大好きなお兄様に溺愛されています。48
「いた!」
一点を見つめていたマシューの所へパーシヴァルが息を切らしながら駆け寄ってくる。
「ダメですよ。いくら前王の弟君のお孫さんとはいってもあなたはここを自由に行き来できないのですから」
それを聞いたマシューがすまなそうに眉をさげる。
「ごめんなさい。庭がとても美しくて・・・つい」
「ついじゃないですよ」
マシューが廊下の奥を見つめながら熱い吐息をもらした。
「本当に美しかった・・・あの方の側にいられるなら喜んで国に自らを捧げるよ」
「はい?」
「なんでもありませんよ」
にこりと微笑む姿に違和感を感じながらもパーシヴァルは門まで案内する。
時折マシューは王宮を振り返って見ていたが、パーシヴァルは気付かぬふりをしてそのまま歩き続ける。
このままではこの後の仕事に差し支えがありそうだと判断したからだ。
「・・・第三王子はどんな方なんですか?」
「ライラック様ですか」
「ええ、婚約パーティーでお話しした時はとても、柔らかい印象でしたが」
突然の質問にパーシヴァルは一瞬戸惑った顔をしながらもライラックを思い出しながらマシューを見つめた。
「その通りです。見た目通り優しく聡明で国民に早くも受け入れられています」
「へぇ・・・完璧な王子様だ」
「まさにそうですね。陛下にそっくりな外見で優しい印象だとまさに物語に出てくる王子様のようです。ただ優し過ぎるので・・・私が護りたいと思います」
鼻息荒く言うパーシヴァルを見て、マシューは手の甲を口元に持っていく。
感情を隠したい時のマシューの癖だった。
(完璧な王子とかいるのかな。まあリラさんにはそれぐらいの男が合うけど)
先程会ったリラを思い出して口元が緩む。
こんな気持ちになったことはマシューはかつて無かった。
「マシューさん?」
「あっ、失礼しました。先程見つけた美しい庭園を思い出してました」
マシューの言葉に首を傾げ、パーシヴァルが門の前で立ち止まった。
「それでは、私はここで」
「今日はありがとうございました」
王家の血を引くが、腰が低いのはやはり継承権を持っていないからだろうか。
それとも凡庸な外見だからであろうか。
パーシヴァルは何か引っ掛かりを感じながらもマシューが門から出ていく姿をだまって見送った。
宮殿に戻るとライラックを見つけ、パーシヴァルは堪らず走りだす。
「ライラック様!」
急いでライラックの元に駆け寄る姿が大型犬のようでライラックが微笑みをこぼした。
「今日はマシューさんの付き添いだったかな?」
「はい!それが勝手に王宮に入ってしまって」
「・・・そうなんだ。困った人だね」
ライラックが思案するような顔をするのでパーシヴァルが心配そうにライラックを見つめた。
「何か気になる事でも?」
ライラックが壁にもたれかかり腕を組む。
パーシヴァルは一歩前に出てライラックの言葉を待った。
「うん・・・彼は確か騎士団に入るんだよね?」
「はい。今日はその報告に来たらしいんですけど」
「騎士になるなら王宮に入る事がどういう事かくらいはわかっているよね」
「勿論ですよ!はじめに教わる事ですから」
ライラックは長く息をはくと、パーシヴァルを見つめた。
「それなら彼は知っていた事になるのに、それを無視したって事になるよね」
「そうですね」
「・・・」
ライラックが困った顔をして微笑むとパーシヴァルが姿勢を正してライラックに言った。
「彼の事は注意して見るようにしておきます!」
「うん、宜しく頼むね」
ライラックが微笑んでその場を離れようとするとパーシヴァルがお送りしますと言って王宮まで送ってくれた。
どこまでも忠実な騎士にライラックはお礼を言って別れた。
パーシヴァルと別れた足で自室を通り過ぎて王宮の奥まで歩く。
ノックをする為、手を握り締めて扉の前に立つと目の前の扉が開いた。
「早かったね」
ライラックが珍しくユアンの部屋に足を運ぶと、嬉しそうにユアンが部屋へ招き入れた。
先に思念で部屋に行くとは伝えていたが、タイミング良く扉が開くなど、どれほど魔力が長けているのだろうか。
「初めてじゃない?君が私の部屋を訪ねるなんて」
促されて向かいのソファーに腰をかけた。
部屋はこの国の王とは思えない程至ってシンプルだった。
部屋の広さが目立つほど物があまりない。
「今日はマシューの事かな」
話す前から既にわかっているのかいつもの笑顔でソファーに持たれかかった。
「配属は叔父上の住んでいる土地だから安心して良いよ。今はどうかわからないけど騎士を目指すときに本人が言ってきたからね」
(つまり国境を守るという事か、それはそれで・・・)
「ああ、そこには優秀な者ばかり集めたつもりだから大丈夫だと思うよ。少なくと私がいる間はね」
水差しからコップに水をついで飲み始める。
この人は何をしても絵になるなと珍しくライラックがユアンを見つめた。
「しかし美しい妻を持つ事は大変だね。敵が多い」
人事のように言うユアンをライラックはただ見つめた。
確かケイトは何件も湧いてきた縁談を蹴ってユアンを選んだのではなかったか?
「だが、美人だと国民受けは良いんだよね・・・ライラック」
「はい?」
「ごめんね。君を人にする事をリラちゃん達に任せてしまって」
コップをサイドテーブルに置いて両手を組んで膝の上に置いた。
「君が何にも興味が持てない事はわかっていた。私もそうだったからね。私はジョニーやジェイスが近くにいた。だから比較的早く楽しみが見つかった」
ライラックが目を見開くとユアンは微笑んだ。
「あの日、リラちゃんを紹介したいと思っていたら先に出会ってしまうとはね。これも運命なのかな」
「私にリラを紹介する予定だったんですか?」
「うん。2人の娘ならいけるかなぁと思ってね」
そう言えばよく、ライルの話をユアンから聞かされていた気がする。
興味は持てなかったが。




