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一通りの準備が終了し、交替で食事の時間になった。焚き火のそばへ行き、ポーチから三脚と少し大きめの鍋を取り出して、水術で水を溜める。一口大に切った干し肉をいれて火にかける。その間に採ってきた野草を水で洗って綺麗にし、少量のハーブと一緒に鍋の中へ。大き目の葉で包んでおいた角兎の肉は、葉の上で一口大に切り分け、臭み取りのハーブと粗く削った岩塩でもみ下味をつけてから枝を削って作った串へ刺して遠火でじっくりとあぶっていく。
肉の焼けるいい匂いが漂ってきたころ、行商人を含め、携帯食料やドライフルーツなどを食べていたほかの仲間たちから刺すような視線を感じるようになってきた。ローラなんかはこっちへ来ようとしてロイドさんに留められている。……あちゃぁ……飯テロだったか。……全員にわたる分はあったかな……。
「十分な量はないですが、皆さんも召し上がります……?」
俺の提案に、全員が頷く。こっちに突入しようとしてたローラはともかく、ロイドさんまで……。器は持参してもらい、皆にスープと肉のお裾分け。もちろん自分の分はしっかりと確保させていただく。お礼にと行商人さんからドライフルーツをいただいた。……これは! あまり日持ちはしないけれど、甘みの強いお高いほうのやつだ! 自分では中々手が出ないものなので、ありがたくいただいておこう。
「はぁ~。野営でこんなにおいしいスープが食べられるとは思っていませんでした。ありがとうございます、美味しかったです、ミズキさん。このお肉、どうしたんですか?」
「さっきの袋の中身はこれだったのね。美味しかったわ。」
「だから、晩御飯用と言ったでしょう? 肉は薪集めの時にたまたま見かけたので狩ってきました。携帯食料だけじゃ味気ないですしね。」
「あんた、解体スキル持ちなのね。便利な奴……。」
「そう! そうなんですよ! 干し肉は塩辛くて硬いし、パンも硬くてもさもさしているし……! ……ん? ミズキさんとパーティを組めばもしかして毎回おいしいご飯が食べられるのでは……?」
……どうやらミルキィは美味しいご飯に目がないようだ。いつか悪い奴に騙されないといいんだが。というか、普通は野営の時に料理なんてしないものなのか? 俺以外は携帯食料で済ませようとしていたみたいだし。肉を素焼きしたり、スープを作るだけでも違うと思うんだけどな……。
俺の疑問が顔に出ていたのか、ロイドさんが説明してくれた。
「野営でも料理ができるのはミズキ君の強みだね。そもそもちゃんとした料理が作れる人が少ないし、解体術と水術の両方を習得している人もなかなかいないからね。」
「そうね。1人いると便利かも……。ま、それは置いておいて、夜間の見張りよ! 6人いるから2人ずつペアを組んでちょうだい。ここで講義その2よ!」
そんなことを話していたら、ローラは夜の見張りについて説明してくれた。大体日の入りから夜明けまで見張りを立てること。今の時期だと大体8時間くらいになるのか……? 護衛の人数にもよるけど、基本はペアで組むこと。見h理の時間は8時間だと3-2-3時間で分けること。これは、真ん中のペアの睡眠時間が途切れ途切れになるから、見張る時間も少なくなる……らしい。あとは、時間は固定ではなくローテーションすること。などなど。すらないことも多くて新鮮な気持ちで聞いていた。
俺はチッチとペアで、最後の組になった。
「よろしくね、チッチ。」
「よろしく、です。」
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夜間はこれと言った問題もなく過ぎ、再び街道を隣村へ向けて歩く。野営地をでてしばらくすると、警戒に当たっていたミルキィから声がかかる。
「皆さん! 森の方角から魔獣の反応がありましたっ! 気を付けてください!」
「さて、このパーティでの初戦闘だよ。気負わずに行こう。アスタ君は魔獣の姿が見えたら魔術で先手を打ってね。ローラとミズキ君、チッチ君はその後の対処をお願いね。僕とミルキィちゃんは馬車の護衛だよ。」
「はっはい!」
「4……いや、5匹! たぶん、吠猟犬です!」
緊張した返事はアスタのものか。幌馬車の歩みは遅いため、いったん馬車を止めて迎撃態勢をとる。前衛は俺とローラ。チッチは遊撃に回ってもらった。アスタが後衛で、ミルキィとロイドさんは馬車の護衛に残る。
森から吠猟犬が飛び出してきた。ミルキィの言っていた通り5匹だ。灰狼と比べるとsの体躯は小さいが、群れによる連携は侮れない。血走った目でこちらの様子を窺っている。
ガルルルグゥアァ!
