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それから数日は、朝早く起きてパーティ全員で村の周囲をランニング。午前中で終わりそうな依頼を2つ受けて、昼前までに報告。午後は金策に高価買取をしている魔獣を狩りに行く。夜はタクト式魔力コントロール法で魔術の制御と忙しい日々を送っていた。
徐々にアスタ達も基礎体力がついてきたころ、目標の魔術書2冊分の金額が貯まったため、プロテクト系の魔術を覚えるために教会へと足を運んでいた。ついでにチッチの魔法適正も調べてもらうつもりだ。
「あらぁ? ミルキィさん……と、そのパーティの皆さん。今日はおそろいでいかがされましたか?」
「シスターメアリ、お久しぶりです。今日は仲間の適性試験と、下位魔術書の閲覧にまいりました。」
ミルキィが代表してあいさつをする。教会はミルキィの家みたいなものらしい。まぁ、見習いとはいえ待祭様だからな。いつもお世話になっているシスターとも親しげに会話している。
「適性試験を受けるのは……あぁ、獣人族の方なのですね。少々準備をいたしますので、ミルキィさん、先に皆さんのご案内をお願いしてもよろしいですか?」
「はい、もちろんです。では、後程。」
ミルキィが普段の姿からは考えられないほど淑女然としているため、まじまじと見つめてしまった。誰だこれ……別人だぞ……。シスターが別室へと去って行ったのを確認して、ミルキィは息を吐いた。
「はぁ~……。同職の人とお話しするのは気を使いますぅ。アレ? 皆さんなに呆けてるんですか? 試験の間はこっちですよ~?」
うん、いつものミルキィだ。よかった。
ミルキィの案内で試験の間問屋らに通される。俺もここで見てもらったなぁ……。チッチは柄にもなく緊張しているようで、いつもは右に左にと忙しく動いているしっぽが微動だにしていない。耳もピーンと立っている。
「お待たせいたしました。こちらへどうぞ。」
「はっ、はいぃ!」
がっちがちに固まっているチッチがカクカクしながら水晶球の方へと歩いていく。チッチが水晶球へと手を置くとぼんやりと光始めたが、はっきりとした『色』は見ることが出来なかった。『色』がないってどういうことだ? タクトから聞いた話では属性は6つに大別されて、それぞれ象徴となる『色』があるはず。火は赤色、水は水色、風は緑色、土は茶色、光は黄色、闇は灰色となる。上位属性にもそれぞれ象徴となる色があったはずだが、どれもはっきりとわかる色だったような……。
「あら。やっぱり獣人族の方は無属性なんですね……。もうよろしいですよ。」
「終わり……?」
水晶球に触れていた手をにぎにぎしながらチッチがこちらへと戻ってきた。試験が終わって緊張も解けたのか、また左右にしっぽが揺れるようになっている。
それよりもシスターが気になることを言っていた。無属性って生活魔法に分類されるものじゃなかったのか?
「チッチさんは無属性でしたね。獣人族の方は9割が無属性なのであらかじめ準備させていただきました。無属性の方が覚えられる魔術は2つのみ。この神殿にあるのはそのうちの一つ、身体強化のスクロールだけなのです。こちらへどうぞ。皆様はどうかこちらでお待ちください。」
そういうと、チッチを連れてシスターは別室へと向かった、無属性というのがよくわからないので、タクトに説明を求めた。
タクト曰く、獣人族というのは身体能力に優れている種族であるとされているが、それは体内の魔力を無意識に使用して強化しているから、なのだとか。もともと保有魔力も多くはなく、体外に魔力を放出するのが極端に苦手な種族らしい。半分くらいの確率で保有魔力が多めの個体が生まれて、そういう人が水晶球に触れると無属性として現れるそうだ。極稀に属性を持つ個体もいるようだ。
……なるほど……? 獣人族特有の属性だという事は何となくだが伝わった。
「身体強化って、出来たらとっても便利だと思うんだけど、どうして僕たちにはスクロールを見せてくれないないんだろうね?」
「それは……下手をすると身体が爆発四散するから……で、ございますね。」
「は? ……爆発……えっ?」
タクトの口から信じられない言葉が飛び出してきた。聞き間違いじゃなければ、身体強化で爆発四散って穏やかじゃないけれど、一体どういう事なんだ?
