大好きなお兄様に溺愛されています。34
手前にいた男性がケイトに声をかけると、ライラックが立ち上がり声をかけた。
「お久しぶりです。オーランド兄さん、エディ兄さん。彼女は私の婚約者のリラ・ワイズです」
「ワイズ・・っ!」
オーランドとエディがリラの名前に反応した。
エディがオーランドに目配せをする。
どうやら噂の娘が目の前にいるとわかったらしい。
ケイトがリラを離して、背中をそっと触ると隠れていたリラの姿が見えた。
オーランドとエディが息をのんだ瞬間にライラックはリラの腰に腕を回した。
「初めまして。オーランド様、エディ様。宜しくお願い致します」
お辞儀をして微笑むと、オーランドとエディが時が止まったように動かなくなった。
いくらでも美しい女性を見てきたつもりだったが、目の前の女性を見てそれは勘違いだったと思わざるをえなかった。
放心状態の2人を見てユアンがため息をついて手を叩く。
「はい、はい。2人とも。ライラックの未来の奥さんにちゃんとご挨拶してくれかな」
ハッとしたオーランドがリラの前に来て、ユアンと同じように片膝をついて手の甲に口付けようとしたところをライラックがリラの腰を引いて邪魔をした。
「キスはいらないですよ、兄さん」
一瞬、不機嫌な顔をした2人だったが、王子スマイルでリラに次々と挨拶をした。
「お会い出来て光栄です。リラさん」
「よろしく、リラさん」
「取り敢えず顔合わせも済んだし、ライラック達は帰って良いよ」
ユアンの言葉にジョニーとライラック、リラがうなずいて立ち上がる。
「ライラック、また連絡するから」
ユアンがにっこり笑って手を振る。
「・・・わかりました」
明らかに嫌そうな顔をしたライラックが返事をする。
ジョニーとリラも部屋を退出する旨を伝えてから、3人で部屋を後にした。
「リラお疲れ様」
「がんばったね、リラ」
ジョニーとライラックがリラの背中を軽く叩くと、やっと、安心して息をはいた。
「ライラックお兄様のご家族にお会いできて、認めていただけて嬉しいです!」
いつまでも純粋なリラを見て2人は微笑んで頷いた。
部屋に残ったもの達でどんな会話が繰り広げられているのか想像しながら。
3人がいなくなった部屋に残された面々は無言だったが、ユアンがケイトを手招きして呼び耳元で囁く。
すると、ケイトが楽しそうに笑い始めたので、緊張をとくように一度息を整えた第一王子であるオーランドがユアンに問いかける。
「父上、ライラックは病気になって幽閉されていたのではないのですか?」
「幽閉って・・・。まあ、座ってよ」
向かいのソファーに腰掛けるように指示すると、オーランドと第二王子のエディもソファーに座った。
ケイトはユアンの横に座る。
「王宮の奥で生活している事になっているよ」
「実際はどうなんですか?」
ユアンが足を組み替えて座り直すと、隣に座っているケイトの髪をいじり出した。
「私の側近のジョニーの家で暮らしてるよ」
「はい?」
唖然とするエディに、オーランドが質問を続けた。
「いつからですか?」
「はじめからだよ。ジョニーのところにはエディと同い年の賢い息子が居てね。その子と一緒に学ぶ為に居候しているんだよ。・・・それに、ここに居ても良い事ないでしょ?無能な両親と傲慢な兄達に囲まれてもね」
自分達を揶揄する発言に、オーランドとエディの息が一瞬止まる。
「さっきもリラちゃんとばかり話してたでしょ。久しぶりに顔を出した弟を無視して」
笑顔でありながら強い非難を感じさせるユアンの言葉に2人の王子は視線をそらした。
その様子を見てケイトが苦笑した。
「あの子、変わったでしょ?王宮にいたときは本当にただ息をしているだけだった。全てが無価値だったのよ。あの子を変えてくれたのはジョニー達家族よ。私たちではあの子をあんな風に育てることは出来なかったの。悲しいけれど」
ケイトは上の2人と全く系統の違うライラックにどう接したら良いのかわからなかった。
愛おしいのに伝わらない。
何も響いてくれない。
賢い子だとはわかっていた。
けれども賢い事を尊い事だと理解してくれなかった。
そんな時にリラという存在が現れた。
ライラックの唯一となるリラという女の子が。
(ジェイスとジョニーはユアンにとってかけがえのない人。だからこそライラックをお願いできた。その判断をユアンが迷わずにしてくれた事を本当に感謝しているわ)
ケイトとユアンの言葉にオーランドは先程のライラックを思い出す。
初めてちゃんとオーランドの目を見て会話をした。
いや、今まで会話なんてした事はなかった。
一方的に自分が言葉を投げかけるだけだったように思う。
しかもライラックの事を罵るような言葉を。




