表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/43

1-14

 翌日、やはり疲れもあったのか、目が覚めたのはもう昼というころだった。よく食べてよく眠ったおかげか、身体の方は大分楽になっていた。ふらつきなどももうない。変わらず大もりで用意してくれた朝食兼昼食をしっかりと平らげ、ゆっくりとギルドへとむかう。


 ギルドへと入り、受付に声をかけると慌てた様子で奥へと人を呼びに行ってしまった。まだ何も言ってないのに……。仕方なく隣の受付嬢に声をかけ、依頼の処理と素材の買取をお願いする。灰狼(グレイウルフ)の解体はできていないので解体も併せてお願いし、毛皮だけは買取に出さないことも併せて伝える。そんなことをしているうちに奥からギルドマスターが出てきた。



 「ミズキじゃな? 怪我の方はもうええのかの? 病み上がりなのに悪いんじゃが、少し話を聞かせてもらえんか?」


 「はい、おかげさまで大分よくなってきました。今、依頼の処理と資材の買取をお願いいているんですが……。」


 「そうかそうか。それは後で持ってこさせるでな。ほれ、こっちじゃよ。」



 ギルドマスター自らの案内で奥へと進む。一応こっちの様子は聞いているが、有無を言わさず連れて行こうとする当たり厄介な案件なのが透けて見える。それでも一応こちらには配慮されているような感じもするし、悪いようにはならない……よな? そう願いたい。

 裏庭へと出る手前に2階へと続く階段があり、それを上った先の左わきの部屋へと入っていく。ギルマスに続いて部屋に入ると、そこにはすでに数人の姿があった。あ、あの時の青年だ……ということは、彼らが俺を助けてくれた冒険者なんだろう。

 会議室のような室内には、大き目のテーブルに椅子が並べられている。ギルマスは奥の椅子に腰かけ、全員に籍をすすめている。俺はギルマスから少し離れた手前側の席に座った。相手パーティも、俺と向かい合う形で着席した。

 う~ん……? 彼らと面識はなかったはずなんだが、なぜか相手パーティの1人から鋭い視線を向けられている。森で木を失って村まで運ばせたから……かな? なんか居心地が……。



 「さぁて。まずは互いの自己紹介からかのぅ? こっちは『時駆ける風』の面々じゃ。深淵での仕事を任せておる実力のあるパーティじゃ。それで、こっちはミズキ君。Eランクの駆け出し、というところかの?」


 「改めて、初めまして。僕は『時駆ける風』のリーダー、ロンドです。どうやら具合はよさそうでよかったよ。」


 「初めまして、ミズキと申します。おかげさまで動き回れるまでに回復……。」


 「ちょっと! 何まどろっこしい挨拶なんてしてんのよ! こっちは朝早くから呼び出されてるっていうのに、新人風情が遅刻とはいい度胸ね。それに、今日まで礼の一つもないなんて……。」


 「こらっ! いい加減にしないか!」


 「だぁって!」



  ロンド案と言葉を交わしていたら、少し喰い気味に相手側の少女が叫ぶ。入室した時から俺に鋭い視線を送ってきた人だ。ロンドさんに諫められていたがこちらを見る目は変わらない。俺に言っている事もめちゃくちゃだ。ギルドに顔を出すように言われたときに日時の指定はなかったし、そもそも昨日んお夕方までは意識不明だったんだぞ?



 「えっと……何か誤解があるようですが……。ギルドからの呼び出しに日時の指定はなかったので、遅刻と言われても困ります。こちらとしては意識を取り戻した翌日に来ているので、最優先で対応したつもりなんですが……。そもそも、呼び出しの用件は何なんでしょう?」


 「そんなのは知ったこっちゃないわよ。こっちはあんたが来るからって待たされてんの。それに! なんで依頼達成の受理がされてないのよ! こっちは殲滅戦の帰りに人命救助までしてるっていうのに……!」



 俺がギルマスに説明を求めると、先ほどの少女もギルマスへと詰め寄った。その姿に他のメンバーはあきれ顔をしているが、誰も止めようとはしない。……いいのか、アレを放置しておいても……。もう少し礼儀を学ばせたほうがいいと俺は思うが……。そう思って視線をやると、思いっきり睨まれた。気が強い女の子って怖いよぉ……。



