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第二十七話 終わりの始まり




「……ありがとう、おばあちゃん。この力、ちゃんと使いこなして見せるからね」


 足に力を入れ屋上から中庭に飛びこむ。胸中に咲き乱れる決意は固く、迫る地上や立ちふさがる敵へと恐怖など微塵も感じない。


「(やっぱり、生身なんて比較にならない馬力と耐久力だ)」


 着地後、今度は前方に跳躍し地上と平行となるように飛翔する。肌に触れる風は車の窓から感じるものと同じ勢いを持ち、自身がそれほどの速度を持って移動していることを示す。


 急行すると同時、ガシャドクロが攻撃の構えを取る。奴は巨体を巧みに操り、その大型トラックよりも太く頑強な片足を持ち上げる。


「(あいつ……! 足元の敵を一気に踏みつぶす気だッ)」


 上空を舞う明音さん以外の、九条さんとユーさんを狙う彼奴の攻撃。

 巨体故に動作もゆっくりな奴の攻撃が万に一つも当たることなどないだろうが、私にとってはお三方を狙う行為そのものが許せない行為なのだ。


 絶対に、狙い通りになどさせるものか


「「ッ!?」」


 九条さんとユーさんの間を駆け抜け、頃合いを見て地面を一蹴。目指すは奴の持ち上がった足裏。

 地上に向けて打ち下ろされる奴の足は、例えるならば隕石。アスファルトを砕きクレーターを作るなど容易い威力がある。

 それを、私はあえて真正面から叩き潰すことにした。


「紅京!?」


「クーちゃん!?」


「あいつ、異能石をッ!」


 方向、角度よし。位置取りも完璧。後はこの拳が、奴の足蹴りにどこまで対抗できるかどうかッ――!!


「はぁぁぁぁぁぁあ!!」


 全身に浮かび上がった桜の紋章が、今再び紅色に発光し桜を咲かせる。腕に入る力がより強大になっていくのを肌身で感じ取り、この桜こそが私の力の一端であることを理解した。

 出力は上々、勢いもある。


「喰らえーーーーーーッ!!!!!」


 衝突。大気は揺れ、上にも下にも行き場を失った衝撃は横に突き抜け巨大な円を描く。


「紅京さーーーーん!!」


 屋上と同等の位置にまで飛び上がったことで、今度はレイダさんの声が耳に届く。拳が炸裂した箇所から螺旋を描く桜吹雪は舞い上がり、足場もなく踏ん張ることのできない私を支える推進力となって突き進む。


「グゥゥゥゥッッッッ!!」


 威力は互角、人目には私達は拮抗しているように見えるだろう。でも、実際に拳を突き付けている私だからこそわかる。今私がドクロと一歩も譲らない攻防を行っている理由が、力の拮抗によるものではないことを。


 ――ピシッ


「ッ!」


 目の前の足骨に入った、赤く光る小さなヒビ。


 ――ピシッ


 たった一つの小さな線は、それがきっかけとなり次々と周囲に波及していく。


 ――ピシッ


 一本ずつだったヒビは、二本、三本と枝分かれしはじめ、やがて無傷である場所を探す方が困難なほどに広がっていく。


「なんだ、奴の足が!」


「赤く光り始めてる」


「これを、あいつが?」


「綺麗……」


 ――それを、離れた位置から観測する四人の能力者たち。紅京にとっては足裏に広がる巨大なひび割れでしかなくても、遠くから眺める彼女らの視界に映っているものはそれ以上の光景であった――


桜が、咲いた・・・・・・!!」


 足の付け根から膝より下の脛骨に掛けて、衝撃はより深く浸透していく。一度食らいついた獣がどこまでも追いかけるように、突き抜けた衝撃もまた破壊した側から奥へ奥へと到達し被害を拡大させていく。

 たった一本のヒビが無数に枝分かれをする。真正面から全方位に広がるものと、真横にジグザグに進行するのでは見え方も違う。


 そのヒビは、まさしく成長を続ける桜の木。波及するほどに太くたくましく成長を続けた桜は、一部には大きな穴を空けついに満開となる。


 “枯れ木に花を咲かせましょう”


 有名な昔話の一節。古来より桜を咲かせるのは、生き物の骨だと相場が決まっている。


 ――ガゴンッ!!


 骨に咲いた立派な桜は、最後は一際大きく発光しガシャドクロの片足を道連れに最後を迎える。片足を持ち上げられ、挙句消滅さえられたドクロは、不安定なバランスのまま背中からグラウンドに倒れ伏す。


「――はぁっ、はぁっ」


 確かな手ごたえと疲労を手土産に地上に降り立ち、一息。テンションが上がっていたとはいえ無茶をしすぎた。流石にこちらも無傷とはいかず、右腕が麻痺したように言うことを聞かない。


「「紅京!!」」


「クーちゃん!」


「紅京さん!!」


 真っ先に私の元に到達したのは、意外なことにユーさんだった。まぁ、それも誤差の範囲ではあるが。


「こんな無茶をして……腕は大丈夫なのか?」


「痺れてはいますが、特に骨折したりとかはないですよ」


「大丈夫!? ちょ、あたしに腕見せて!! ……よかった、ほんとになんともなさそうで」


「ありがとうございます明音さん」


「たたたた大変だっ! えとえと、こういう時って包帯を巻けばいいのかな!? いや、それよりも先に負傷個所を冷やす方が先!? 手の痺れの正確な対処法はアバババ!!?」


「お、落ち着いてくださいレイダさん」


 みんな、思い思いに私のことを心配してくれている。やはりこの人たちは、とても優しくて温かい。とんでもない無茶をした自覚はあるが、それでも、彼女たちが無事無傷でここに居るというだけで後悔はない。


「紅京。見つかったんだな、お前の異能石」


「九条さん……はいっ!」


 九条さんにも認められ、めでたしめでたし。――とは、いかない。

 片足を失い、とてつもない砂埃を上げながら倒れたガシャドクロは、今もなお活動し続けている。両腕を支えに上半身を持ち上げ、両の眼の青い光が私たちを睨む。


「やっぱり、急所を破壊しない限り止まりませんよね」


「フー、メンドくさー。綺麗なものをみたままで終わりたかったよ」


 敵が動き出したなら、私もいつまでも伏せたままという訳にはいかない。麻痺した片腕をかばいつつも、すでに立ち上がり構えている彼女らの隣に立つ。


「ここからが正念場、ですね」

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