大好きなお兄様に溺愛されています。45
ライラックとリラがホワイトタイガーと戯れている間に会場は整備され、2人が席に戻ったタイミングで再び暗転した。
その途端、女性の美しい歌声が聞こえる。
「・・・オペラ?」
(たしかに、リラが一度は見てみたいって言ってたけど・・・何時間拘束する気なんだ)
呆れたライラックが振り向きユアンを見ると、ユアンが自慢げにウインクをする。
「大丈夫、簡略化したものだから」
こそこそと話しかけてくるユアンをライラックが目を細めて見つめた。
(この人は私達の為にいくら注ぎ込んだんだろう)
そっとユアンが手を伸ばしてライラックの頭を撫でる。
それを微笑ましくケイトが見ていて恥ずかしくなってライラックは前に向き直った。
「嫌がられちゃった」
と肩を竦めるが全然へこんではいない。
どちらかというと打てば響く様になっているライラックをからかって楽しんでいるようだ。
「嫌われても知りませんよ」
苦言をしても口元に笑みを浮かべるユアンを見てケイトは心の中でため息をついた。
スタンディングオベーションが沸き起こるなか、オペラは幕を閉じた。
簡略化されたものではあったが、人々を感動させるには充分だったようだ。
涙目のリラに気づき、ライラックがハンカチを取り出し目元の涙をぬぐってあげるとリラは柔らかく微笑んだ。
ライラックは紳士な微笑みを返しながらも心の中では反対の事を思っていた。
今すぐリラを暴きたいと。
2人の様子を見ながらユアンが微笑んだ。
「陛下?」
後ろからジョニーに声をかけられてユアンが視線を背後に向けた。
「いや、ライラックの気持ちが手に取るようだなぁと、ね」
「ああ、幸せそうだな」
ジェイスが嬉しそうに笑う。
「・・・そうだね、幸せではあるだろうね」
ジェイスとケイトが首を傾げる中、ユアンは口元に手を近づけ緩んだ口元を隠した。
(今日は許してあげてね、リラちゃん)
その後はパーティー参加者と顔合わせを行った。
これから公務を行うためには必要な事であったので、嫌々ながらもライラックはリラを連れて挨拶に回った。
大半の者達はライラックが病気で閉じこもっていると認識していた。
恋という不治の病かかっていることは本当だが、実際は閉じこもってはおらず、剣の鍛錬も行っていた為、細いながらもしっかりとした筋肉がついている。
それに加えて、ワイズ家は栄養面にも力を入れていた為、順調に身長も伸び、今では三兄弟の中で一番高かった。
噂と違うライラックを見て言葉に出さずとも皆、びっくりしていた。
美しく礼儀正しい青年に育ち、しかもちゃっかりまだ社交界に出ていない愛らしい娘を婚約者にしている。
同年代のものからは嫉妬が入り混じった目で見られて、ライラックは心の中でそっとため息をついた。
リラがすべての人を把握しようと頑張っている姿にユアンとケイトが微笑ましげに見つめていた。
「可愛いわね。ずっとうちに居てくれれば良いのに」
「ライラックはワイズ家が大好きだからね。いつでも出ていく準備はできていますからと釘をさされたよ。私の何処がジョニーに劣るんだか」
ジョニーやジェイス、ライルもリラの様に挨拶にまわっている為、ユアンとケイトは立ち上がり皆から見えない位置に場所を変えた。
暗幕の裏に控え、そっと主役の2人に視線を集中させる為だった。
「仕方ないわ、ジョニーは家族至上主義だもの。貴方には難しいでしょ」
「・・・そうだね。私では叶えてあげられなかった」
ケイトは他国の王女だった。
だから国を一番に考えなければならないユアンの気持ちは痛い程わかっていた。
「国を第一に考える事が仕事だもの。仕方ないわ」
王妃スマイルをユアンに向けると、ユアンが王様スマイルで返す。
これはジェイスではできない芸当だ。
「我妻は最高だね」
「お褒めに預かり光栄ですわ」




