表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルナティック_ワールド  作者: とめりあん
2/8

第一話 _ 莞爾

いつも通り暑い夏の日の、午前七時。

 私、『結城ゆうき 緋愛ひめ』は、淡い赤色のイヤホンを両耳に付け、地面に視線を落としたまま通学路を歩いていた。

 垂れてくる横髪を留めるヘアピンがズレる度に手を添えて戻し、を何度か繰り返しており、段々とイライラし始めている。

 毎日登下校中に流している淑やかなクラシック曲を聴いていると、1曲が終わった後に凄まじいギターの音が鼓膜を突き破る勢いで響いてきた。

「なっ…!?」

 突然の事に驚いて両耳のイヤホンを外し、声を上げる。

 しばらく立ち止まって考え込んでいると、謎のギター音の正体がじわじわと滲み出るように鮮明になってきた。

「アイツか…!!」

 唸っているかのような低い声が喉から捻り出てくる。

 またか。またやりやがったのか。

 片方のイヤホンを軽く耳に当て、曲を聴いてみる。…やっぱり、間違いない。

 この曲は弟が好きな曲で、五月蝿いくらいにギターが暴走するような忙しい曲だ。もちろん私は好きではない。むしろ嫌いまである。

 この前、弟の目の前で「この曲は苦手だ」と言ったら、弟は定期的に私のプレイリストをぐちゃぐちゃに掻き回して嫌がらせをしてくるようになった。

 何度も直しても何度も嫌がらせされる。これで何回目だろう。多分12回目だったと思う。

 その場の怒りに任せ、足元に転がる蝉の死骸を思い切り蹴飛ばす。と、その死骸が前を歩く男の人の背中に勢いよく当たった。

「はっ…!?わああああすみません!!」

 先程の『アイツか…』とはまるで違う、高い声で謝る。もちろん可愛子ぶってるとか、テンパってるとか、そういうのではない。

 私は昔から、知らない人や親しくない人と話す時は声が高くなってしまう癖があるのだ。

 それが癪に障って怒られるとかいう事も少なくないし、直そうとは思っている。思ってはいるんだけど、全くと言っていいほど上手くいかない。

 ぺこぺこと何度も頭を下げて謝っていると、「大丈夫ですよ」と穏やかな声が返ってきた。

「えっ?」

 大丈夫なわけが無い。バチン!と音がしても可笑しくないほど勢いよく当たってたし、そもそも私の身体能力から考えると背骨が折れてる可能性だって有り得る。証拠とまでは言えないが、背中に当たった蝉の死骸は粉々に砕け散っていた。

 下げていた頭を上げ、相手の顔を伺うように覗き込むと、相手はかなり怯えたような表情で私を見下ろしていた。でも、笑顔だ。ぎこちないけれど、笑顔を浮かべている。

「け、怪我もしてませんし…そんなに…謝る事じゃ、ないですよ」

 段々と声が弱々しくなってきた。さっきの穏やかな声は精一杯の平気なフリだったらしい。

「いやいやいや絶対大丈夫じゃないでしょ!!病院行った方がいいですよ!!」

「あああ本当に大丈夫!大丈夫ですから!!それに遅刻しちゃうし…!」

 『遅刻』と聞いて、我に返った私はやっと気がついた。目の前の男の人は私と同じ学校の制服を来ている。そして鞄に付けてある学校指定のストラップは赤色。二年生の指定色…つまり私と同級生だ。

「え、あ…貴方って紫音高校の二年生…です…よね」

 恐る恐る聞いてみると、今度は首を傾げられた。

「…はい、そうですけど。…あれ?君も赤色…」

 お互いに、お互いのストラップを見る。


 数秒の沈黙の後に出たのは、「はじめまして」という一言だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