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今日で1章、終了です。
翌日、予定の時間も迫っているためギルドの個室へと急ぐ。中に入ると既に10人ほどのヒトが集まっていた。まずい、最後だったか……? 後ろの方でしばらく待っていると後からも何人かやってきていた。まだランクも経験も低い俺たちが最後って言うのは回避できたようだ。ふぅっと胸をなでおろしていると、昨日説明をしてくれたウェズリーさんが入ってきた。
「皆様、こんな時間に集まっていただきありがとうございます。今回は5つのパーティとうちの専属護衛3名で商隊を護衛していただくことに決まりました。詳しいことはうちの専属のほうから話をさせますので、よろしくお願いします。」
挨拶だけすると、ウェズリーさんは退室していった。それとほぼ同時に部屋の一番奥に陣取っていた大柄で熊のような成りの革鎧の男が口を開いた。
「あー、俺はヴルスト商会の専属護衛をしているゼンだ。先ほどウェズリー殿が言っていた通り、これから護衛について話をしたいんだが……。今回は人数が多い。とりあえずパーティ名だけ互いに紹介して、詳しい話はリーダーとしたいと思う。それでいいかな?」
「問題ない。『ウルフファング』この4人だ。」
「こっちも平気よ。私たちは『アルラウネ』この3人よ。」
「了解した。俺たちは『黒き剣』この4人だ。」
「ん。『デザートカクタス』3人。」
「大丈夫です。僕たちは『トッカータ』この4人です、どうぞよろしく。」
パーティリーダーがそれぞれメンバーを連れて紹介する。全部で18人か……。専属護衛のヒトを入れると20人を超えるってやっぱり多い……。一通り商会が終わったので、他のメンバーは一度退室してもらい、各リーダーとゼンさんで打ち合わせを始める。
「改めて、ゼンという。ランクはBだ。よろしくな。」
「じゃぁ俺も。黒き剣リーダーのスコットだ。ランクはB、よろしく。」
「俺はウルフファングのリーダー、リット。Cランクだ。」
「私はアルラウネのリーダー、ベルよ。ランクはC、よろしくね。」
「ティティ。デザートカクタスリーダー。Bランク。」
「僕はトッカータのリーダー、ミズキです。ランクはD、よろしくお願いします。」
「ん。迷宮都市までよろしく頼む。一応指揮は専属である俺が取ることになるから、ある程度の戦力を把握しておきたい……っと、その前に報酬の取り決めが先だな。基本報酬はパーティで均等に割って渡す。個人への分配はパーティで決めてくれ。途中襲ってきた魔獣の素材も合算して渡すことになるが……それでいいな? 盗賊団が出た場合の報奨金だが……首級をあげた奴の総取りでいいか? 次に配置だが……。」
リーダー同士の挨拶が終わると、ゼンを中心に護衛時の配置や夜間の見張りの順番、魔獣の討伐順、臨時報酬の分配方法、イレギュラーな事態での取り決めなどなど、細かく話し合っていく。あとで揉めることにならないよう、負担が偏らないよう、みな真剣に話し合っている。もちろん俺も自分のパーティが不利にならないように、主張するところはしっかりと主張したつもりだ。
2時間ほどですべての話し合いが終了した。大きく揉めることなく、俺のパーティが一方的に不利な立場になることなく終えられたと思う。頑張ったぞ、俺。
2日後の朝に出発予定のため、準備などもあるので一旦解散となった。ギルドをでてメンバーと合流する。リーダー同士で話し合った内容を伝えつつ、護衛任務に必要な準備を整えていく。それと今後は迷宮都市を拠点として活動していくことになるため、今までのように気軽に家に帰ることはできなくなるだろう。特にアスタは今まで実家暮らしだったため、お別れの時間を作ってあげないと。
メンバーには各自3日分以上の食料を準備するように説明し、解散とした。いろいろとお世話になったヒト達への挨拶もあるだろうし、2日後の朝、南門集合とした。
俺もお世話になったテオドラさん達に顔を見せに行かないとな……。
