大好きなお兄様に溺愛されています。22
ライラックに意味深な言葉を投げかけられた瞬間に馬車が止まる。
「着いたみたいだね」
何事もなかったかのように、ライラックはリラの顎に手をかけ、顔を上げさせてると眼鏡をかけてあげて、自分も眼鏡をかける。
そして馬車から降りて、「さあ、私の可愛いフィアンセ殿」と声をかけてリラに手を差し伸べた。
おずおずとライラックの手の上に自らの手をのせて馬車を降りる。
その瞬間、目の前に広がる景色にリラは声を上げた。
「ここは!」
小さなお城のような外観。
白い壁。
大きなショーウィンドウの奥には沢山の服。
ショーウィンドウ手前には石でできた白馬。向かいには白い天使のモチーフ。
モチーフの間には二体のマネキンがあり、リラの好きな系統の洋服がセットされていた。
「リラのブティック?!」
「正解。流石私のリラだね」
チュッと頭にキスをされ、馬車に忘れたはずの帽子をかぶせてくれる。
瞳をキラキラさせて見つめるリラを見て、やっぱり連れてきて良かったとライラックは思った。
ジョニーからリラブランドをリラだけが着るのは勿体ないから一般販売してみないかと言われた時は、すぐ様断った。
勿論、やんわりと。
ジョニーを敵に回すのは得策ではないからだ。
だが、そんなものはジョニーには通じない。
「君さ、リラにプロポーズする時どうするの?指輪も贈らないとかありえないから。そんな子にリラは渡せないなぁ」
子供でもジョニーは対等に扱ってくれていた。
それはリラを欲しているライラックにとっては嬉しい事だった。
「売り上げで婚約指輪が作れるよ」
にかっと笑ったジョニーを見て自分の扱い方がわかっているなぁと思う。
この人を超えないとリラは手に入らない。
「商品化するなら、リラのデザインと差別化したいです」
リラの為に作ったのに、他と一緒では全く意味がないからだ。
「当たり前じゃないか。可愛いリラと同じ物を販売するなんてこと許す訳ないでしょ。・・・って僕、君の闇属性うつっちゃったのかなぁ」
「なんですか。その"やみぞくせい"って」
「あれ、病み属性って言うのかなぁ。わかんなくなっちゃった。ごめん、ごめん。なんでもないから、気にしないで」
ため息をついてジョニーを見つめると向かい側のソファーから立ち上がり手を差し出してきた。
「なんですか?」
「立ち上げから当分は私が管理するからね。その後どうするかは君が決めて良いから。経営について教えてほしかったら声かけて。家庭教師を呼ぶ事も出来るし僕が教えても良いなぁ。という事で握手!」
「えっ?!」
「これからはビジネスパートナーだよ」
ただリラへの独占欲から始まった事だった。
その独占欲から生み出された物が、リラとの結婚への第一歩を踏み出すきっかけになるとは夢にも思っていなかった。
(本当に恐ろしい方だ。まだ私はあの人の掌で泳がされている気がする)
眩しい目でブティックを見つめているリラに伝えなければならない事があったと思い出し、ライラックはリラの手を優しく握った。
「先に言っておくけど、リラが持っている物はリラ用であって全て一点物だから。同じような物はあるけどリラの持っている物には劣ってるからね」
「そうなんですか?」
「うん。お父様の了承は得ているから安心して?ちなみに今日の服はまだ"リラ"にはないから、それも安心して良いからね。じゃあ、行こうか」
ライラックが繋いだ手を、指を絡める握り方に変えて階段を登っていく。
それにならうようにリラは付いていき、ブティックに入った。




