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1-1

 扉を抜けると、丁度森と草原の境目のような場所に佇んでいた。服装はあの仮想空間に居た時と同じもののようだ。ショートソードは腰に括られているし、ポーチも……ん、あるな。



 「ミズキ様。どうやら此処は獣魔の森と呼ばれる森の辺縁部のようです。近くに街道が通っている筈ですので、ひとまずそちらへ移動致しましょう。この辺りには脅威となり得る魔獣は出没しないと思いますが、念の為。」



 タクトも無事にこちらへ来れたようだ。タクトに先導されつつ、一応周囲にも気を配りながら街道へと進んで行く。暫く進み、街道へと出たところで気が緩んだのか、知らず張り詰めていた息を吐いた。見知らぬ土地ということで少し緊張していたようだ。



 「ふぅ。思っていたより治安が良さそうだね。獣に襲われることもなかったし、街道も歩きやすそうだ。」


 「左様でございますね。森の中ならば大型の魔獣もおりますが、街道付近では定期的に討伐依頼が出されております故、安全は確保されているようです。此処から一番近い村まではもうしばらくかかります。その間にこれからの事をご相談したいと思っておりますが、いかがでしょうか。」


 「そうだね、そうしようか。」



 それから、ゆっくりと街道を村へと進みつつタクトと俺の設定をどうするか相談した。

 とりあえず、他の村から来た冒険者志望ということに決まった。実際村の若者が冒険者を志望する事はよくあるらしく、疑われにくいだろう。結晶を集めるという目的にとっても、比較的自由に行動できる冒険者はうってつけだ。


 膝丈程の草原だった景色が、次第に草の丈が短くなっていき、遠目に畑のようなものが見え始めた。



 「ミズキ様、ブロン村が見えて参りました。ここには冒険者ギルドの支部がございますので、登録もできる筈です。」


 「ブロン村っていうのか……。問題なく登録出来ると良いんだけど……。」



 タクトと雑談をしながら村へと進んでいくと、獣除けの木の柵と門らしき場所が見えてきた。そばには武装した人間が一人立っていた。この人は門番だろうか。

 近づいてくる俺たちに気が付き、こちらへと声をかけてくる。



 「こんな時間に外から人が来るのは珍しいな。冒険者か?」


 「こんにちは。ここより辺境から冒険者登録をしに来ました。入ってもいいですか?」


 「辺境から来たにしちゃいやに丁寧な話し方だが……。まぁいい、登録希望者だな? という事は身分証なんかもないんだろう? 面倒ごとを起こしたらたたき出すからな! あと、登録が終わったら一度見せに来るんだ。」



 少々訝しがりながらも門番の男は俺を中に招き入れてくれた。話し方が丁寧すぎるか……。でも、最初の印象は大事だしな。普段よりも気持ち丁寧くらいがちょうどいいのかもしれない。

 門番から冒険者ギルドのある場所を聞き、そちらへと向かう。そういえばタクトの事には触れられなかったが、そう珍しい事でもないのかな?


 ギルドの入り口をくぐり中に入ると、思っていたよりも閑散とした場所だった。まぁ、これは時間帯もあるのだろうが、空いているのなら好都合だ。早速登録をしてしまおう。



 「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件ですか?」


 「冒険者登録をお願いしたいです。」


 「かしこまりました。では、こちらの用紙に記入をお願いします。わからない、もしくは記入したくない箇所は空白で構いません。文字が書けない場合は代筆も行っていますが、いかがなさいますか?」


 「大丈夫です。」



 受付嬢から用紙を受け取り、そう返す。言語理解のスキルのおかげか、見たこともない文字だが内容は理解できる。試しに名前を書いてみたが、文字も問題なく書けるようだ。

できる範囲で用紙を埋め、空白と半々くらいで受付嬢へと提出する。



 「はい、確かに。では、この上に手を乗せてください。」



 カウンターの奥から台座に乗った大きな水晶を取り出し、記入済みの用紙を台座へと入れる。そしてその水晶球に手を乗せるよう促された。これは何かのマジックアイテムだろうか? 促されるままに水晶へと手を置くと、水晶が淡く光りだす。しばらく明滅を繰り返して光はおさまった。



 「はい、お疲れさまでした。では、このカードに血液を1滴垂らしてください。」



 水晶を脇によけて、台座から出てきたドックタグに似た金属片と針を俺に差し出す。指先を針でついて金属片に血を垂らすと、身体からナニかが抜ける感覚と共に血は金属片へと溶けるように吸い込まれて淡く光る。