リーダーらしき個体の一声で、吠猟犬は一斉にこちらへと走り出した。すかさず、先頭を走る個体へと向かって明日が魔術を放つ。
「ファイアアロー! ……もう一回、ファイアアロー!」
うまく先頭の個体へ命中し、集団の足並みが乱れる。頭が火に包まれた個体を抜けて、残りの4匹がこちらに襲い掛かってくる。ローラは2匹を相手取り、チッチは炎に包まれて出遅れた個体を処理しに向かっている。俺には1匹、アスタへ1匹それぞれ襲い掛かってきた。すぐに助けに入れそうにないため、タクトにアスタのフォローをお願いして目の前の1匹と向き合う。
まっすぐ急所へ向かって繰り出される噛みつきを半身になって躱し、すれ違いざまに首元を狙ってショートソードを振り下ろす。ガツッと鈍い音がして吠猟犬は足元に転がる。俺の剣術スキルじゃあまだ動く的の首を落とすのは無理らしい……。すぐにとどめをさして周囲を見渡すと、既に皆戦闘を終えていた。
「ふぅ……。よかった、みんなもう終わってたんだね。」
「全っ然良くない! ミズキ! あんたなんでアスタの方に吠猟犬を通した!? それにチッチも! 炎に包まれた個体の処理はアスタでも出来た事でしょう? なんでアスタのフォローに入らなかったの!」
「え? アスタでも対応は出来てたみたいだし、タクトもフォローに付けました。何が問題なんです?」
「アスタの獲物、取るのよくない……。」
俺たちの返答を聞いたローラは深いため息を吐いた。ダメな子を見るような目で見られ、少しイラっといた。魔獣はすべて倒されているのに、何が問題なんだ? ロイドさんも苦笑しながらこちらへとやってきている。うーん、わからん……。
「はぁ……。あんた達何もわかっちゃいないわね。いい? あんた達は今、パーティで仕事をしているのは理解できてる? アスタの役割は後衛よ? 例えば不意の襲撃にも対応する必要があるパートなの。基本はフリーにさせて、ロングレンジから魔術を打ってもらうのよ。それなのに、接近戦をさせるなんて。論外よ! 論・外!」
「そうだね、今の対応はちょっと選択ミスだったかな。理想はチッチが受け持てればよかったね。タクト君を使ってアスタ君のフォローをしたのはよかったけど、それをするならアスタ君から引き剥がしてミズキ君へ誘導させるべきだったかな。」
なるほど……? そういうものなのか。アスタも普通に対応しているとばかり……と、そういえば自己紹介で接近戦は苦手だって言っていたような……? あらかじめ伝えていてくれたのに接近戦を任せたのは失敗だったな。それに追撃やほかの魔獣からの襲撃があった場合の対応は確かに難しくなる。後衛には余裕をもって対処出来る量しか任せるなってことか。
今回の件は俺に非があるので、ローラにもアスタにも謝罪する。パーティでの戦闘はソロの時と違って考えることが沢山あるんだな。そんなことを考えている俺を、ローラがまじまじと見つめてきた。……なんだよ。俺だって自分が悪いと思ったときは素直に謝るわ! 何こいつ正気か? って顔で見るんじゃない!
吠猟犬の素材を回収し、隣村への移動を再開する。これ以降は魔獣による襲撃もなく、日が暮れ始める少し前に隣村へと到着することができた。
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