 「まぁまぁ、少し記録と記憶のすり合わせをしようと思っての。ギルドカードを貸してもらえんか? ほれ、そっちも全員じゃぞ?」



 俺の要求も、少女の抗議も軽く受け流してカードを回収していく。全員分のカードは、ギルマスの手元にある水晶版へ次々とはめ込まれていく。最後の一枚を嵌めて手元で何やら操作をすると、板に光る文字列が表示された。



 「これはのぅ、本部から支給されている魔道具でな。カードに記載されている情報を読み取ることができるんじゃ。不正防止や依頼の重複、犯罪歴なんかを調べるのによく使われておる。今回の目的はちぃっと違うがの。……さて、ミズキ君が受けたのは香草の採取依頼。時駆ける風の面々は深淵の中層近くで繁殖していた血濡狼(ブラッディウルフ)の駆除依頼で間違いはないかね?」



 手元にある水晶版の内容を読み上げながらギルマスが尋ねる。特に間違いはないため頷く。向こうも受けた以来の内容に間違いはなさそうだ。……というか、中層に近いところで血濡狼が繁殖していたなんて情報は

初耳だ。これからは、自分に近いランクの依頼だけじゃなくて、高ランク依頼も確認して情報を集めないといけないかもな。



 「そうよ。報告以上に群れが大きくなっていて大変だったわ。殲滅っていう依頼だったしね。なんとか終わらせて帰還途中にこいつの救援依頼があったから助けてあげたってわけ。依頼にも、救援の内容にも何の不備もないでしょう? なのに! なんで報告が受理されないのよ!」


 「あの、ちょっといいですか? 駆除と殲滅の違いっていうのは……?」


 「あぁ、駆除だとある程度間引けばいいんだけど、殲滅っていうのは文字通りいなくなるまで狩ることだね。血濡狼は手下の狼を自分と同じ血濡狼へと進化させて、際限なく群れを大きくしてしまうんだよ。だから、見つけた血濡狼ははすべて討伐する必要があるんだ。」


 「なるほど。ありがとうございます。あの……不躾な質問なんですが、殲滅したことって誰が確認しているんですか? ほら、逃げ出したり、見逃した個体がいたりとか……。」


 「はぁ!? あんったねぇ! あたしたちに喧嘩でも売ってる訳!? ちゃんと仲間が取り逃しの内容に索敵してるわよっ!」



 再び全てを言い終わる前に少女に邪魔をされる。こちらとしてはなるべく穏便に話をすすめようと思っているのに、話は遮るわ、怒鳴り散らすわ、睨みつけるわでやりたい放題だな。せめて人の話は最後まで聞けよ。喧嘩売ってきてるのはそっちの方だろう? こっちにも言い分があるんだけど、もうはっきり言っちゃってもいいよね?



 「……失礼ですが、ちょっと黙っててもらえます? あなたと話しているわけではないので。ソレ、初対面の人間に対してしていい態度じゃないですよ。ヒトの話は最後まで聞きましょうって習いませんでした?」


 「なっ……なっ……なんなのよあんたぁ! 生意気過ぎない!? 新人冒険者の分際で口が過ぎるのよっ!」


 「ローラっ! 言い過ぎだよ。今回は君が悪い。少し興奮しすぎ、頭冷やして? いいね?」


 「……っ! ……ふんっ! 好きにしたらっ!」



 ローラとかいう少女はそれでも噛みついてきたが、ロイドさんに一喝されえ黙り込んだ。こちらを睨みつけてくるのは変わらないが、暴言がないだけでも十分だ。ギルマスはまだカードのデータを確認しているようだし、先ほどから気になっていたことを聞いてみることにした。



 「……先ほど聞きそびれた事ですが、どうやって確認しているんです? 大きな群れで、しかも混戦ともなれば難しいのでは、と思うのですが。」


 「普通はそうだね。僕たちの場合は魔力探知に長けたメンバーが索敵しているし、討伐前後で血濡狼の数も確認しているから漏れはないと思うけど、絶対か。と言われれるとちょっと弱いかもね。でも、どうしてそんなことを?」


 「まぁ、そうですよね。助けていただいた事には、本当に感謝しています。あの時駆けつけていただけなかったら、僕は今ここに居ませんしね。ただ……俺を襲った血濡狼、実は手負いだったんじゃないかって思ってまして。手下も少なかったですし、傷も負ってましたしね。襲われた場所も深層に近い中層だったわけですし……。皆さんが受けた依頼の場所からそう離れてなさそうですし……ね? それでちょっと気になってしまって……。」



 「それは……本当かい?」



 俺が考えていた疑惑をロイドさんに伝えると、場の空気が一変したように感じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