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昨晩はポーラさんに引き留められて少し遅くまで起きていたため少し眠気が残っている。これから長期の依頼へ入るっていうのに……。少し体調管理をしっかりとしなきゃだめだな。……でも、別れを惜しんでくれるヒトが居るって言うのはいいものだな。今日はメンバーの分までお弁当を作ってもらって、本当に感謝しかない。
テオドラさんへ顔を見せに行ったときも、餞別だと言って1振りの短剣を贈ってくれた。その場はありがたく頂戴して、宿に帰ってから鑑定をかけてみると頑強+1の付いたモノでびっくりした。さらっとこういうことをしてくるなんて……。ちょっと涙腺が緩むじゃないか……。
アスタも昨晩は家族とゆっくり過ごすことができたようで、しばらく帰ってこれないと伝えると、死ぬ気で頑張ってこい! と発破をかけられたと苦笑していた。
そんなことをメンバーと話しながら南門で待っていると、たくさんの荷馬車以外にも旅装束に身を包んだ人たちが集まってきていた。……人は次々と集まってくるけど、出発しようとする人はいないな……。……まさかこれ……も、もしかして全員が今回の商隊に参加するヒト達なのか? ウェズリーさんから聞いていた規模よりもかなり多いんだけども……!
次々とやってくるヒトに困惑していると、荷馬車が多く集まっている街道付近にウェズリーさんを見かけたので、挨拶がてらこの状況のことを聞いてみることにした。
「おはようございます、ウェズリーさん。トッカータは全員揃いましたよ。」
「ん? あぁ、おはようございます、ミズキさん。メンバーの皆さんもおはようございます。今日からよろしくお願いしますね?」
「はい、微力を尽くします。……それで、少しお聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」
「ん? 何か問題でもありましたか?」
「いえ、問題というほどでは……。商隊の規模なのですが、お聞きしていたよりも些か多いような気がしまして、確認に……。」
「いや、規模は事前に伝えていた通りで変更はないはずですが……。……あぁ、彼らの事ですかね? 大方護衛を雇う余裕のない旅商人たちでしょうね。大きな商隊を率いていると偶にこういう事があると聞いています。商隊の後をついてきて、護衛費用を浮かせようと考えているんでしょうね。こちらとしては、正直困るのですが……。」
いかにも迷惑していますという渋い顔で旅商人たちを見ながら教えてくれた。人数が多くなるとそれだけで魔獣からの襲撃は少なくなるし、商隊の雇った護衛がいるから野盗も手を出しにくくなるし、比較的安全……か。なるほど。資金の少ない旅商人なりの知恵なんだろうけれど、きっちり護衛費をかけて安全を買っているウェズリーさんたちとしては面白くないだろうな……。
「なるほど、わかりました。万が一の場合は気にしなくてもいいんですね?」
「いやいや、万が一も何も勝手についてきているだけですからね? 対象に含めないでくださいよ。護衛費をケチって儲けを優先したのは自分たちですから、万が一の場合も自己責任という事です。……まぁ、魔物の素材が欲しかったり、ものすごく余裕がある場合は別ですけどね……。」
念のため確認したらしっかりとした返答があった。多少の目こぼしはあるようだが、はっきりと対象に含めなくていいとは……。まぁ、自己責任といわれてしまえばそれまでなんだけれど、そう簡単に割り切れないよなぁ……。一応メンバーにも声をかけておくが、余裕があるうちはちらちらと気にかけておくことにする。それに気を散られて商隊の護衛が疎かに……なんてことは絶対にダメだけれどね。
「さぁ、皆さんそろそろ出発しますよ!」
ウェズリーさんの掛け声で商隊はゆっくりと村を出発した。列をなして迷宮都市へと進んでいく。少し後を旅商人たちが遅れないようについてきている。……あぁ、この村ともしばらくのお別れだな……。
こうして俺たちは迷宮都市へと旅立ったのだった。
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