「身体強化は全身を魔力によって強化する術、と言われております。天性の勘で使いこなす獣人族と違って、他種族では相当緻密な魔力コントロールが必要とされています。下手なコントロールで扱うと、体内で魔力暴走が起こり、最悪の場合爆発四散という結果になります。」
「お……おぅ。……それは恐ろしいね……。」
アスタと2人で身震いする。身体強化ができると色々と戦術の幅が広がるような気がするんだが……残念だ。中位や上位の魔術に期待しよう。
そうこうしているうちにチッチが戻ってきた。少しふらついているようだが、大丈夫だろうか。あの直接頭に叩き込まれる感覚は何度やっても慣れないからな……。
「皆様、お待たせいたしました。下位魔術書の閲覧を希望されている方はどなたでしょうか?」
「はい。ミズキさんとアスタさんの2名です。2人ともプロテクト系の魔術書を希望されています。寄進は……こちらに。」
淑女モードのミルキィが対応する。何故俺とアスタだけかというと、実はミルキィはもう守護の神聖術を覚えていたらしい。しかし、魔力のコントロールが下手でうまく発動出来なかったため、ステータスカードには反映されていなかったのだとか。タクトに教わってから制御力が伸びて、なんとか先日発動できるようになったのだという。今は、より強固に発動できるように練習中らしい。先を越されてしまったな……。
「では、お2人はこちらへ。ミルキィさん、チッチさんを少し休ませてあげてください。」
「承りました。」
シスターに連れられて別室へ。今回俺は風術の方を習得することにしている。普段使っていても、水術よりは風術の方が上手く使えるような気がするのだ。なので、今回は水術はおあずけとなる。
並んだ椅子にアスタと並んで座り、シスターから下位の魔術書をうけとった。利き手を乗せると、あの頭の中に直接情報を叩き込まれるような感覚がして眩暈を覚える。目を瞑ってひたすら耐えているとそんな感覚も落ち着いてきた。少しふらつきが残っている物の立ち上がることができた。無事に習得できたようだ。
「うっ……。何度やっても慣れません。眩暈が……。うぅっ……。」
アスタも多少顔色を悪くしながらも習得できたようだ。これで後はミルキィ同様に発動の練習を繰り返していくだけだな。
眩暈が完全に収まるまで少し待ち、ミルキィたちのもとへと戻る。俺たちが戻ったころにはチッチも元通りになっていた。シスターに改めてお礼を言い、揃って教会を後にする。
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ギルドへと戻ってきたが、今日は依頼は受けずにフリーとすることにした。丁度いい依頼がなかったのもあるが、新しい魔術を試してみたいというのもあった。ここ数日は金策のために忙しくしていたから身体を休めるのもいいだろうという事で、今日のところは解散と相成った。
チッチは早く体を動かしてみたいのか、すぐに走り去ってしまった。俺は帰ろうとするアスタとミルキィを捕まえて、先輩冒険者に習うなら何がいいのかの希望を聞き出した。アスタは杖術、ミルキィは弓術に興味があるようだ。依頼を出す際の参考にしようと思う。
二人と別れた俺はいつも使用している受付とは別のところへと来ていた。こっちは依頼を出す側が利用する窓口だ。カウンターにいる男性へと声をかける。
「すみません。依頼を出したいのですが。」
「はい、いらっしゃいませ。こちらで承りますよ。どういったご依頼でしょうか?」
「そうですね……。出きればCランク以上の冒険者の方から武術指南を受けたいのですが、そういった依頼も大丈夫でしょうか?」
「可能です。……失礼ですが、冒険者のかたでいらっしゃいますか?」
「はい、そうですけど……。」
「左様ですか。どの程度の指南をご希望かはわかりませんが、護身術のような物でしたら冒険者向けの講習会などが不定期に開催されておりますので、そちらも併せてご案内させていただきますね?」
「えっ! そんなものがあるんですか!?」
その情報は全く知らなかった。詳しく話を聞いてみると、本当に冒険者になりたての初心者向けの講習で、Bランク以上の引退冒険者が護身術や間合いの取り方などを実戦形式で教えてくれるのだと。3日間ほどの講習で次回は丁度1週間後に開催される予定だという。基礎体力がついてきた2人にはぴったりの講習じゃないか! 2人分の申し込みをしておく。あとで教えておかないと……。
武器を使った実践的な武術に対しては講習会などは行っていないらしいので、杖術、弓術の基礎を習えるような依頼を出すことにした。Cランク以上指定で拘束期間は5日間とした。2人分ということで金貨が数枚飛んで行った。痛い出費だが、これで2人が強くなってくれるなら安いもの……だと思いたい。
カウンターの男性に礼を言い、次に雑貨屋へ向かった。
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カーン、カーン、カーン
金属同士が打ち合う音が響いている。ここはいつ来ても作業中だな……。それだけ色々な依頼が舞い込んでくるってことか。店の中に入ると、今日はきちんと店員に迎えられた。
「いらっしゃいませ。本日は何をお探しですか?」
「こんにちは。テオドラさんに少し幼児があったのですが、作業中ですよね? 終わるまで弓と杖、あと探検を見せてもらってもいいですか?」
「はい。今は親方は作業中なので、表に出ている物だけになりますけど、かまいませんか?」
「もちろんです。」
店員さんに断って、表に出ている弓を眺める。正直弓や杖は使ったことがないのでどれがいいのかさっぱりだ。やはり初心者にお奨めなのをテオドラさんに見繕ってもらうのがいいだろうな。
そんなことを考えつつ店内を見て回っていると、奥からテオドラさんが出てきた。
「あ、テオドラさん! こんにちわ。今日は早く終わったみたいでよかったです。」
「なんだ、ミズキか。今日は何の用だ?」
「うちのパーティメンバーが今度新しく杖術と弓術を始めるので、初心者用のものを……と思いまして。」
「ほぉん……。順調そうだな。」
「おかげさまで。」
テオドラさんと会話をしながら武具を見繕ってもらう。アスタには初心者用の木の杖をいくつか。ミルキィには女性でも扱える木弓を何張りか出してもらった。その中からさらに鑑定をかけて厳選していく。2つとも中々いいものを購入できそうだ。ミルキィ用に矢と矢じり、矢筒も購入しておく。
あとは、俺の剣も見てもらった。こちらへといてからずーっと行動を共にしているショートソードだ。手入れは欠かさずに行ってきたが、どうやらそろそろ寿命らしい。テオドラさんに相談すると、いくつかの長剣をすすめられた。
鑑定をかけつつ手に持ち、軽く振りながら見ていくと、1つしっくりと来るものがあった。幅広で、今使用しているショートソードの刀身を少し長くしたようなロングソードだ。このくらいの重量であれば、まだ片手で取り回しができる。
○●○●○●
-ロングソード-
幅広な両刃の剣。扱いやすい。
頑強+1
○●○●○●
鑑定の結果も悪くないため、これを購入することにした。予想外の出費となったが、いいものだし長く使えるだろう。
少々軽くなってしまった袋をポーチをへと仕舞い、雑貨屋を後にした。
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