1-23
そろそろ1章も終盤です。
そんなこんなで約束の5日間が過ぎた。あれから俺は特訓中の2人をねぎらうべく、食肉系の依頼を受けては余分に狩って踊る羊亭に提供した。チッチも手伝ってくれたので、割と楽しく過ごすことができた。もちろんその間も魔術のアレンジを続け、2つほど増やすことに成功した。新しく習得したプロテクト系の魔術の練習も忘れてはいない。
チッチも新しく習得した身体強化の魔術を使いこなすために積極的に依頼をこなしていたようだ。一緒に狩りをする度にチッチの動きがより速く、より洗練されていくのが手に取るように分かったのだ。
アスタ達の成長も楽しみで仕方がない。
そんなこんなで、俺たちは2人の成長を実戦で確認するべく簡単な依頼を受けて草原へとやってきていた。今回は俺とチッチは手出しせずにアスタとミルキィだけでやってもらう事となる。
「前方2時の方向に反応あり! ……角兎かなぁ? 丁度いいからまずはあたしが行きますよぉ!」
そう言うとミルキィは弓を構える。キリキリと弓を引き絞り、まず1射。続いて2射、3射と矢を射っていく。5日前はど素人だったとは思えないほどの正確さだ。矢を射るまでの動作も素早く、相当な努力がうかがえる。
矢を射かけた先には2匹の角兎が倒れていた。2匹を倒すのに3射だけとは、命中率もかなりのものだ。
「ふぅ……。1射外してしまいました~。でも、これで少しはあたしも戦闘に参加できますね!」
嬉しそうにこちらを振り返る。遠距離の物理攻撃手段が増えたのは素直に嬉しい。それに命中率も良く正確さもある。これから頼りにさせてもらうこともありそうだ。角兎を回収し、次の標的を探して歩きだす。
しばらく歩いてみたが、中々次の標的を見つけることができないでいた。その時、妙に林の方が気になって視線を向ける。……あそこ、何かいそうな気がする……。
「林の方角に反応ありです! 複数だから……吠猟犬かもしれないですぅ!」
「じゃぁ、次は僕ですね! ミルキィ、援護をよろしく!」
「了解!」
「ファイアアロー!」
ミルキィの探知に引っかかったのは、俺が妙に気になった林の茂みの辺りだった。偶然……かな? たぶん。複数体の吠猟犬は2人で捌くのは少し大変かもしれないな……。すぐに援護に出られるように注視しつつ見守る。
アスタが先制で茂みに放った火矢は3匹の吠猟犬を炙り出した。敵意をむき出しにしてこちらへ襲い掛かってくる。ミルキィはアスタに攻撃が集中しないように、後方の2匹へめがけて矢を放って牽制し、アスタは黄杖を低く構えると、噛みつこうとしてきた吠猟犬の顎をかちあげて急所である喉を晒し、そこへと突き技を放っていた。
魔獣に接近されると火矢を乱射していたアスタはもうどこにも居なかった。しっかりとした足さばきで木杖で次々と吠猟犬を倒していく。ミルキィとの連携も悪くない。……本当、2人はとっても努力して成長していたんだなぁ……。
最後の1匹のとどめを刺して、どや顔でこちらを振り返る2人を見ながらそんなことを考えていた。武術指南、頼んでよかったなぁ……。2人には頑張りを軽く見ていたことを謝らないといけないな……。
「お疲れ様2人とも。すごく動けるようになっててびっくりしたよ!」
「アスタもミルキィもすごい! いっぱい頑張ったんだな!」
「ふふん。とーっても頑張りました! 軽く地獄を見るぐらいには……。」
「んふふ……。スパルタでしたねぇ……。でも、その甲斐あってかメキメキと上達したって褒められましたよ!」
2人が若干遠い目をしているのは気になるが……自身も度胸も付いたようなのでよしとする。たぶん、特訓の内容が大変だったんだろうな……。お肉を差し入れしてから教官役の冒険者が妙に張り切っちゃったからなぁ……。2人ともすまん。
「うん。本当にすごいと思うよ。……実は、吠猟犬が3匹って聞いた時点で2人には荷が重いかなって思っちゃったんだよね……。でも、全然そんなことなかった! 何なら少し余裕もあったよね? それだけ2人が努力したってことだよ。……2人の努力を疑うようなことをしちゃって、ごめん……。」
「……。いや、いやいやいや! 僕もちょっと大丈夫かなって思いましたし! ミズキさんに謝ってもらう事なんてないですよ!」
「そ、そそそ……そうですよ! ミズキさんのお肉の差し入れがなかったら5日間頑張りきれたかどうか……。ほ、本当ですよ?」
「フフッ! 2人共慌てすぎだぞっ。手、バタバタしてコッコみたい……フフフッ。」
俺が謝罪のために頭を下げると、2人共手をバタバタとさせながら大慌てで反論してきた。謝罪の気持ちは本当なんだけど、そこまで恐縮させてしまうとは……困ったな。それに、チッチではないにしろ2人の焦る姿をみていたら少しずつ可笑しくなってきてしまって、思わず笑い声が漏れた。
「ふっ……ふふっ……焦りすぎだよ、2人共。でも、ありがとう。」
「あーっ! ミズキさんまで笑いましたね! もうっ!」
「わっ……笑わないでくださいよぅ……!」
そういう2人もいつしか笑い始め、解体中も笑いが絶えぬままギルドへと戻るのだった。
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ギルドで依頼の完了報告と素材の売却を終えたところで、受付嬢から声がかかった。
「そろそろランクアップが可能となっていますが、いかがなさいますか? お手続しましょうか?」
