと迫る。
「はあっ!!」
――人ならざる耳を頭部に靡かせ、縦に線の走る瞳で獰猛に襲い掛かる薄金髪の異能者
「……消えて」
――周囲に水鏡を浮かべ、物静かに、可憐に力を振るう白髪の異能者
「出遅れましたが、これはこれで斬りがいがありますね」
――両手に鈍く光る刃を構え、目にもとまらぬ連撃を見舞う黒髪の異能者
「はああっ!!」
――腕を金色に変え、武術らしき構えから鋭い正拳突きを放つ朱髪の異能者
「こ、こんなに人が」
先ほど解放したばかりの私を加えて、この場には十人の能力者が集った。一気に倍の人数になったおかけで、ガシャドクロはもはや攻撃に回る余力を残せずにいる。
「後れを取るな!」
「美味しいとこだけ持ってかれたくないもんね」
九条さん、明音さんもその戦列に参加し、
「この状況じゃ火炎は邪魔になるか。ならば拳で砕く!」
「よ~し! 僕も一肌脱いじゃうよ!!」
ユーさん、レイダさんも後に続く。
「(この機会に、もっと力を詳しく調べよう)」
腕に広がる桜の模様を眺め、一度だけ行使した怪力以外にできることを試すために、私も地面を蹴り駆け出していく――
「――っ!!」
途端、背筋に感じる冷たい感覚。いまさらガシャドクロ相手に恐怖を感じることはないはず。だが確実に、私はこの場にいる何者かに恐怖を抱いた。
「(な、に……? 後ろ……?)」
まさかこの恐怖は、こちらを狙う骨人によるものだろうか。冷気のさす背中側を確認するべく振り返った矢先。
それは、立っていた
「……」
その風貌を例えるならば、ミイラ。全身を白い布で覆い、赤い瞳を覗かせる覆面と黒服。爆炎やら衝撃やらでコートの端がひらひらと靡くものの、本人は一切の動きを見せない。
仮面のレンズ越しに、ただじっとこちらを見ているだけだ。
「(“白布”っ!)」
片割れである骨人が現れた以上、白布がここに来るのも当然だった。骨人と同じく要注意人物の一人、白布。私を見る彼女は、一体何を考えてここに来たのか。
――グオオオオオオオオッ!!
「あっ!」
「「「!!」」」
雄たけびを上げ、残された力を振り絞るように体を動かすガシャドクロ。集まった異能者らが一斉に攻撃を加え行動を阻止しようとしたものの、すでに攻撃は放射されてしまったあと。
ドクロの体から飛び出していく蒼炎の発光体。まるで人魂のような形をした火球は、確かなエネルギーと速度をもってそれぞれの異能者の元へと飛来する。
「くっ!」
「うっそ!? 追尾してくんの!?」
「今さら、こんなもので!」
「来ないで来ないで来ないで来ないでーー!!」
圧倒的な手数の攻撃に、苦戦こそすれど各々のやり方で撃ち落としていく九条さん達。
この攻撃がドクロ自身に攻撃を加えたものに来るのなら、当然、片足を奪った私のもとにも殺到してくる。被害の大きさからいって、他の異能者に向かったものより多く来ている気がするが。
「熱ッ!?」
他より早く飛来してきた一発の人魂を素手で撃ち落とし、感じたものは身を焦がす熱量。物理的な衝撃はこなかったが、見た目よりかなりの熱エネルギーを纏っていた人魂。
桜石の力で強化された皮膚を突き抜ける痛みに、すべての人魂を相殺することは不可能だと結論付ける。
「おや、これが断末魔ですか。他愛ない」
「はあ!!」
よくよく観察してみれば、他の異能者は皆、直接触れることなく対処をしている。あるものは武器で薙ぎはらい、あるものは肉体の一部を石に変えて打ち落とす。
彼女らに倣い、私も石を生成して戦おう。レイダさんからの情報で、石を生成する能力が基本にあることは知っているから。
「(想像しろ、石を形作る姿を)」
怪力を行使した際に行った能力の想像。おそらくは石生成のプロセスも同じはずなので、目前に迫った人魂の中においても特に焦りはしなかった。なぜなら、すでに成功のイメージができているから。
「――え?」
石が生成できない、という現実を知るまでは。何度発動を試みても、紋章が光ることも花が散ることもなく、ただただ何もない虚空を見つめ続けるだけ。
「嘘、なんで……――っ!!??」
体の表面を剥がれ落ちるように、色濃く刻まれた紋章が抜け落ちていく。
「ま、待って! まだ私!! あッ!!」
少しずつだが確実に力は消失していき、やがて異能石を発動する前の生身の肉体に戻ってしまう。こうなってはもう、迫る人魂から距離を取ることすら叶わない。
なぜ力が抜けたのか、その理由を探る猶予すらない。
「うわあああああああああ!!?」
左右上下、あらゆる方向から向かってくる人魂。叩きつけられた絶望に思わず目を閉じ、身近に感じる熱が到達するのを今か今かと待った――だが、いくら待っても人魂はこない。
「う、うぅぅ……え?」
私の前には、凛々しく立つ白布の姿。彼女は右手を構え、衝突したそばから人魂を吸収し無力化していく。目がおかしくなったのでなければ、白布は、私のことを守ってくれた。
「どう、して?」
「……」
変わらず、白布は話さない。ゆっくりと伸ばした腕を下ろしただけで、私の方を向くこともなくどこかを見つめている。
わからない。私には、この人の考えていることが。
「はああああッ!!」
私たちの裏側でガシャドクロに最後の一撃を決めたのは、朱色の髪を持つ異能者の一撃。
はるか上空に昇ったその女性は、右足を金色に変え奴の胸元目掛けて勢いよく降下していく。肉体を石に変えた重量と質量、高高度から落下する勢いを一点に集め、数多の攻撃でひび割れた体を粉砕する。
急所を破壊され、大量の宝石を噴き出しながら消滅していくドクロの体。だが、噴水のように噴き出す宝石の山にも、ついぞ白布が反応することはなかった。




