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 「……っ……ここは……? 知らない天井だ……。」



 目が覚めた俺は、一度は行ってみたかったセリフを呟いてみた。いや、本当に知らない部屋なんだけどね、ここ。重症だった左腕には包帯が丁寧に巻かれている。恐る恐る動かそうとしてみると、ピリッと鋭い痛みが走った。まだ動かすのは早かったか。周りをよく見てみようと身体を起こそうとするが、今度は思うように力が入らない。……あぁ、血を流しすぎて貧血なのか……。



 「っ! ミズキ様! 気が付かれましたか? 応急処置は済んでおりますが、どこかお身体に異常などはございますでしょうか!?」


 「タクト? ありがとう。君のおかげでなんとか命拾いしたよ。 まだ動けそうにないけどね。」



 俺が目覚めたのを察してか、タクトが声をかけてきた。今も心配そうに俺の周りを飛び回っている。今回は本当、タクトに助けてもらったようなものだ。



 「まだ痛みますか? 少々値は張りますが、この村の教会には癒師が滞在していると聞いております。癒術の依頼を出されますか?」


 「……イジュツ……?」



 タクトの問いにオウム返しをした俺を咎めることなく、タクトは丁寧に説明いてくれた。曰く、癒術とは魔術による治療の総称で、上位魔術に分類されるようだ。光とか聖の上位属性ともなると、部位欠損も癒す事ができるとか。

 ……なにそれすっごいファンタジー。ぜひ見たい、間近で見学したいっ! ということで、左腕の傷は癒術を使って治してもらうことにした。森で見た感じだとかなり抉れていたし、今後剣を握るのに支障があったら困るからな。



 「かしこまりました。シスターへ伝えてまいります。」



 そう言ってアクトはどこかへと飛んで行ってしまった。タクトの言動から察するに、ココは教会の1室、もしくは治療院とかいうところかもしれない。何にせよ、無事……ではないけれど、村に帰ってくることができて、本当に良かった。

 ベッドに横になりながら命のありがたみを噛み締めていると、部屋の扉がノックされて誰かが入室してきた。タクトも一緒なのを見ると、例の癒師だろうか。



 「どうも初めまして。癒師のリエドと申します。癒術での治療をご希望と伺いお邪魔したのですが、間違いありませんか?」


 「はじめまして。冒険者のミズキです。申し訳ありませんが、よろしくお願いします。」


 「あぁ、そんなにかしこまらないでください。私なんてまだまだ新人ですので……。でも、ミズキさんが決断してくださって本当に良かったです。今はまだ麻酔薬が効いているので痛みはないかと思いますが、左腕の状況は結構厳しくてですね……。目が覚めたら癒術の使用をお勧めしようと思っていたところなんです。このまま放置すると最悪切断もあり得ましたので……。」


 「そう……だったんですね。いや、ぜひお願いします。」



 どうやら俺の左腕はかなり危険な状態だったらしい。動かそうとさえしなければ、痛みを感じなかったのは麻酔薬のせいだったのか。衝撃の事実に冷や汗が流れる。リエドさんは癒術なら傷痕もなく治りますよ。と言っていたけれど、本当かな……。そんな超技術を使ってもらうとなると、値段の方もそれなりになるのでは……? と今度は別の意味で青くなっていると、ノエドさんから声がかかった。



 「それでは、早速始めますね。包帯を取ります。結構傷が酷いのでもし苦手なら左側は極力見ないようにしてください。」


 「お……お願いします。」



 ゆっくりと左腕を持ち上げて包帯を解いていく。左腕が露わになると……あぁ、これは酷いな。二の腕の肩から肘にかけて抉れた傷が2本縦についている。動脈に傷がついてなかったのが奇跡と思えるほどだ。包帯により圧迫が解けたからか、また傷口から血がじわじわと染み出してきている。



 「それでは行きます。リラックスしててくださいね。……『洗浄』……”わが君よ。彼のものを癒す力を我に貸し与えたまえ。わが魔力を対価として、ここに癒しの奇蹟を願わん。”彼のものの傷に癒しを……! ミドルヒール!」



 ノエドさんの詠唱に合わせて、両手から淡い光が俺の左腕へと注がれる。その光は左腕の傷へと集まっていき、徐々に腕が熱くなって来たところでその光は消えていった。光が消えた後には本当に傷痕すら残らず、以前と同じ左腕がそこにあった。



 「お疲れさまでした。これで治療は終了です。しかし、失った血液までは戻すことはできないので、2~3日は食事をしっかり摂って静養をお願いしますね?」


 「ありがとうございました。貴重な経験でした。」


 「いえいえ。あぁ、あとで説明されるとは思いますが、今回の癒術の代金は心配なさらなくて結構ですよ。お大事になさってください。」



 そう言ってノエドさんは部屋から出ていった。代金の心配はいらないってどういうことなんだろうか? とりあえずわからないことは置いておいて、治療の終了した左腕の様子を見てみる。動かし手見るが痛みは全くなく、引き攣れるような違和感もない。若干傷痕だった部分の皮膚の色が違う気もするが、ほとんど気のせいレベルだ。癒術っていうのはすごいもんだなぁ……。



