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第十三話 心をこめて召し上がれ



 ガスコンロに火が灯り、その上に使い込まれたフライパンを置く音が響く。腕を振るってくれているのはユーさんで、器具の数々が相対的に小さく見えてしまう。

 そんなコンロの側では、私と九条さん、レイダさんの三人が椅子に座り食事の完成を今か今かと待ちわびていた。ただ一人、私の対面に座るレイダさんだけは、何やら白いケースの中身を見てニヤニヤと笑みをこぼしているが。


「あの、レイダさんは何を見ていらっしゃるのですか?」


「ん~?♪ 聞きたい~?♪」


「問題なければ、ぜひ」


 ケースを覗き込み体で喜びを表すレイダさんの姿は、まさに宝箱を眺める子供そのもの。会話の種にと話題を持ち掛けてみたが、食いつきは想像以上だ。


「ぬふふ~いいだろうお教えしよう! これはねぇ、専用の栽培キットで作った“クリスタル”だよ? ようやく人差し指くらいに成長してくれてね」


「クリスタル?」


「ほらこれ~」


 親切に蓋を開き中身を覗かせてくれることに感謝しつつ、私はそっと中身を覗き見る。

 中には、ケース底面に見える円形の蓋の中心から大小さまざまな形に伸びる透明なクリスタル。所々先が欠けていたり、塊から分離して隅の方に転がっている結晶が多々あることから、これがかなりの手間暇をかけて作られているものだということが分かった。


「綺麗ですね、とても素晴らしいです。レイダさんはこれをどうやってお作りに?」


「授業で使うクリスタル栽培キットを使ってね~♪ こっちの世界には現実のものが反映されるけど、こっちで動かしたり消費したものは現実には反映されないからねぇ。使いたい放題さ」


「そ、そうなんですか?」


 隣に座る九条さんに視線を向けると、彼女は意図を察したのか説明してくれた。


「事実だ。大体深夜の零時を過ぎると、鏡の世界は現実の情報を反映させる。その間、鏡の中で使ったものは消えない」


「不思議なこともあるんですね」


「まぁ、これには一つ問題もあってな。オレたちが消費せず位置を動かしたりしなかったものは、現実の情報を反映する際に新しいものを取り込んでしまうんだ」


「取り込む?」


「簡単に言えば、植物の栄養と同じことさ。日にちを過ぎれば過ぎるほど、情報をどんどんと吸い込んで巨大化していく。ちょうど今、オレたちがいる学校・・・・・・・・・・のようにな」


「!? じゃあまさか、鏡の世界が広くなっているのもそのせい!?」


 静かにうなずき、私の発言を肯定する九条さん。流石に鏡の世界での生活が長いだけあって、必要な情報はすでに調査済みらしい。一体どうやって調べたのか気になるが、あまりグイグイといっても鬱陶しいだけだ。いずれ機会があれば、そのことを聞いてみよう。


「んふふ~♪ あぁ、今回は結構な粒がそろってますなぁ~。これだけあれば多少無駄遣いしても、次の結晶が出来上がるまで余裕で持つよ」


「そうやって調子に乗って、奴らに追いかけまわされてたのは誰だ? 誰に助けてもらったかよ~く思い出せ」


「う″っ! ……な、ナナちゃんで~す」


「わかればいい。くれぐれも無駄遣いはしないように」


 二人の仲睦まじい様子に笑みがこぼれる。そうか。レイダさんは私と同じで、化け物に追われているところを助けられたことがあるのか。彼女とは妙な親近感がある。


「使う。ということはもしかして、そのクリスタルがレイダさんの異能石ですか?」


「おっ!? もうすでに異能石のことについて知っているとは、なかなかやるじぇ~」


「それもネルの奴に聞いたのか?」


「はい。わざわざ自分の石を一つ使ってまで、目の前で実践して見せていただきました。九条さんは黒曜石、で合ってますよね?」


「あぁ、オレの異能石は“黒曜”。能力は黒曜石の鎧と武器を作り出すことと、もう一つの奥の手。残念ながらこっちは秘密だ。悪いな」


「いえいえそんな。むしろそこまで教えていただいて感謝しかありません」


「はいは~い、次は僕の紹介だよ! 僕の異能石は“水晶”! 能力は水晶を作り出すことと……って、これは異能石を使うならできて当たり前か」


「そうなんですか?」


 レイダさんの語る情報は、ネルさんの口からも聞いたことがなかった。異能石を扱う能力者は、それぞれの能力の他に元となった石を生成できるのか。


「そそ。さっき能力発動に異能石を一つ消費するって言ってたよね? より詳しく解説すると、私たちは大本となる石を砕いて自分と一体化させることにより、石の特性を拡大して利用することができるのさ。いわば能力発動中の私たちは、全身が石でできている石人間ということだーね」


「石人間……」


「で、それを踏まえて私の能力。ナナちゃんは事情があって話せないけれど、僕のはバレても問題ない能力だから教えてあげるね。ずばり、『情報を探知できる能力』さ」


「情報を探知?」


 探知というと思い浮かぶのは、舟に搭載されているレーダーのように物の場所を知ることができるというものだが……


「創作の中で占い師が使ってる水晶玉、あれを思い浮かべてほしいんだけどね? 私はあれを能力によって再現できるの。未来の運勢を占ったり、落とし物を探したり、目的の人物を映像として映したり」


「!! それって、物凄く便利な能力じゃないですか!」


「でしょでしょ!! でもねーこれには欠点があってねぇ。僕の水晶は他より異能石の質に左右されやすいんだ。模造品なら簡単に作れるけど、それで出来るのは生成を除けば周囲の敵を探知するくらいかな」


「なるほど――」


「よし、出来たぞ!」


 ――と、異能石の話で盛り上がっている間に、ユーさんは料理を仕上げてしまったようだ。献立は、白米に豚肉と大根人参のみのシンプルな豚汁、それとメインのアジの塩焼き。


「待たせたな、これが今日の献立だ。お前らも魚はねぇが、豚汁と米は好きに食え」


「美味しそう! ありがとうございます!!」


 魚の焼ける香りが食欲を掻き立てて、コーヒーでごまかされていた私の食欲に再び火をつける。それにしても誰かに作ってもらう食事はいつぶりだろう、楽しみだ。


「ほんとっ!? 元々魚は嫌いなんで豚汁だけでいいでーす! やったーー!!」


「夜に動いて体が冷えたしな、オレも貰うわ」


 丁寧に配膳までされて目の前に差し出された暖かな食事。パン一つ食べられれば御の字だと思っていたところに汁物とご飯まで貰えるなんて。これは、いつもより真剣にいただきますを言わなければいけないな!

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