その言葉に4人で顔を見合わせる。そういえば特訓の方に夢中でギルドカードの更新はしばらくやっていなかったな。特訓の成果も出ているだろうし、更新の前に一度情報を共有しておいたほうがいいのかもしれない。
みんなにどうするか相談すると、情報共有の後で手続きをすることに決まった。受付嬢に手続きは保留にして、個室が空いているかをたずねると幸いにしてまだ空きがあったようだ。全員で個室へと向かい、椅子に座ったところでギルドカードを確認し、情報の共有を行う。
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名前:ミズキ 職業:見習い魔剣士
種族:普人族
ギルドランク:E(Dランクまで残り0ポイント)★ランクアップ可
ステータス:
STR(力強さ、攻撃力) C
VIT(体力、忍耐力) D
DEX(器用さ、補正力) C
AGI(俊敏、素早さ) C
INT(賢さ、理解力) B
MGC(魔力、器の大きさ) C
LUK(運、運命力) E
スキル:
言語理解(S)、剣術(C)〔ツインブレイク、スラッシュ、三段突き〕、鑑定(C)、魔法適正(C)、格闘術(D)、解体術(C)、気配察知(E)
魔法:
生活魔法(消毒、照明、洗浄)、風術(下位)、水術(下位)
*従者:タクト
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名前:アスタ 職業:見習い魔術師
種族:普人族
ギルドランク:E(Dランクまで残り0ポイント)★ランクアップ可
ステータス:
STR(力強さ、攻撃力) D
VIT(体力、忍耐力) D
DEX(器用さ、補正力) C
AGI(俊敏、素早さ) D
INT(賢さ、理解力) D
MGC(魔力、器の大きさ) D
LUK(運、運命力) B
スキル:
魔法適正(C)、逃げ足(D)、杖術(D)〔受け流し、二段突き、強打〕
魔術:
生活魔法(消臭、洗浄、浄水)、火術(下位)、土術(下位)
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名前:ミルキィ 職業:見習い待祭
種族:半森人族
ギルドランク:F(Eランクまで残り0ポイント)★ランクアップ可
ステータス:
STR(力強さ、攻撃力) D
VIT(体力、忍耐力) D
DEX(器用さ、補正力) C
AGI(俊敏、素早さ) D
INT(賢さ、理解力) C
MGC(魔力、器の大きさ) C
LUK(運、運命力) C
スキル:
植物鑑定(D)、魔法適正(D)、弓術(D)〔連射、曲射〕
魔術:
生活魔法(洗浄、消臭、送風)、神聖術(下位)、探知術(初級)
加護:主神の加護(弱)
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名前:チッチ 職業:見習い狩人
種族:獣人族
ギルドランク:E(Dランクまで残り0ポイント)★ランクアップ可
ステータス:
STR(力強さ、攻撃力) C
VIT(体力、忍耐力) C
DEX(器用さ、補正力) B
AGI(俊敏、素早さ) A
INT(賢さ、理解力) D
MGC(魔力、器の大きさ) E
LUK(運、運命力) E
スキル:
短剣術(E)〔バックスタブ、パリィ〕、投擲術(C)〔ダブルスロー、トリプルスター〕、獣化、索敵(聴覚)
魔法:身体強化(下位)
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……全員思った以上に成長していたようだ。みんなランクアップ可能になっている。いくつかステータスも上がっているし、アスタとミルキィは無事にスキルを習得することができたようだ。俺とチッチには見覚えのないスキルが生えていた。どちらも字面からして探知系統のスキルだと思われる。
共有化を外してから、新しく生えたスキルの詳細を調べてみた。
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気配察知
動物や魔獣、ヒトの発している気配を感じ取ることができる。低ランクの時は違和感や視線として感じ取ることができる。ランクを上げていくと感じ取れるものの種類が増え、情報もより詳細に把握することができるようになる。
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おっと。これは中々使えそうなスキルが生えてきてくれたようだ。しっかりと鍛えていかなくては。チッチに生えていたスキルも、あとでどんなものだったか聞いてみよう。
「わぁ! 本当にランクアップ可になってますっ! それに、ステータスもこんなに上がって……! 嬉しいですぅ~!」
「成果が目に見えてわかるっていいですね。早速ランクアップの手続きをしちゃいましょう!」
「ミズキ! ランクアップのお祝い、する!」
「お、いぃねぇ。こんばんはポーラさんにお願いしてご馳走を作ってもらおうか!」
「「「やったぁ!」」」
そんな調子でランクアップ手続きを済ませ、踊る羊亭で夜遅くまで盛り上がっていた。……ちなみに、Dランクになった俺のギルドカードは鈍色、Eランクのミルキィは青銅色へ変わっていた。
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