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 Dランクになった俺たちは、積極的に近隣の村や集落への護衛依頼をパーティでこなしていた。最初はぎこちなかった野営も回数を重ねる度に上達していった。最近では野営込みで少し遠い場所まで討伐をしに行くこともあるくらいだ。幸か不幸か、野盗の類とは未だ遭遇していない。ヒトを相手にしなくてもいいのは幸いだが、対人戦の経験が皆無なのは少し不安が残る。世の中善人ばかりじゃないのはわかっているからな……。



 「ミズキ様、迷宮都市への護衛依頼が貼り出されておりました。随分と大規模な商隊の様でございます。」



 そんなことを考えていたら、タクトが護衛依頼を見つけてきた。大規模といっていたけれど、どの程度の商隊なんだろうか……? みんなでその依頼書をのぞき込む。



 「どれどれ……。本当だ、結構大きな商隊みたいですよ。希望は20~30人ってことは、これは合同依頼というやつですかね? 出発の日まではまだ日にちがありますよ。」


 「ふむふむ。まぁ、うちのパーティはまだ対人戦を未経験だから、他のパーティとの合同依頼っていうのは正直ありがたいんだけれどね……。」


 「何か問題でもあるんですかぁ?」


 「まず、片道の護衛依頼だから、受けるとこの村へ帰ってくるのが大変って言うのが1つ。合同依頼ってことで自由な振る舞いは極力避けなきゃいけないって言うのが1つ、それから……。」



 そう、問題はいくつかあるが、先に挙げた2つは正直無視してもいいレベルだ。俺はそろそろ拠点を移動してもいいと思っているし、行き先が迷宮都市なんて逆に好都合だ。大小さまざまなダンジョンが集まっているあそこなら、色々と勉強になることも多いだろうし。よくよくメンバーと話し合う必要はあるけどな。

 気になるのは最後の1つ。大規模な商隊をまとめるような商会なら、専属の護衛がいるはずだ。多少追加の人員を雇いはするだろうが、30人もの人を追加するなんて言うのは珍しい。護衛依頼が片道のみというのも変だ。迷宮都市から来たのなら、護衛も往復で契約するはずだ。大切な荷物なら、なおさら赤の他人の冒険者よりは、子飼いで面識のある冒険者に頼むほうが安心だろう。

 ……それをしない、あるいは出来ないという事は、来る途中で何かトラブルがあって解雇または離脱したのか……。最悪死亡しているという事も考えられるか……? その原因は何だ? 仲間割れとか冒険者側のトラブルか? それとも盗賊? いや、強力な魔獣が出たのか?

 正直、野盗程度ならまだいい。……いや、よくはないが、対人戦の経験が積めると考えればまだいい。だが、もし魔獣だったら……? Dランクの俺たちで相手になるのか……?



 「ミズキ、難しい顔してる。何かあった?」


 「ん? あぁ、ごめん。ちょっと考え事をしてて……。」


 「いくつか問題があるんはわかりました。僕は片道でも大丈夫ですよ! Dランクなのが気になるようでしたら、直接依頼人に確認してみるのはどうでしょう?」


 「そうそう。ミズキは心配しすぎですよぉ?」



 そう皆から声をかけられた。どうやらだいぶ眉間に皺が寄っていたようだ。確かに考えてばかりじゃ駄目だな。アスタの言う通り、直接依頼主に確認をとったほうが早い気がする。みんなにも確認し、とりあえず受付で話を聞いてみることにした。



 「んにゃ? ミズキのパーティかにゃ。依頼書をみせるにゃ。」


 「あぁ、ミケットさん。これなんですけど、少しお聞きしたいことがありまして。」


 「にゃん? 迷宮都市までの護衛依頼かにゃ? ミズキのパーティは索敵要員が多いから歓迎されると思うにゃー! 丁度これから依頼主からの説明があるから聞いてみるかにゃ?」


 「それは是非!」



 タイミングよく依頼主がギルドで説明会のようなものを開催するらしい。意外とあっさり懸念事項が解決されそうだ。説明会を聞いた後で依頼を受けるかどうかを決めていいとのことで、そのままミケットさんの後についてギルド奥の個室へと入った。



 「まだはじまってにゃいにゃ? もう1組連れてきたにゃん。」


 「あぁ、ミケットさん! ありがとうございます。お手数をおかけしてしまってすみません。あとはこちらで説明させていただきます。」


 「よろしく頼むにゃ!」



 中にいた男性に声をかけ、ミケットさんは受付へと戻っていった。とりあえその男性へ会釈して周りを見てみると、俺たち以外にも10名ほどのヒトがそこに集まっていた。見ている限りではパーティ全員で来ているのは俺たちくらいのようだ。