 「治療はお済みになりましたか? 腕の調子はいかがでしょうか?」


 「ん、全く問題ないよ。ありがとうタクト。」



 不安げな様子でこちらを見守っていたタクトへそう返して安心させると、一転して土下座をせんばかりの勢いで謝り始めた。今回の事は俺の慢心が招いた出来事だと思っている。いくつか予兆はあったし、タクトは事前に注意喚起もしていた。タクトに非はないと思っている。


 「ううん。タクトのせいなんかじゃないよ。今回の事は俺の慢心が原因だと思ってる。タクトの忠告にも

耳を貸さずに、軽い気持ちで大丈夫って思いこんでたんだ。もう少し真剣に耳を傾けるべきだった。挙句に酷い怪我を負って、タクトにこんなに心配かけて……本当にごめん。」


 「しかし! ミズキ様の身を危険にさらしてしまいました。もっと強くご忠告差し上げれば……!」


 「うん、そうかもしれない。でも、最終的に行くって決めたのは僕だから。タクトは本当によくしてくれているよ。今回の事も、本当に助かった。ありがとう。」


 「……もったいないお言葉でございます。私も精進いたします。」



 日頃の事も含めて改めて感謝を伝えると、そう返ってきた。……本当に感謝しているのにな。と、そういえば俺を助けてくれた冒険者の人たちにもまだお礼を言ってないな。森の中で意識を失ったから、ここまでその人たちが運んでくれたんだろうし、しっかりとお礼をしなくては。



 「ところで、俺の救援に来てくれた人たちは誰なんだろう?」


 「はい、近くに居られた冒険者の方々でございます。詳しくは聞いている余裕がなかったので詳細までは……。どうやら狩りの帰りだったようで、快く引き受けてくださいました。」


 「ふぅん、そうだったのか。名前とかは聞けてないよね……。」



 タクトからお世話になった冒険者の情報を聞いていると、部屋の扉が規則正しくノックされた。返事をするといつぞやのシスターが入ってきた。



 「あらぁ? 起きていらして大丈夫ですかぁ? 治療で多少は回復されているとはいえ、かなりの出血量だったんですよ~? 体調の変化には気を付けてくださいねぇ? 少なくとも2日間は安静ですよ~。」


 「はい。ノエドさんにも言われました。2、3日はゆっくりと体調回復に努めようと思っています。」


 「それはいい事ですねぇ! あぁ、体調が戻ったら一度ギルドに顔を出してほしいと伝言を頼まれていたんでしたぁ。少しお話を聞きたいそうですよ~?」


 「わかりました。ありがとうございます。」


 「いえいえ~。今日は泊っていかれますかぁ?」


 「いえ、もう少し休んだら宿へと戻ろうと思います。それで……そのですね……。不躾ですが、治療費はいかほどに……?」


 「あら? お気になさらず~。もうギルドからいただいていますので~。詳しい話はギルドから聞いてくださいませぇ。」



 ギルドから支払われているだって? 冒険者の怪我は基本自己責任でギルドは介入しないはずなんだけどなぁ? あ、もしかして血濡狼(ブラッディウルフ)が手負いだった事と何か関係があったりして? ……厄介なことに巻き込まれてないといいけど……。そう思いながらベッドから立ち上がると少しふらついた。血が足りてないから仕方がないか。ゆっくりと移動をすれば大丈夫そうなので、再度シスターに礼をいってから教会をあとにした。



 /////////



 「ミズキ君! よかったぁ、無事だったんだね? もう、心配かけさせるんじゃないよっ!」



 宿に帰ってくるなりポーラさんに抱きしめられ、軽い説教を食らった。血濡れでぐったりしながら治療院に担ぎ込まれた姿を目撃して、とても心配していたらしい。ポーラさんから聞いて分かったのだが、担ぎ込まれてから1日が経過していたようだ。

 今回はいろいろな人に心配をかけてしまったらしい。もっと慎重に依頼を選ばないと駄目だな。もう慢心なんてしない……。



 「ミズキ君、今日はたくさん食べてゆっくりと休むんだよ? そしてあんまり無茶しないでおくれ。心臓がいくつあっても足りやしないよ。」


 「はい、ポーラさん。心配かけてしまってすみません。」


 「まぁ、こんな商売しているとさ。戻ってこない奴なんかも結構いるんだよ。別のところへ行って元気にやってるってんならいいんだけどね。この宿に泊まってる人は全員無事に帰ってきてほしいもんさ。あたしの心配くらいで無事に帰ってきてくれるなら儲けもんだよっ! さ、何が食べたいんだい?」



 普段よりも量の多い夕食を準備してくれた女将さんに礼を言う。もう変な心配はかけないようにしなくちゃな。まずは大量の回復を最優先に。ギルドはその後でも大丈夫かな。

 ポーラさんの夕食をゆっくりと食べて、その日は眠りについた。


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