 「はい、これで登録は完了となります。このギルドカードを紛失した場合は再発行に銀貨1枚必要となりますので、なくさないようしっかりと管理をお願いします。次にカードの悦明をさせていただきますね? カードを持って『カードオープン』または『開示』と唱えてください。」


 「カードオープン!」



 ギルドカードを片手にそう唱えると、目の前に半透明のディスプレイのようなものが現れた。そこには俺の名前のほか、ステータスなどの情報が記載されていた。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 名前:ミズキ

 種族:普人族(ヒューマン)《異世界人》

 ギルドランク:F(Eランクまで残り10ポイント)

 ステータス:

 STR(力強さ、攻撃力) D

 VIT(体力、忍耐力) E

 DEX(器用さ、補正力) E

 AGI(俊敏、素早さ) D

 INT(賢さ、理解力) E

 MGC(魔力、器の大きさ) E

 LUK(運、運命力) F

 スキル:

 言語理解(S)、剣術(F)、鑑定(F)、魔法適正(C)、格闘術(D)

 加護:精霊の加護


 *従者:タクト


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 「目の前にカードの内容が表示されていると思います。スキルの詳細は触れることによって表示されます。魔獣や獣などを討伐されますと、討伐数が新しく表示されるようになります。

 カードの内容は基本、本人にしか認識できません。任意で内容の表示、非表示を切り替えられますが、ギルドにはある程度の情報を開示して頂く必要があります。普段は最低限、名前とランクは提示しておいて下さい。身分証も兼ねていますので。

 あと、こちらの冊子をお渡ししておきます。新人に必要な知識が載っていますので、必ず目を通してください。」



 そう言って受付嬢は俺に小さな冊子を手渡して来た。カードに名前とランクを提示させて終了し、渡された冊子をパラパラと流し読む。……ん、所謂テンプレな内容が記載されていた。これなら覚えられそうだ。

 手の中の赤銅色の輝きを見て、思わず頬が緩む。これで俺も冒険者になったんだな……。



 「ほほぅ。冊子にしっかりと目を通すとは! なかなか有望そうな新人じゃの。どれ……ふむふむ……これは先が楽しみじゃのう! 道を外さずに精進するとえぇぞ。」



 カウンターからの声に顔を上げると、好々爺という表現がぴったりの爺さんがこちらを見つめていた。目が合うと更に笑みを深めて続ける。



 「おっと、これは失敬。わしはここのギルドマスターのダリウスと申す。久方振りの新人登録じゃったのでな。つい好奇心に負けて見に来てしまったわい。いや、なかなかに有望そうでなによりじゃ。」


 「あ、マスター! 職権濫用ですよっ!」



 受付嬢による抗議にもどこ吹く風と言った様子で、飄々と立ち去っていく。唯の爺さんにしか見えないんだけど、ギルドマスターという役に付く位だしやっぱり強いんだろうな。



 「はぁ。マスターの邪魔が入ってしまいましたが、このステータスなら剣士でも、魔術師でもやって行けそうですね。他に何か質問はございますか?」


 「そうですね……。あぁ、お薦めの宿など教えてもらうことはできますか?」



 初期資金があるとはいえ、無駄遣いは避けたいところだ。ギルド推奨の安宿なんてものがあるといいんだが……。



 「初心者御用達のギルド付属の宿なんてどうですか? 食事は付きませんが、1泊銅貨3枚と破格ですし、簡単な食事なら併設している酒場で摂れますよ。」



 食事無しで銅貨3枚は破格だな……。部屋の状態にもよるが、暫くはギルド付属の宿にお世話になろうかな。何より今日は歩き通しだったからそろそろ休みたいのが本音だ。

 受付嬢に案内され宿の一室へ。そこは宿というよりは物置小屋にベッドと備え付けの木箱が一つがあるだけの殺風景なものだった。しかし妙に落ち着くような……あ、そうか。実家の屋根裏部屋に似てるんだ……。ここなら暫く滞在しても良さそうだ。

 とりあえず2泊分の料金を前払いし、早速ベッドへと横になった。



 「……なんか忘れてるような……? でも今日はもう疲れたし、明日に……。」



 その呟きを最後に、俺の意識は落ちていった。


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