「皆様、お集まりいただき感謝いたします。わたしは今回の依頼の代表であるヴルスト商会のウェズリーと申します。何か質問がありましたら、私を通してください。まず、皆様のパーティ名と構成人数を教えていただいてもよろしいですか?」



 中にいた男性は商会のヒトだったようだ。端から順に次々とパーティ名と構成人数を答えていくが……少し困ったな。俺のパーティはまだ名付けをしていなかった。今までなくても不自由しなかったから、すっかり忘れていたよ。



 「まだパーティ名は未定です。構成人数は4名です。」


 「名は『ウルフファング』、4名だ。」



 今回は10パーティほどが参加しているようだった。どのパーティも4~5名の構成人数で、」すべて参加したら30人を超えるだろう。随分と大きな商隊になりそうだ……。



 「どうもありがとうございます。今回は迷宮都市までの護衛の依頼です。普段でしたらこんなに大きな商隊は組まないのですが……。今回は少し気になる噂を小耳にはさみまして。知り合いの商会と合同で商隊を組むことにしたのです。今回扱っている品は貴重なものなので、少しの可能性も見過ごせなくて……。」


 「その、気になる噂って言うのはアレか?」



 ウェズリーさんの説明に対してウルフファングのヒトが問いかける。アレって……噂なんて聞いたことがないんだけどな。俺たちの情報収集が甘いのか? でも、これだけの冒険者を募るってことh、信憑性の高い話なのだろう。他の人たちもウェズリーさんへと視線を向けている。



 「はい。隣国から国境を越えて大規模な盗賊団がこちらへ流れてきている……。という噂です。この村は国境のそばにありますし、交易商人の商隊が必ず通る場所でしょう? おそらく盗賊団の狙いは交易商人の商隊だと睨んでいるのですが、念には念を入れて……という事です。」


 「盗賊団だと……?」


 「そうです。うちにも専属はいますが、何分規模が大きくなってしまいまして……その、少し人数がですね……。報酬は弾みますので、皆さんよろしくお願いします。」



 そう言ってウェズリーさんは笑った。なるほど、商隊の規模が思った以上になり、専属では賄いきれずに依頼を出したのか。納得できる理由だな。対人戦の経験も積みたいし、こんな大規模な商隊の護衛の気合いなんてめったにないだろうから、今回は引き受ける方向で考えてみよう。



 「あぁ、そうでした。例の盗賊団に襲撃されて撃退出来たら、追加で報奨金が出ると思います。商人ギルドから懸賞がかけられていたはずですし……。参加していただける方は、明日にもう一度ここへお集まりください。それでは、私はこれで失礼します。良い返事を期待していますね。」



 ウェズリーさんが退室すると、他の人たちもぱらぱらと部屋を後にした。今部屋に残っているのは俺たちのパーティだけだ。俺も部屋を出ようとしたが、チッチに袖を引かれた。



 「ミズキ。……みんなパーティに名前、あった。」


 「そうですね。僕、すっかり忘れていました。」


 「ミズキさん! 素敵なパーティ名が欲しいですぅ!」



 足を止めたところで、3人にずずいっと囲まれてしまった。いや、俺だってパーティ名を決めないとな、とは思ったよ? ちょっと忘れていただけで……。でも、名づけはセンスを問われるからなぁ……なかなか難しい。とりあえず、皆の意見を聞いてみようか。



 「わかった、わかった。素敵なパーティ名って結構な無茶ぶりだと思うけど……。みんなは名前の候補とかあるかな?」


 「……塔を攻略し隊……?」


 「そうですね……ウィザーズなんてどうでしょうか? みなさん魔力持ちですし……。」


 「はいはいはい! トッカータなんてよくないですか? 古代語で即興曲って意味なんです。皆さんと奏でる即興曲って感じでっ!」



 みんなのセンスがバラバラでなんとも言い難い。チッチは……きっと俺と一緒で何も考えていなかったんだろうな。でも、いずれ塔の攻略を視野に入れていることを考えるとちょっといい気も……やっぱしないな。意外とミルキィのはセンスがいい気がするが……。



 「トッカータ……いい響き。オレ好き。」


 「でしょう? どう思いますか、ミズキさん!」


 「うん、いい感じだと思う。トッカータ。アスタはどうかな?」


 「はい! これで決まりですね!」



 何となく揉める気配のしていたパーティの名付けは、あっさりと決定した。ちょっと拍子抜け。でもいい名づけができたと思う。

 すんなりと決まったパーティ名を受付で申請し、ついでに迷宮都市への護衛依頼も受けることにしたと告げる。また明日、同じ時間に同じ個室へ集まってほしいとの伝言を貰う。ウェズリーさんも同じようなことを言っていたな。忘れないようにみんなへもう一度念を押して、解散とした。




いつも読んでいただきありがとうございます。

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